執筆:Nori(薬Talk編集長・薬剤師)/調剤薬局勤務26年。管理薬剤師を経て、現在はチェーン薬局の本社部門で店舗運営支援を担当しています。
薬局の接遇シリーズ 第2回。今回は「毎回マイナ保険証を出すの?」への向き合い方です。
制度が変わったことより、現場がしんどいのはここだと思います。
「先週も来たじゃない」「前は月1回でよかったのに」「顔を撮られるのが嫌」——一定数、必ずいます。そして正面から説明しようとするほど、空気が悪くなる。
この記事では、断りの言葉ひとつひとつに対して、厚生労働省の公表資料で裏が取れる答えを用意しました。そのまま窓口で言える形にしてあります。
なぜ嫌がられるのか
先に構造を押さえておくと、対応がぶれません。嫌がる理由は、だいたい3つに分かれます。
- 手間が増えたと感じている——以前は保険証を出すだけ、しかも月1回だった
- うまくできない不安がある——暗証番号、カメラ、機械の操作。人前で失敗するのが嫌
- 情報を見られる不安がある——マイナンバー、薬の履歴、顔写真
この3つは、必要な答えがまったく違います。①には理由を、②には代替手段を、③には事実を返す。ここを取り違えると噛み合いません。
そして①と②は、実は「面倒だ」の一言で表に出てきます。本当は暗証番号が不安なのに「毎回いらないでしょ」と言う人がいる、ということです。
まず、「毎回」の根拠を1文で言えるようにする
厚生労働省・社会保険診療報酬支払基金の「マイナ保険証・資格確認書の受付時のチェックリスト」の冒頭に、明記されています。
令和7年12月1日をもって、従来の健康保険証の有効期限は満了しました。医療機関・薬局の窓口では、マイナ保険証又は資格確認書で資格確認を行ってください。なお、資格確認は、各月の初回のみに行うのではなく、受診の都度行うことが原則ですのでご留意ください。
ただし、「原則そうなっているので」は患者さんに刺さりません。必要なのは「なぜ都度なのか」です。
同じチェックリストの、資格確認書についての項目にヒントがあります。
患者が資格確認書を提示した場合も、オンライン資格確認等システムに照会することで、保険資格の有効性を確認でき、資格喪失後の受診を防ぐことができます。
これが答えです。保険資格は月の途中でも変わります。転職、退職、扶養から外れる、後期高齢者医療に移る——本人が「変わっていない」と思っていても、実際には切り替わっていることがある。
そして資格が切れていることに気づかずに受診すると、後から医療費を請求されるのは患者さん自身です。
だからこう言えます。
「保険が変わっていないかを確認するために、毎回お願いしています。もし切り替わっているのに気づかないと、後から医療費をお返しいただくことになってしまうので、そうならないための確認なんです」
「決まりだから」ではなく「あなたが損しないため」——同じ事実を、患者さんの側から言い直しただけです。これで納得される割合はかなり変わります。
言われることベスト10と、そのまま使える返し方
実際に窓口で出てくる言葉ごとに整理します。右の「根拠」は厚生労働省の公表資料です。スタッフが「これは本当なんだ」と確信を持って言えることが、そのまま伝わり方に出ます。
① 「先週も来たのに、また?」
「そうですよね、続けて来ていただいているのに申し訳ないです。保険の内容が変わっていないかを見るための確認で、月の途中でも切り替わることがあるんです。10秒ほどで終わりますのでお願いできますか」
ポイントは、先に「申し訳ない」と手間を認めること。そのうえで理由と所要時間を言う。「10秒」「すぐ終わります」という時間の提示は効きます。
② 「前は月1回でよかったでしょ」
