執筆:Nori(薬Talk編集長・薬剤師)/調剤薬局勤務26年。管理薬剤師を経て、現在はチェーン薬局の本社部門で店舗運営支援を担当しています。
「地方は薬剤師が足りない」——半分は正しく、半分は間違いです。
数字はすべて厚生労働省の事務連絡「薬剤師偏在指標等について」(令和5年6月9日・医薬・生活衛生局総務課)の別添から、全47都道府県ぶんを書き出しました。自分の県の数字は「全47都道府県の一覧」で引けます。
薬剤師偏在指標とは何か
単純な「人口10万人あたりの薬剤師数」ではありません。その地域で必要とされる仕事の量に対して、薬剤師の労働時間が足りているかを見る指標です。
算出はこうなっています。
偏在指標 = 調整薬剤師労働時間(標準化薬剤師数)÷ 薬剤師の推計業務量
人口10万人あたりの薬剤師数をベースに、医療の受療率、薬剤師の労働時間、地域間の流出入を加味して補正します。
目標値は1.00です。1.00を下回れば不足、上回れば充足。この指標をもとに、都道府県と二次医療圏が「薬剤師多数区域」「薬剤師少数区域」「どちらでもない区域」の3つに区分されています。
全国の数字がこちらです。
| 全国の偏在指標 | 目標 | 判定 | |
|---|---|---|---|
| 病院薬剤師 | 0.80 | 1.00 | 大きく不足 |
| 薬局薬剤師 | 1.08 | 1.00 | 充足 |
| 地域別(全体) | 0.99 | 1.00 | ほぼ均衡 |
全体では0.99でほぼ均衡しているのに、業態で割ると0.80と1.08に割れる。ここが問題の中身です。
病院薬剤師は、東京でも足りていない
47都道府県のデータを並べて、いちばん驚いたのがこれです。
病院薬剤師の偏在指標が1.00以上の都道府県は、ひとつもありません。
| 病院薬剤師:高いほう(それでも不足) | 病院薬剤師:低いほう | ||
|---|---|---|---|
| 東京都 | 0.94 | 青森県 | 0.55 |
| 京都府 | 0.94 | 秋田県 | 0.56 |
| 徳島県 | 0.94 | 山形県 | 0.60 |
| 福岡県 | 0.93 | 三重県 | 0.63 |
| 大阪府 | 0.92 | 岩手県 | 0.64 |
最も恵まれた東京・京都・徳島でも0.94。青森県に至っては0.55で、必要量の半分強しか確保できていません。
「都会に出れば病院薬剤師の求人は潤沢」という想像は、数字の上では成り立ちません。東京の病院も足りていない。ただ、青森の0.55と比べれば「マシ」というだけです。
薬局薬剤師は東京に集中している
薬局側は様相が違います。全国では1.08で足りているのに、地域差が極端です。
| 薬局薬剤師:多いほう | 薬局薬剤師:少ないほう | ||
|---|---|---|---|
| 東京都 | 1.42 | 福井県 | 0.73 |
| 神奈川県 | 1.25 | 富山県 | 0.82 |
| 兵庫県 | 1.19 | 鹿児島県 | 0.86 |
| 広島県 | 1.19 | 和歌山県 | 0.87 |
| 福岡県 | 1.17 | 大分県 | 0.87 |
東京の1.42と福井の0.73。ほぼ2倍の開きがあります。
そして見落とされがちな事実があります。47都道府県のうち28県が、薬局薬剤師でも1.00を下回っています。「薬局薬剤師は余っている」は全国平均を見ているから出てくる話で、半分以上の県では足りていません。
全47都道府県の一覧
自分の県と、移住を考えている県を見比べてください。厚生労働省の資料(別添1-1)から全47都道府県を書き出しました。数値はいずれも現在の値です。
右端の記号は全体の指標で分けたものです。◎1.10以上/○1.00以上/△0.90以上/▲0.90未満。
| 都道府県 | 病院 | 薬局 | 全体 | |
|---|---|---|---|---|
| 北海道 | 0.85 | 1.01 | 0.96 | △ |
| 青森県 | 0.55 | 0.88 | 0.78 | ▲ |
| 岩手県 | 0.64 | 0.97 | 0.87 | ▲ |
| 宮城県 | 0.76 | 1.16 | 1.04 | ○ |
| 秋田県 | 0.56 | 0.96 | 0.84 | ▲ |
| 山形県 | 0.60 | 0.91 | 0.81 | ▲ |
| 福島県 | 0.65 | 0.95 | 0.86 | ▲ |
| 茨城県 | 0.67 | 0.99 | 0.90 | △ |
| 栃木県 | 0.69 | 1.04 | 0.93 | △ |
| 群馬県 | 0.74 | 0.92 | 0.86 | ▲ |
| 埼玉県 | 0.75 | 1.08 | 0.99 | △ |
| 千葉県 | 0.78 | 1.07 | 0.99 | △ |
| 東京都 | 0.94 | 1.42 | 1.28 | ◎ |
