執筆:Nori(薬Talk編集長・薬剤師)/調剤薬局勤務26年。管理薬剤師を経て、現在はチェーン薬局の本社部門で店舗運営支援を担当しています。
本サイトは、薬剤師をはじめとする医療従事者向けの情報提供サイトです。記載内容は告示・通知・添付文書などの原文を確認したうえでまとめています。一般の方が医薬品の使用を判断される際は、必ず医師・薬剤師にご相談ください。
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会話を録音すると、数十秒でSOAPが出てきます。読める文章です。では、それをそのまま確定ボタンで薬歴にしてよいのか。
答えは通知とガイドラインに書かれていました。しかもAIという言葉は一度も出てきません。出てくるのは「画一的に記載するのではなく」と「内容の確認を行わずに確定操作を行ってはならない」です。
まず、実際にどう出てきたか
試しに、投薬のやり取りを録音しました。内容はこれだけです。
患者「昨日から咳と鼻水が出ています。熱はないです。今飲んでいる薬はないです。以前もらったカロナールが残っています。」
薬剤師「咳止めと鼻炎の薬は眠気が出ることがありますので、車の運転には注意してください。発熱したら残っているカロナールを使用してください。5時間くらい間隔をあけてください。症状が悪化するようなら再受診してください。」
数十秒でSOAPが出ました。下書きとしては、正直よくできています。ゼロから書くより、出てきた文を直すほうが速い。ここは素直にそう思いました。
問題は、その先です。この出力は、薬歴として要求されている項目を満たしているのか。満たしていない部分はどこか。それを確かめるには、まず「何を書けと言われているか」を見る必要があります。

薬歴に書くことは、通知に11項目が列挙されている
根拠は調剤報酬点数表の留意事項通知、薬学管理料の通則(4)です。薬剤師法第28条の調剤録から説き起こしているのが、まず読みどころです。
薬学管理等の実施に当たっては、薬剤師法第28条で規定される調剤録において情報の提供及び指導の内容の要点等の記入が義務づけられていることから、必要事項等が記録されている薬剤服用歴等を作成すること。薬剤服用歴等は同一患者についての全ての記録が必要に応じ直ちに参照できるよう患者ごとに保存及び管理するものであり、オンライン資格確認等システムを通じて取得した患者の診療情報、薬剤情報等を含めて、次の事項等を記載すること。
その「次の事項」が、これです。項目を数えると11あります(ア〜オの5区分。ウが(イ)〜(ト)の7つに分かれます)。
| 区分 | 記載することとされている事項(原文) |
|---|---|
| ア | 患者の基礎情報(氏名、生年月日、性別、被保険者証の記号番号、住所、必要に応じて緊急連絡先) |
| イ | 処方及び調剤内容等(処方した保険医療機関名、処方医氏名、処方日、調剤日、調剤した薬剤、処方内容に関する照会の要点等) |
| ウ(イ) | 患者の体質(アレルギー歴、副作用歴等を含む。)、薬学的管理に必要な患者の生活像及び後発医薬品の使用に関する患者の意向 |
| ウ(ロ) | 疾患に関する情報(既往歴、合併症及び他科受診において加療中の疾患に関するものを含む。) |
| ウ(ハ) | 併用薬(要指導医薬品、一般用医薬品、医薬部外品及び健康食品を含む。)等の状況及び服用薬と相互作用が認められる飲食物の摂取状況 |
| ウ(ニ) | 服薬状況 |
| ウ(ホ) | 残薬状況(残薬がないときは、その旨を記載すること。) |
| ウ(ヘ) | 患者の服薬中の体調の変化(副作用が疑われる症状など)及び患者又はその家族等からの相談事項の要点 |
| ウ(ト) | 手帳活用の有無(手帳を活用しなかった場合はその理由と患者への指導の有無。また、複数の手帳を所有しており1冊にまとめなかった場合は、その理由) |
| エ | 今後の継続的な薬学的管理及び指導の留意点 |
| オ | 指導した保険薬剤師の氏名 |
この一覧を、さきほどの録音と突き合わせてみてください。会話に出てこなかった項目のほうが多いはずです。
ウ(ホ)の「残薬がないときは、その旨を記載すること」が分かりやすい例です。患者が残薬の話をしなければ、録音には何も残りません。でも通知は「ないと書け」と言っています。録音に入っていない情報を、AIが書けるはずがない。
ウ(ト)の手帳も同じです。「活用しなかった場合はその理由」まで求められています。これは会話ではなく、薬剤師の判断の記録です。
「画一的に記載するのではなく」——この一文が効いてくる
通則(5)に、記載の仕方そのものへの指示があります。AI薬歴を使うなら、ここが一番重要です。
薬剤服用歴等の記載に当たっては、患者から収集した情報、相談事項及び患者への指導内容を単に全て記載するのではなく、その要点を記載することで差し支えないが、指導後速やかに記載を完了させること。また、定型文を用いて画一的に記載するのではなく、指導等を行った保険薬剤師が必要事項を判断して記載すること。特に、薬学管理料やその加算を算定する場合には、その根拠及び指導内容等について簡潔に記載すること。
ここには3つの縛りが入っています。
- 全部書くな、要点を書け。——録音の文字起こしをそのまま貼るのは、この逆方向です
- 指導後速やかに。——「あとでまとめて書く」は、そもそも通知が想定していません
- 画一的に書くな。薬剤師が必要事項を判断しろ。——ここが、AIの出力をそのまま確定することへの直接の答えです
3つ目について、少し補足します。AIの出力は、構造上どうしても似た形になります。同じ薬で同じような会話なら、同じような文章が出る。それは通知が名指しで避けろと言っている「定型文を用いて画一的に記載する」状態に近づきます。