「はい、以前の保険証のときはそういう運用でした。今は受診のたびに確認するのが原則に変わっています。ご不便をおかけしますが、その分限度額の手続きなどが自動でできるようになっています」
「変わりました」で終わらせず、代わりに得たものを添える。次の項目につながります。
③ 「面倒くさい。何のメリットがあるの」
厚生労働省のQ&A(Q1)に、患者さんにとって最もわかりやすいメリットが挙げられています。
医療機関・薬局の窓口で高額な医療費が発生した場合に、限度額適用認定証の発行を申請しなくとも、外来の窓口で限度額を超える支払の免除が受けられる
「お薬代が高額になったときに、これまでは役所に『限度額適用認定証』を申請しないといけなかったんです。マイナ保険証だと、その申請なしで窓口の負担が自動で上限までになります。手続きに行かなくて済むぶん、こちらのほうが楽なんですよ」
抽象的な「医療の質が上がる」ではなく、「役所に行かずに済む」という具体で言うほうが伝わります。
④ 「顔を撮られるのが嫌」
これは事実で返せます。Q&AのQ25です。
顔認証付きカードリーダーがご本人様の顔を撮影します。ただし、マイナンバーカードのICチップ内に保存されている顔画像と、顔認証付きカードリーダーが撮影した顔画像が同一人であるかどうかを確認した後に撮影画像のデータは即時削除される
「撮った写真はその場で消えます。カードの中の写真と同じ人かどうかを照らし合わせるためだけに使われて、保存はされないんです。もちろん顔認証を使わずに、職員が目で確認する方法もありますので、そちらでもかまいませんよ」
事実を伝えたうえで、必ず「別の方法もある」と添える。選べると分かった時点で、抵抗はかなり下がります。
⑤ 「マイナンバーを見られたくない」「情報を抜かれそう」
Q12とQ14が明確です。
マイナンバーカードにはプライバシー性の高い情報(医療情報、税や年金など)は入っていません。また、カード裏面のマイナンバー(12桁)を知られただけでは悪用されません。(Q12)
医療機関・薬局がマイナンバー(12桁の番号)を取り扱うことはありません。(Q14)
「私たちがマイナンバーの番号を扱うことはありません。カードの中にも、税金や年金の情報は入っていないんです。読み取っているのは、保険の資格が有効かどうかだけです」
「読み取っているのは資格だけ」——この一言が最も効きます。漠然とした不安に、範囲を示して答えているからです。
⑥ 「薬の履歴を見られたくない」
ここは「見られません」と言ってはいけないところです。正確には「見せるかどうかを患者さんが選ぶ」。Q27にこうあります。
本人確認後、医師・薬剤師等に提供する医療情報等について同意選択をします。
「お薬の情報を見せるかどうかは、そのあとの画面でご自身で選べます。『同意しない』を選んでいただいても、受付そのものは問題なくできます。ただ、他の病院で出ているお薬が分かると飲み合わせの確認ができるので、よろしければ同意していただけると助かります」
「同意しなくても受付できる」を先に言う。そのうえでメリットを伝える。順番を逆にすると、押し付けに聞こえます。
⑦ 「暗証番号を忘れた」「ロックされた」
Q32に、そのまま使える答えがあります。
暗証番号がロックされていても、顔認証付きカードリーダーで顔認証または窓口職員によるマイナンバーカードの顔写真の目視確認で本人確認が可能
「暗証番号がわからなくても大丈夫です。カメラのほうを見ていただく方法か、私が目で確認する方法でも受付できますので、ご安心ください」
受付時のチェックリストにも、目視確認は正規の方法として書かれています。
暗証番号忘れ、怪我や障害・認知症など何らかの事情により「顔認証」や「暗証番号」入力ができない場合、「目視確認」でご対応ください。
