こんにちは。薬Talk編集長、薬剤師のNoriです。
最近、クービビックの処方を受けることが増えてきました。
不眠に悩む方は年々増えており、新しい治療薬への関心も高まっています。とはいえ、新薬って名前だけ先に広まって、具体的な特徴はよくわからない…ということ、ありませんか?
この記事では、2024年に登場した不眠症治療薬「クービビック(ボルノレキサント)」について、
現場の薬剤師目線でやさしく・わかりやすく解説します。
また、ベルソムラやデエビゴとの違い、服薬指導のポイントなど、実践に役立つ情報もまとめていますので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
クービビックとは?
項目 | 内容 |
---|---|
一般名 | ボルノレキサント(vornorexant) |
発売日 | 2024年11月(日本) |
製造販売元 | MSD株式会社 |
剤形 | 錠剤(10mg・20mg) |
適応症 | 不眠症 |
分類 | オレキシン受容体拮抗薬(DORA) |
クービビックは、脳の覚醒をコントロールする「オレキシン」という物質の働きをブロックすることで、
自然な眠りを促す薬です。いわゆる「眠気を起こす」のではなく、「起き続ける信号を止める」というアプローチが特徴です。
作用機序:オレキシンをブロックして“自然な眠気”へ
人は起きているあいだ、「オレキシン」という神経伝達物質が働いています。これは“覚醒ホルモン”とも呼ばれ、眠気を遠ざける作用があります。
クービビックはこのオレキシンの受容体に結合してブロックし、自然な睡眠へと導いてくれます。
このタイプの薬は「DORA(Dual Orexin Receptor Antagonist)」と呼ばれ、クービビックは日本で3番目のDORA製剤です。
用法・用量
- 通常、成人は1日1回、就寝直前に経口投与
- 初期は10mgが一般的。必要に応じて20mgに増量されることもあります。
- 食事の影響は少ないものの、服用後はすぐ就寝することが推奨されています。
副作用と注意点
副作用 | 説明 |
---|---|
傾眠 | 翌朝まで眠気が残る場合あり。特に高齢者は注意。 |
めまい・ふらつき | 夜間の転倒リスクがあるため、トイレなどは事前に済ませることが望ましい。 |
異常な夢・悪夢 | レム睡眠の変化が影響する可能性があります。 |
幻覚・健忘 | まれですが報告あり。精神疾患歴や併用薬の影響も考慮。 |
特に高齢の方や他の中枢神経系薬剤を使用している方では、慎重な投与が求められます。
相互作用に注意したい薬剤
クービビックは主にCYP3A酵素で代謝されるため、CYP3Aを強く阻害・誘導する薬との併用には注意が必要です。
禁忌・併用注意の例:
- イトラコナゾール(CYP3A強力阻害薬)
- リファンピシン(CYP3A誘導薬)
- 抗てんかん薬(カルバマゼピンなど)
- 一部のマクロライド系抗菌薬(クラリスロマイシンなど)
併用薬がある場合は、薬歴・処方歴をしっかり確認しておきましょう。
ベルソムラ・デエビゴとの違い【一覧表で比較】
項目 | クービビック | ベルソムラ | デエビゴ |
---|---|---|---|
発売年 | 2024年 | 2014年 | 2020年 |
半減期 | 約11時間 | 約12時間 | 約17時間 |
入眠効果 | 高い | やや低い | 高い |
途中覚醒の抑制 | 高い | 中程度 | 高い |
相互作用の多さ | 少なめ | 多め | 中程度 |
特徴 | 自然な入眠、翌朝の残り感が少ない | 入眠に時間がかかる人向け | 睡眠維持効果が高い |
どんな患者さんに向いている?
✅ 向いているケース:
- 入眠だけでなく途中覚醒にも悩んでいる
- ベンゾジアゼピン系やZ薬で翌日のふらつきや依存が気になった
- 日中活動量の高い現役世代や高齢者で残存効果を避けたい
❌ 注意が必要なケース:
- 重度の肝障害のある方
- 朝早くから車の運転などの予定がある方
- 多剤併用(特にCYP3Aに影響を与える薬)がある場合
生活指導のポイント
- 就寝前に必ず服用。服用後は速やかに就寝。
- 翌朝は眠気や注意力低下が残る可能性あり。運転や機械操作は控える。
- 飲酒は避ける(眠気の増強、異常行動のリスク増)。
- 初回服用時は休日などで様子を見るのも◎。
まとめ:選択肢が広がる不眠治療の中での「第三の選択肢」
クービビックは、従来の睡眠薬では対応しづらかった「自然な眠り」と「翌朝の爽快感」の両立に配慮された薬です。
患者さんの悩みや生活スタイルに合わせて、より適した治療選択ができるようになってきました。
睡眠薬=怖いもの、という先入観を少しでもやわらげながら、適切な情報提供をしていきたいですね。