しかも通知は「指導等を行った保険薬剤師が必要事項を判断して記載すること」と、主語を薬剤師に固定しています。判断する主体は動かせません。
加算を取る場合はさらに具体的で、「その根拠及び指導内容等について簡潔に記載すること」とあります。根拠を書くのは判断そのものですから、ここはAIが埋められる部分ではありません。
確定するのは薬剤師|安全管理ガイドラインの「代行入力」
もう一つ、電子薬歴そのものに掛かるルールがあります。医療情報システムの安全管理に関するガイドラインです。最新は第7.0版(令和8年6月)。
ここに、AIを想定していないのに、AI薬歴にそのまま当てはまる規定があります。「代行入力」の項です。
(5) 代行入力が行われた場合には、誰の代行がいつ誰によって行われたかの管理情報を、代行入力の都度記録すること。
(6) 代行入力により記録された診療録等は、できるだけ速やかに確定者による「確定操作(承認)」が行われるようにすること。この際、内容の確認を行わずに確定操作を行ってはならない。
同じガイドラインは、責任の所在についてもこう書いています。
作成責任の所在を明確にすることも求められる。入力者及び確定者について、識別、認証を適切に行うとともに、記録の確定、識別情報の付与及び更新履歴の保存のための措置を講じること。なお、代行入力を行う場合には、入力者と確定者の責任関係が明確となるよう、識別及び認証の方法に留意すること。
AIによる下書き生成は、法令上の「代行入力」そのものではありません。ただし構造は同じです。誰かが下書きを作り、薬剤師が確定する。
そして「内容の確認を行わずに確定操作を行ってはならない」は、代行者が人でも機械でも変わらない要求です。読まずに確定を押した時点で、要件を外しています。
導入前に確認すべきことも、ここから決まります。
- 確定者の識別情報と確定日時が記録に残るか。ガイドラインは「入力者及び確定者の氏名等の識別情報、信頼できる時刻源を用いた作成日時を含む」ことを求めています
- 確定前に内容を十分に確認できる画面になっているか。「『記録の確定』を行うに当たり、内容を十分に確認できる」が要件です
- 一旦確定したあと直した場合、更新履歴が残るか。「更新前と更新後の内容を照らし合わせることができる」「更新の順序性が識別できる」
- 一定時間で自動確定する仕様になっていないか。その運用にするなら「入力者及び確定者を特定する明確なルールを運用管理規程に定める」必要があります
録音は「音声」であり、中身は「病歴」です
録音そのものについても、条文を確認しておきます。個人情報保護法の定義に、音声がはっきり書かれています。
当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等(文書、図画若しくは電磁的記録……に記載され、若しくは記録され、又は音声、動作その他の方法を用いて表された一切の事項(個人識別符号を除く。)をいう。……)により特定の個人を識別することができるもの
そして投薬時の会話の中身は、たいてい病名や症状です。
第2条第3項 この法律において「要配慮個人情報」とは、本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するものとして政令で定める記述等が含まれる個人情報をいう。
第20条第2項 個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、要配慮個人情報を取得してはならない。
薬局が診療の目的で患者から直接聞き取ること自体は、日常業務として行われています。論点は「聞く」ことではなく、「録って、外部のサービスに渡す」ことのほうです。
クラウド型のAI薬歴を使うなら、第25条が効いてきます。
個人情報取扱事業者は、個人データの取扱いの全部又は一部を委託する場合は、その取扱いを委託された個人データの安全管理が図られるよう、委託を受けた者に対する必要かつ適切な監督を行わなければならない。
安全管理ガイドラインの側も、同じことを別の言葉で要求しています。
① 医療機関等において生じる責任の内容を踏まえて、委託先事業者その他の関係者との間で責任分界に関する取決めを行うこと。また、重要な委託等に関する責任分界については、取決めに当たり、事前に経営層の承認を得ること。
④ 委託先事業者等と責任分界の取決めを行う際には、委託先事業者が提供する医療情報システム・サービスの内容を踏まえて、安全管理に関する役割分担についても取り決めること。
つまり、「AIベンダーがやってくれる」で終わらせられないということです。どこまでがベンダーで、どこからが薬局か。それを契約で決めておくのは薬局側の遵守事項として書かれています。
保存期間は3年。ただし令和9年5月20日から調剤録は5年になります
薬剤服用歴等の保存は、留意事項通知にこうあります。
薬剤服用歴等の保存については、最終記入日から起算して3年間保存すること。
一方、通則(4)が「調剤録において……記入が義務づけられていることから」と書いているとおり、薬歴は薬剤師法第28条の調剤録と地続きです。そしてその調剤録の保存期間が、改正されています。
| 条文 | 現行 | 改正後 |
|---|---|---|
| 薬剤師法 第27条(調剤済みとなった処方箋) | 調剤済みとなつた日から三年間 | 調剤済みとなつた日から五年間 |
| 薬剤師法 第28条第3項(調剤録) | 最終の記入の日から三年間 | 最終の記入の日から五年間 |