| 神奈川県 | 0.80 | 1.25 | 1.12 | ◎ |
| 新潟県 | 0.67 | 0.94 | 0.86 | ▲ |
| 富山県 | 0.75 | 0.82 | 0.80 | ▲ |
| 石川県 | 0.87 | 0.96 | 0.93 | △ |
| 福井県 | 0.75 | 0.73 | 0.74 | ▲ |
| 山梨県 | 0.71 | 1.01 | 0.92 | △ |
| 長野県 | 0.73 | 0.95 | 0.88 | ▲ |
| 岐阜県 | 0.69 | 0.91 | 0.85 | ▲ |
| 静岡県 | 0.66 | 1.01 | 0.91 | △ |
| 愛知県 | 0.75 | 1.00 | 0.93 | △ |
| 三重県 | 0.63 | 0.90 | 0.82 | ▲ |
| 滋賀県 | 0.81 | 1.03 | 0.97 | △ |
| 京都府 | 0.94 | 0.95 | 0.95 | △ |
| 大阪府 | 0.92 | 1.12 | 1.06 | ○ |
| 兵庫県 | 0.89 | 1.19 | 1.10 | ◎ |
| 奈良県 | 0.86 | 0.92 | 0.90 | △ |
| 和歌山県 | 0.80 | 0.87 | 0.85 | ▲ |
| 鳥取県 | 0.73 | 0.97 | 0.89 | ▲ |
| 島根県 | 0.70 | 0.93 | 0.86 | ▲ |
| 岡山県 | 0.85 | 0.97 | 0.93 | △ |
| 広島県 | 0.81 | 1.19 | 1.07 | ○ |
| 山口県 | 0.77 | 1.04 | 0.95 | △ |
| 徳島県 | 0.94 | 1.03 | 1.00 | ○ |
| 香川県 | 0.78 | 1.09 | 1.00 | ○ |
| 愛媛県 | 0.74 | 0.92 | 0.86 | ▲ |
| 高知県 | 0.81 | 0.93 | 0.89 | ▲ |
| 福岡県 | 0.93 | 1.17 | 1.10 | ◎ |
| 佐賀県 | 0.69 | 1.10 | 0.97 | △ |
| 長崎県 | 0.75 | 0.93 | 0.87 | ▲ |
| 熊本県 | 0.85 | 0.93 | 0.90 | △ |
| 大分県 | 0.73 | 0.87 | 0.83 | ▲ |
| 宮崎県 | 0.65 | 0.91 | 0.82 | ▲ |
| 鹿児島県 | 0.74 | 0.86 | 0.82 | ▲ |
| 沖縄県 | 0.91 | 0.90 | 0.90 | △ |
全体の指標が1.00以上なのは、47都道府県のうち9県だけです。残り38県は基準を下回っています。
そして病院の列を上から下まで見ても、1.00以上はひとつもありません。これが薬剤師の偏在のいちばん大きな輪郭です。
同じ県でも、業態で真逆になる
この記事でいちばん実務に効くのがここです。
| 都道府県 | 病院 | 薬局 | 全体 | 読み取れること |
|---|---|---|---|---|
| 東京都 | 0.94 | 1.42 | 1.28 | 薬局は飽和、病院は不足 |
| 神奈川県 | 0.80 | 1.25 | 1.12 | 同上。差がさらに大きい |
| 青森県 | 0.55 | 0.99 | 0.78 | 病院が突出して不足。薬局はほぼ均衡 |
| 福井県 | 0.75 | 0.73 | 0.74 | 両方とも不足。全国最下位 |
| 京都府 | 0.94 | 0.95 | 0.95 | 両方が近い値。バランス型 |
東京は「薬局薬剤師が最も余っていて、病院薬剤師が最も足りていない県のひとつ」です。同じ都内でも、薬局と病院で求人の出方がまるで違うことになります。
一方福井県は病院0.75・薬局0.73で、両方とも不足。全体でも0.74で全国最下位です。ここは業態を問わず人が足りていません。
「都会か地方か」ではなく「どの県の、どの業態か」。指標はこの2軸で見るものです。
「東京」で括るのも、実は雑
都道府県単位でも、まだ粗い。同じ資料には二次医療圏ごとの数字も載っています。そこまで下りると、差はさらに極端になります。
| 最も高い二次医療圏 | 最も低い二次医療圏 | |||
|---|---|---|---|---|
| 薬局薬剤師 | 区中央部(東京) | 3.08 | 熊毛(鹿児島) | 0.42 |
| 病院薬剤師 | 区中央部(東京) | 1.74 | 島しょ(東京) | 0.04 |
区中央部(千代田・中央・港・文京・台東)の薬局薬剤師は3.08。全国平均1.08のおよそ3倍です。ここだけが突出しています。
そして同じ東京都の中に、病院薬剤師0.04の島しょ地域があります。都道府県で「東京は1.28」と見ていては、この差は見えません。