目視確認用パスコードの発行手順を、カードリーダーの横に貼っておいてください。その場で手順を探すと、患者さんは「自分のせいで手間をかけている」と感じます。ここは接遇そのものです。
⑧ 「カードを渡したくない」
Q28では、本人の了解があれば一時的に預かることは差し支えないとされています。裏を返せば「了解を得ること」が前提です。
患者本人の了解のうえ、マイナンバーカードの表面に印字された患者の氏名・住所等の情報を確認することや、そのために一時的に医療機関・薬局の職員が患者のマイナンバーカードを預かることや(差し支えない)
「お手元に持ったままで大丈夫です。そのままカードリーダーに置いていただけますか。操作が難しければ、お預かりして置くこともできますが、いかがしましょう」
黙って手を伸ばさない。これだけでトラブルが減ります。
⑨ 「持ってきてない」
「大丈夫ですよ。資格確認書はお持ちですか? もしスマートフォンをお使いでしたら、マイナポータルの画面でも確認できます。どちらもなければ、別の方法で受付できますので、少しお時間ください」
「持ってきていただかないと困ります」は言わない。次に持ってきてもらうための一言は、受付が終わってから添えます。
⑩ 「病院でやったのに、薬局でもやるの?」
「はい、病院と薬局はそれぞれ別に保険の請求をしているので、それぞれで確認が必要なんです。二度手間で申し訳ないのですが、お願いできますか」
この質問はもっともです。「そういうものだから」ではなく、仕組みを一言で説明する。納得されれば次回から言われません。
言ってはいけない5つ
| NG | なぜダメか | 代わりに |
|---|---|---|
| 「決まりですので」 | 思考停止に聞こえる。理由の説明を放棄している | 「保険が変わっていないか確認するためです」 |
| 「国が決めたことなので」 | 他人事に聞こえ、不満の矛先を大きくする | 「以前と運用が変わりました。ご不便をおかけします」 |
| 「みなさんお願いしています」 | 個別の不安に答えていない | 相手が挙げた理由に、名指しで答える |
| 「できません」 | 行き止まりに聞こえる | 「別の方法があります」 |
| 「保険証はもう使えません」 | 正しいが、突き放して聞こえる | 「資格確認書でも受付できますよ」 |
共通しているのは、「制度」を主語にすると角が立つということです。主語を「あなた(患者さん)の保険」にすると、同じ内容が伝わり方を変えます。
それでも収まらないとき
説明しても声を荒げる、他の患者さんの前で長時間ねばる、スタッフを個人攻撃する——ここまで来たら接遇の問題ではありません。
判断の目安を決めておいてください。
- 2回説明しても平行線なら、担当を代える(管理薬剤師が出る)
- 他の患者さんの待ち時間に影響が出始めたら、別の場所に移動する
- 受付そのものは止めない——資格確認ができなくても、フロー図に沿えば通常の負担割合で受け付けられます(後述)
- 人格を否定する言葉が出たら、対応を打ち切る基準を決めておく
「受付は進められる」と分かっていると、スタッフは焦らずに済みます。説得しないと業務が止まる、という状況が対応を硬くします。
カスタマーハラスメントへの対応は令和8年10月1日から事業主の義務になります。方針の文書化・周知、相談窓口の設置などが必要です。詳しくは接遇シリーズ第1回にまとめました。
読み取れなかったときは、10割にしない
患者さんの機嫌が悪くなる最大の原因が、これです。
マイナ保険証が読み取れず資格確認できなかった場合に、一律に患者に10割負担を求めていませんか?
