執筆:Nori(薬Talk編集長・薬剤師)/調剤薬局勤務26年。管理薬剤師を経て、現在はチェーン薬局の本社部門で店舗運営支援を担当しています。
「在宅にも力を入れています」——求人票でいちばんよく見て、いちばん実態と離れやすい一文です。「これから始めたい」も「月200件」も、同じ文章で書けてしまう。
この記事では、在宅未経験の薬剤師が転職先を選ぶときに、何を見れば実態が分かるかを整理します。
2026年度改定で「設備」から「実績」へ変わった
これまでの在宅薬学総合体制加算は、設備を持っていることが要件に含まれていました。2026年度改定で、その考え方が変わります。
- 設備要件が廃止され、実績主義へ完全に移行
- 「施設中心」から「個人宅中心」への転換
- 点数が大幅に引き上げられた
転職を考える側にとって、これは好材料です。設備は買えば揃いますが、実績は積まないと出ません。届出があるということは、実際に件数をこなしているという意味になりました。
加算1と加算2は、まったく別の世界
| 在宅薬学総合体制加算1 | 在宅薬学総合体制加算2 | |
|---|---|---|
| 点数 | 30点(改定前15点から倍増) | イ 個人宅100点(2倍)/ロ 施設50点(据え置き) |
| 在宅の実績 | 年48回以上(改定前24回から倍増) | 個人宅で年240回以上、かつ個人宅の割合2割以上 |
| 無菌製剤処理 | — | 算定実績が年1回以上 |
| 小児在宅 | — | 年6回以上の体制 |
加算1は「在宅をやっている薬局」、加算2は「ターミナル期や小児にも対応している薬局」です。求められるものが違います。
数字で見ると差は明白です。加算1が年48回(月4回)なのに対し、加算2は個人宅だけで年240回(月20回)。5倍の開きがあります。
そして加算2には、無菌製剤処理と小児在宅という別種のハードルが入ります。これは件数を積めば届くものではなく、設備・研修・連携先が要る領域です。
未経験なら、加算1の薬局から入るほうがいい
ここは私見が入りますが、数字から言えることがあります。
| 届出の状況 | 未経験者から見た評価 |
|---|---|
| 在宅の届出なし | 「これから」の段階。立ち上げに関わりたいなら別だが、教わる相手がいない |
| 加算1あり(年48回以上) | 未経験の入口として適切。月4件以上の実績があり、教える側もいる |
| 加算2あり(年240回以上・小児・無菌) | 本格的。学べることは多いが、いきなり戦力を求められる可能性が高い |
加算2の薬局は、月20件の個人宅とターミナル・小児・無菌をこなしています。そこに未経験で入るなら、教育体制が実在するかを具体的に確認してください。「先輩が教えます」では足りません。同行訪問が何回あるのかを聞くべきです。
「個人宅か施設か」で仕事の中身が変わる
2026年度改定でいちばん大きいのが、個人宅と施設の評価差です。
| 点数 | 改定前からの変化 | |
|---|---|---|
| 加算2 イ(個人宅) | 100点 | 2倍に増点 |
| 加算2 ロ(施設) | 50点 | 据え置き |
国は、施設をまとめて回る在宅ではなく、個人宅を1軒ずつ訪問する在宅を評価する方向に舵を切りました。
働く側から見ると、この2つは仕事の質がまるで違います。
| 施設在宅 | 個人宅在宅 | |
|---|---|---|
| 移動 | 1か所で複数人。効率がよい | 1軒ずつ。移動時間が長い |
| 対応 | 看護師や施設職員が間に入る | 患者・家族と直接向き合う |
| 難易度 | 比較的そろえやすい | 個別性が高い。判断を求められる |
| 評価 | 50点 | 100点 |
「在宅をやりたい」と思ったとき、自分がどちらを想像しているかは確認しておいたほうがいいです。施設在宅を想像して個人宅中心の薬局に入ると、想定と違うことになります。逆もまた然りです。
人員体制の要件から、職場の実態が読める
在宅薬学総合体制加算には、人員の要件もあります。
- 常勤換算で3名以上の保険薬剤師が勤務していること
- 開局時間中は原則2名以上の薬剤師が常駐していること
これは在宅未経験者にとって重要な意味を持ちます。
在宅訪問に出ている間、薬局には誰かが残っていなければなりません。常勤換算3名・常時2名という要件は、「1人が出ても店が回る体制」を求めているということです。
逆に言えば、この要件を満たしていない薬局が「在宅もやります」と言っている場合、誰かが無理をして出ている可能性があります。未経験で入って、いきなりその役を振られると苦しくなります。
夜間・休日の連絡体制が要件になった
点数や件数の話より、働き方に直接効くのがここです。
2026年6月1日施行の改定で、在宅患者訪問薬剤管理指導料の要件が見直され、夜間・休日の連絡体制の整備と、患者・家族への説明が求められるようになりました。
在宅は、日中の訪問だけで完結しません。患者さんの状態は夜間も休日も変わります。連絡体制が要件に入ったということは、その薬局に入れば、何らかの形でその体制に組み込まれるということです。
ここは求人票にまず書かれません。面接で必ず聞いてください。
- 夜間・休日の連絡は、誰がどう受けているのか——管理薬剤師だけか、輪番か
- 月に何回、当番が回ってくるのか