| 薬機法施行規則 第15条の14の3第2項(情報提供・指導の記録) | その記載の日から三年間 | 最終の記載の日から五年間 |
| 薬担規則 第6条(処方箋等の保存) | その完結の日から三年間 | その完結の日から五年間 |
施行日は令和9年5月20日です。令和7年法律第37号の附則第1条第3号に掲げる規定の施行期日として、令和8年政令第209号(令和8年6月24日公布)が定めました。同じ号には、調剤業務の一部外部委託も入っています。
薬担規則第6条まで5年に伸びます。薬歴は薬担規則の「調剤録」と地続きで運用されているので、ここは実務に直撃します。(施行規則・薬担規則の改正は、令和8年厚生労働省令第142号(令和8年9月30日公布)で確定しています。)
電子薬歴を選ぶときの条件が、ここで1つ増えます。5年分を検索して取り出せるか。移行やサービス終了時にデータをどう引き上げるかも含めて、契約前に聞いておく項目です。
それで、AI薬歴は使うべきなのか
使います。ただし役割をはっきりさせたうえで、です。
| 工程 | 任せられるか | 根拠 |
|---|---|---|
| 会話の文字起こし | 任せられる | 記録の材料をつくる工程。通知は記載の主体を薬剤師に置いているが、材料の作成までは縛っていない |
| 下書きの生成 | 任せられる | 同上。ただし出力は「要点を記載する」形に直す必要がある(通則(5)) |
| 項目の抜けの補完 | 任せられない | 残薬なし・手帳不使用の理由など、会話に出ない項目は録音に入っていない(通則(4)ウ) |
| 算定根拠の記載 | 任せられない | 「その根拠及び指導内容等について簡潔に記載すること」(通則(5)) |
| 内容の確認と確定 | 任せられない | 「内容の確認を行わずに確定操作を行ってはならない」(安全管理ガイドライン第7.0版) |
この線引きで使うなら、AI薬歴は単純に速い。ゼロから書く時間が、確認して直す時間に変わります。
逆に、出てきた文をそのまま確定する運用にした瞬間、通知とガイドラインの両方を外します。楽になった気がするだけで、記録としては薄くなる。個別指導で見られるのは、まさにそこです。
まとめ
- 薬歴に書くことは留意事項通知に11項目が列挙されている(第2 薬学管理料 通則(4))。会話に出てこない項目のほうが多い
- 「残薬がないときは、その旨を記載すること」「手帳を活用しなかった場合はその理由」——録音に入っていない情報は、AIには書けない
- 通則(5)は「定型文を用いて画一的に記載するのではなく、指導等を行った保険薬剤師が必要事項を判断して記載すること」と、主語を薬剤師に固定している
- 同じく通則(5)の「指導後速やかに記載を完了させること」。あとでまとめて書く運用は、通知が想定していない
- 安全管理ガイドライン第7.0版は代行入力について「内容の確認を行わずに確定操作を行ってはならない」と明記。代行者が人でも機械でも同じ
- 録音は個人情報保護法第2条第1項第1号の「音声」にあたり、中身は同条第3項の「病歴」=要配慮個人情報。クラウドに渡すなら第25条の委託先の監督と、ガイドラインの責任分界の取決めが要る
- 薬歴の保存は3年。ただし令和9年5月20日から、薬剤師法第27条・第28条第3項の保存期間が5年になる(令和8年政令第209号)
- 文字起こしと下書きは任せられる。抜けの補完・算定根拠・確定は任せられない
AI薬歴を導入して変わったのは、書く時間ではなく読む時間でした。出てきた文を読んで、足りない項目を足して、確定する。それをやっている限り、AI薬歴は戦力です。
出典
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について 調剤報酬点数表に関する事項」(保医発0305第6号 別添3)第2 薬学管理料 通則(4)(5)(6)
- e-Gov法令検索「薬剤師法」(昭和35年法律第146号)第27条、第28条
- 厚生労働省「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律の公布について」(令和7年5月21日 医薬発0521第1号・産情発0521第4号)Ⅳ 薬剤師法の一部改正
- e-Gov法令検索「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律の一部の施行期日を定める政令」(令和8年政令第209号)
- 厚生労働省「薬機法等改正に伴う保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則等の所要の見直しについて」(令和8年9月9日 中医協 総-5-2 補足資料)
- e-Gov法令検索「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う厚生労働省関係省令の整備等に関する省令」(令和8年厚生労働省令第142号)
- 厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第7.0版(システム運用編)」(令和8年6月)
- 厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第7.0版(企画管理編)」(令和8年5月)2.責任分界
- e-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律」(平成15年法律第57号)第2条、第20条、第25条
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