判断に迷う場合や不明点が生じた場合は、「マイナ保険証の受付方法」のフロー図で受付方法をご確認ください。フロー図に沿って資格確認を完了いただくことで、3割等の一定の負担割合で受付が可能です。
フロー図の分岐は、表示された内容で決まります。
| 表示 | 対応 |
|---|---|
| 「●」と表示/住所が不明・異なる | 追加対応は不要(「●」は旧字等が含まれる場合の表示) |
| 証明書有効期限切れ | 電子証明書の期限。保険資格の問題ではない。期限日の月末から3か月以内なら、マイナポータルの資格確認画面か「資格情報のお知らせ」で確認 |
| 資格無効/資格情報なし/機器エラー・暗証番号不明 | 上記2つを試し、それでも不可なら——再診は把握している情報で口頭確認、初診は被保険者資格申立書を記入 |
フロー図に「10割負担」という分岐は存在しません。どのルートも「資格確認が完了しました」に到達します。
なお、被保険者番号を「不詳」としてレセプト請求できるのは初診(初回)の場合に限られます。再診は過去の受診時に把握している資格情報で請求します。
ついでに直したい、窓口の4つの誤り
チェックリストは「〜していませんか?」という問いの形で書かれています。実際に起きている間違いということです。
- 限度額適用認定証を求めている→ マイナ保険証ならオンライン資格確認で所得区分が確認でき、認定証は不要。レセプト請求もその所得区分で行う
- マイナ保険証を出した人に資格確認書も求めている→ 有効な資格が確認できれば追加確認は不要
- 資格確認書のときにオンライン資格確認をしていない→ 照会することで資格喪失後の受診を防げる
- 電磁的交付の資格確認書を断っている→ 資格確認書はカード・はがき・A4・電磁的交付の4種類。スマートフォン表示も正規
スマートフォンの画面で確認する場合は、その場で確認するか、一時預かりの了承を得ること。あわせて画面に現在時刻がリアルタイムで表示されているかも確認します。
窓口の準備チェックリスト
- ◻️ 「なぜ毎回必要か」を患者さん目線の1文で全スタッフが言える
- ◻️ 「顔写真は即時削除される」を事実として説明できる
- ◻️ 「薬の情報を見せるかは患者さんが選べる」「同意しなくても受付できる」を説明できる
- ◻️ 目視確認用パスコードの発行手順をカードリーダーの横に貼った
- ◻️ 「マイナ保険証の受付方法」フロー図を受付に置いた
- ◻️ 被保険者資格申立書を印刷して常備した
- ◻️ 「読み取れない=10割」ではないことを全スタッフが理解している
- ◻️ 資格確認書の4種類をスタッフ全員が知っている
- ◻️ マイナ保険証提示時に限度額適用認定証を求めない運用になっている
- ◻️ 資格確認書提示時もオンライン資格確認を実施している
- ◻️ 担当を代える基準・対応を打ち切る基準を決めてある
まとめ
- 嫌がる理由は①手間 ②できない不安 ③情報の不安の3つ。返す答えがそれぞれ違う
- 「毎回」の理由は「保険が変わっていないかの確認」。「後から医療費を請求されないため」と患者目線で言い換える
- 顔写真は照合後に即時削除される(Q25)
- 医療機関・薬局がマイナンバーを取り扱うことはない(Q14)。カードに税・年金情報は入っていない(Q12)
- 医療情報の提供は患者さんが同意選択する(Q27)。同意しなくても受付できることを先に伝える
- 暗証番号がロックされていても顔認証または目視確認で本人確認は可能(Q32)
- カードを預かるのは本人の了解が前提(Q28)
- 読み取れなくても10割にしない。フロー図に沿えば通常の負担割合で受付できる
- 「決まりですので」は使わない。主語を制度ではなく患者さんの保険にする
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出典
- 厚生労働省「マイナンバーカードの健康保険証利用についてよくある質問」(Q1・Q12・Q14・Q25・Q27・Q28・Q32)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_40406.html - 厚生労働省・社会保険診療報酬支払基金「マイナ保険証・資格確認書の受付時のチェックリスト」/「マイナ保険証の受付方法」フロー図(医療機関等向け総合ポータルサイト)
https://iryohokenjyoho.service-now.com/csm/ja - 厚生労働省「マイナンバーカードの健康保険証利用(マイナ保険証)について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08277.html
※ 本記事は2026年8月時点の公表資料に基づきます。Q&Aの番号・内容は改訂されることがありますので、最新版をご確認ください。