- 実際に電話が鳴る頻度はどのくらいか——体制があることと、鳴ることは別
- 手当は出るのか、出るならいくらか
- 未経験のうちから当番に入るのか
「在宅がやりたい」と「夜間対応も引き受ける」は別の話です。前者だけのつもりで入ると、生活が変わります。
訪問の間隔と、複数名での訪問
同じ改定で、訪問の回し方も変わりました。
| 改定前 | 2026年6月〜 | |
|---|---|---|
| 算定の間隔 | 中6日以上 | 週1回に見直し |
| 複数名での訪問 | — | 複数名薬剤管理指導訪問料を新設 |
間隔の見直しは、訪問頻度を上げやすくする方向の変更です。状態が不安定な患者さんに柔軟に入れる一方、薬局側の訪問件数は増え得ます。
そして複数名薬剤管理指導訪問料の新設は、未経験者にとって追い風です。2人で訪問することが評価されるようになったので、同行訪問を組みやすくなりました。
面接で「同行は何回ありますか」と聞いたときに、「複数名訪問で対応しています」と返ってくる薬局は、制度を使って教育を回していると読めます。
面接で聞くべき6つ
届出を先に調べておけば、質問が具体的になります。
- 「在宅薬学総合体制加算は1ですか2ですか」——届出の有無と区分。答えられない管理者は要注意
- 「個人宅と施設の比率はどのくらいですか」——2026年度改定の核心。仕事の中身が変わる
- 「月の訪問件数は何件ですか」——年48回と年240回では別世界
- 「未経験者の同行訪問は何回ありますか」——「先輩が教えます」の中身を数字で聞く
- 「訪問中、薬局には何人残りますか」——常勤換算3名・常時2名の要件が実際に回っているか
- 「夜間・休日の連絡当番は月に何回ですか」——2026年6月から連絡体制が要件。生活が変わる部分
未経験者が最初につまずくところ
調剤室での仕事と、在宅の仕事は別物です。技術的に難しいというより、段取りと判断の種類が違います。
| 外来(調剤室) | 在宅(訪問) | |
|---|---|---|
| 持ち物 | 薬局にすべてある | 足りないものは取りに戻れない。準備がすべて |
| 時間 | 患者が来る | 移動時間が業務時間を占める。1日の設計が要る |
| 相手 | 患者本人 | 患者・家族・ケアマネ・訪問看護・医師。多職種 |
| 記録 | 薬歴 | 薬歴に加えて医師への報告書 |
| 判断 | 疑義照会して待てる | その場で判断を求められる場面がある |
とくに報告書は、外来にはない仕事です。訪問して終わりではなく、医師に何を伝えるかまでが業務になります。ここに時間を取られて残業が増える、というのは未経験者からよく聞く話です。
面接では「報告書は誰が、いつ書いていますか」まで聞いておくと、実態が見えます。訪問した薬剤師が全部書くのか、テンプレートがあるのか、時間内に書けているのか。
もうひとつ、「取りに戻れない」の重さは経験しないと分かりません。一包化の間違い、日数の不足、必要な医療材料の入れ忘れ——調剤室なら30秒で直せることが、在宅では往復1時間になります。だから在宅の薬局は、出発前の確認手順を持っています。
その手順が文書化されているかどうかは、教育体制の有無をよく表します。「見て覚えて」の薬局と、チェックリストがある薬局では、未経験者の立ち上がりがまったく違います。
届出は地方厚生局で確認できる
ここまでの内容は、面接前に自分で調べられます。
各地方厚生局が施設基準の届出受理状況を公表しており、薬局名で検索できます。確認できるのは次のようなものです。
- 在宅患者訪問薬剤管理指導の届出
- 在宅薬学総合体制加算(1か2か)
- 無菌製剤処理加算
- 地域支援・医薬品供給対応体制加算
- 調剤基本料の区分
求人票の文章は書き手が自由に書けますが、届出は書き換えられません。「在宅に力を入れています」と書いてあって届出がなければ、それは意欲の表明であって実績ではないということです。
転職前チェックリスト
- ◻️ 地方厚生局で、在宅薬学総合体制加算の届出(1か2か)を確認した
- ◻️ 無菌製剤処理加算の届出も見た——加算2の要件のひとつ
- ◻️ 個人宅と施設の比率を聞いた——2026年度改定で評価が2倍違う
- ◻️ 月の訪問件数を数字で聞いた
- ◻️ 同行訪問の回数を確認した——未経験者への教育が実在するか
- ◻️ 訪問中の薬局の人員を確認した——常勤換算3名・常時2名が回っているか
- ◻️ 夜間・休日の連絡当番の回数と手当を確認した
- ◻️ 医師への報告書を誰がいつ書いているか聞いた——外来にはない業務で、残業の原因になりやすい
- ◻️ 自分が想像している在宅(施設か個人宅か)と、その薬局の在宅が一致しているか確かめた
在宅は「やっているか」ではなく「何をどれだけか」
2026年度改定は、在宅の評価軸をはっきりさせました。
- 設備ではなく実績で評価する(設備要件は廃止)
- 施設より個人宅を評価する(100点と50点)
- 加算1も年24回から48回へ引き上げ。ハードルは上がっている
つまり「在宅をやっています」という言葉の重みが、以前より増しました。届出を維持するには、実績を出し続ける必要があるからです。
未経験から在宅に入るなら、「やっているか」ではなく「何を、どれだけやっているか」で選んでください。その答えは、求人票ではなく届出と数字にあります。