病院薬剤師で1.00を超えている二次医療圏は、区中央部1.74・区西部1.25・大阪市1.13・飯塚1.12・久留米1.10といったごく一部の都市圏だけです。それ以外は全国どこも1.00未満、つまり不足しています。
薬局側の下位を見ると、熊毛0.42、島しょ0.43、吾妻0.47、久慈0.47、宮古0.47。「薬局薬剤師は余っている」という全国平均の話が、まったく当てはまらない地域があります。
移住先を検討するなら、県名ではなく二次医療圏まで見てください。同じ県内でも、県庁所在地と郡部でまったく違います。
2036年、差はさらに開く
同じ資料には目標年次である2036年度の推計も載っています。将来の医療需要を織り込んだ数字です。
| 現在 | 2036年度 | 差 | |
|---|---|---|---|
| 病院薬剤師 | 0.80 | 0.82 | +0.02(ほぼ変わらない) |
| 薬局薬剤師 | 1.08 | 1.22 | +0.14(さらに過剰へ) |
| 地域別(全体) | 0.99 | 1.09 | +0.10 |
13年後も、病院薬剤師は0.82で足りていません。一方で薬局薬剤師は1.22まで上がる。全体としては人が増えるのに、病院の不足だけが解消しないという推計です。
県単位で見ると、この構造がよりはっきりします。
| 青森県 | 現在 | 2036年度 |
|---|---|---|
| 病院薬剤師 | 0.55 | 0.62 |
| 薬局薬剤師 | 0.99 | 1.15 |
青森県の薬局は0.99から1.15へ改善する見込みですが、病院は0.62にとどまります。薬剤師の総数が増えても、病院には回っていかない。
キャリアを10年単位で考えるなら、この構造が続く前提で選ぶことになります。病院薬剤師は今後も売り手市場が続く一方、薬局薬剤師の需給はさらに緩む、というのが国の推計です。
転職・移住の判断にどう使うか
偏在指標は求人票には載っていませんが、「その地域で自分が売り手か買い手か」を教えてくれます。
| 指標の状態 | 転職者から見た意味 |
|---|---|
| 1.00を大きく下回る | 売り手市場。条件交渉の余地がある。ただし人が少ない=1人あたりの負荷が高い可能性も |
| 1.00前後 | 需給が均衡。条件は市場並みに落ち着く |
| 1.00を大きく上回る | 買い手市場。求人は多いが競争があり、条件は上がりにくい |
東京へ移って薬局で働くなら、指標1.42の市場に飛び込むことになります。求人の数は多くても、それ以上に薬剤師がいる。給与が思ったほど高くない理由の一端はここにあります。
逆に地方で病院薬剤師を目指すなら、数字の上では圧倒的な売り手市場です。青森県の0.55は、必要量の半分しか人がいないという意味です。
ただし売り手市場は「働きやすい」とイコールではありません。指標が低いということは、いま働いている人の負担が重いということでもあります。0.55の職場は、1人が1.8人分の仕事をしているとも読めます。
「薬剤師少数区域」という区分がある
この指標は、統計として公表されているだけではありません。薬剤師確保計画ガイドライン(令和5年6月9日付 薬生総発0609第3号)に基づいて、都道府県と二次医療圏が3区分に設定されています。
- 薬剤師多数区域
- 薬剤師少数でも多数でもない区域
- 薬剤師少数区域
都道府県は原則3年ごとに目標を設定し、薬剤師少数区域を減らしていくことになっています。つまり少数区域には、これから施策と予算が向くということです。
自分が移ろうとしている地域がどの区分か。都道府県が策定する薬剤師確保計画で確認できます。数年先の環境が変わる可能性がある地域なのかどうかは、長く働くつもりなら見ておく価値があります。
地方移住を考えるときのチェックリスト
- ◻️ 移住先の都道府県の偏在指標を、病院・薬局の別で確認した——全体の数字だけ見ない
- ◻️ いま住んでいる県の数字とも比べた——上がるのか下がるのかで交渉力が変わる
- ◻️ 「売り手市場=働きやすい」ではないと理解した——低い指標は現場の負荷の裏返し
- ◻️ 二次医療圏まで見た——同じ県内でも都市部と郡部で状況が違う
- ◻️ 移住先が薬剤師少数区域かを、都道府県の薬剤師確保計画で確認した
- ◻️ 個別の薬局については、届出内容も確認した(求人票の読み方の記事を参照)
「足りない」の中身を分けて考える
もう一度、最初の3つに戻ります。
- 病院薬剤師は全国どこでも足りない(全国0.80・最高でも0.94)
- 薬局薬剤師は全国では足りているが、47県中28県は下回る(全国1.08・最高1.42・最低0.73)
- 同じ県でも業態で真逆になる(東京:薬局1.42/病院0.94)
「地方は薬剤師が足りない」も「都会は薬剤師が余っている」も、どちらも一面しか見ていません。
移住や転職を考えるとき、この2軸で数字を見れば、自分がどんな市場に入ろうとしているのかが分かります。求人票の年収を比べる前に、一度見ておく価値のある数字です。

