2026年10月、薬局の社会保険が変わる|管理薬剤師が10月までに確認すること

2026年10月、薬局の社会保険が変わる 管理薬剤師が10月までに確認すること 薬局実務
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執筆:Nori(薬Talk編集長・薬剤師)/調剤薬局勤務26年。管理薬剤師を経て、現在はチェーン薬局の本社部門で店舗運営支援を担当しています。

2026年10月1日。あと2か月足らずです。

その日、社会保険の「106万円の壁」が消えます。正確には、短時間労働者の加入要件から月額8.8万円という賃金要件が撤廃されます。

ニュースでは「パートの働き方が変わる」と報じられています。ただ、薬剤師に限って言えば、この改正で変わることは何もありません。

理由は単純で、薬剤師は時給が高いからです。詳しくは第3章で計算します。

影響が出るのは、調剤事務・調剤助手・配送スタッフです。そして薬局の社会保険料負担が増えます。

つまりこれは、パートの薬剤師が読む話ではなく、シフトと人件費を組む側が10月までに確認しておく話です。

この記事では、何がどう変わるのかを法令と国税庁の資料で確認したうえで、誰に影響が出て誰に出ないのかを数字で切り分けます。

2026年10月に何が変わるのか

根拠は、令和7年6月13日に成立した年金制度改正法(社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律)です。

短時間労働者が社会保険に加入する要件は、これまで次の4つでした。

要件内容2026年10月〜
労働時間週の所定労働時間が20時間以上変わらない
賃金所定内賃金が月額8.8万円以上撤廃
雇用期間2か月を超える雇用の見込み変わらない
学生学生でないこと変わらない

これに加えて企業規模要件(現在は従業員51人以上)があります。こちらは2027年10月以降に段階的に縮小され、2035年までに撤廃される予定です。

つまり2026年10月以降は、週20時間以上などの要件を満たせば、賃金額にかかわらず加入対象になります。

なお例外があります。最低賃金法の減額特例の適用を受けていて報酬月額が8.8万円未満の人は「特定減額特例対象者」として、当分の間、原則として被保険者としない仕組みが設けられました。

所得税の側も、すでに変わっている

混同されがちですが、「年収の壁」は社会保険と所得税の2種類があります。そして所得税側はすでに動いています。

令和7年度税制改正(令和7年12月1日施行・令和7年分以後の所得税に適用)で、次が変わりました。

改正前改正後
給与所得控除の最低保障額55万円65万円
基礎控除(合計所得132万円以下)48万円95万円
扶養親族・同一生計配偶者の所得要件合計所得48万円以下
(給与収入103万円)
合計所得58万円以下
(給与収入123万円)

給与所得控除65万円+基礎控除95万円で、給与収入160万円までは所得税がかからない。これが「103万円の壁が160万円になった」と言われているものの中身です。

ただし「扶養に入れるかどうか」の線は別で、こちらは給与収入123万円です。ここを混同すると説明を誤ります。

なお基礎控除は合計所得金額によって段階的で、令和9年分以後は58万円に収れんします(132万円超336万円以下の区分は令和7・8年分が88万円、令和9年分以後58万円)。いまの95万円が恒久ではない点は押さえておく必要があります。

そして130万円の壁(健康保険の被扶養者認定)は据え置きです。ここは何も変わっていません。

薬剤師に「106万円の壁」は最初から存在しない

ここからが本題です。

撤廃される賃金要件は「月額8.8万円以上」。これを時給で割ると、何時間働けば到達するかが出ます。

時給月8.8万円に届く月間労働時間週あたり
1,200円(事務・調剤助手の例)約73時間約17時間
2,000円44時間約10時間
2,500円約35時間約8時間
3,000円約29時間約7時間

時給2,500円の薬剤師なら、週8時間で賃金要件を超えます。

ところが加入にはもう一つ、「週20時間以上」という条件が要ります。週20時間働く薬剤師は、賃金要件を必ず満たしています。月8.8万円に届かないことが、そもそも起こりません。

つまり——

薬剤師にとって賃金要件は、撤廃される前から機能していなかった。効いていたのは週20時間の線だけです。だから10月に撤廃されても、薬剤師の働き方は変わりません。

「106万円の壁がなくなるから、もっと働けますよ」——薬剤師のパートさんにこう言うのは誤りです。

薬剤師の本当の壁は「週20時間」と「130万円」

では実際にどこで詰まるのか。扶養に入ったまま働ける時間を時給別に計算します(年52週で割った目安)。

時給123万円まで
(扶養親族・配偶者控除)
130万円まで
(健康保険の被扶養)
160万円まで
(本人に所得税がかからない)
2,000円週約11.8時間週約12.5時間週約15.4時間
2,500円週約9.5時間週約10.0時間週約12.3時間
3,000円週約7.9時間週約8.3時間週約10.3時間

時給2,500円の薬剤師が扶養内に収めようとすると、働けるのは週10時間程度。1日8時間なら週1回とちょっとです。

ここに構造的な問題があります。

  • 扶養内で働くなら週10時間前後——社会保険の加入要件(週20時間)には届かない
  • 週20時間以上働くなら社会保険に加入——扶養からは確実に外れる

薬剤師のパートは「週10時間」か「週20時間以上」かの二極になりやすく、その中間が成立しにくい。時給が高いことが、逆に働き方の選択肢を狭めています。

そして週12〜18時間あたりは、扶養を外れるのに社会保険には入れないという、最も損をしやすい帯です。シフトを組むときに意識しておく価値があります。

※上記はいずれも時給のみで単純計算した目安です。交通費の扱い、賞与、残業の有無で実際の収入は動きます。被扶養者の認定基準は保険者によって運用が異なる場合があります。

「123万円を超えたら夫の控除が消える」は誤り

窓口でも職場でも、いちばん多い誤解がこれです。

給与収入123万円を超えると配偶者控除からは外れます。しかしその先に配偶者特別控除があり、いきなりゼロにはなりません。

本人の給与収入配偶者側が受けられる控除
〜123万円配偶者控除(38万円)
123万円超〜160万円配偶者特別控除で満額38万円(令和7年度改正で150万円→160万円に拡大)
160万円超〜合計所得133万円
(給与収入でおよそ201万円)
配偶者特別控除が段階的に減少

160万円までは、控除額が変わりません。「123万円で線を引かなければ」と働く時間を削っている人がいたら、その必要はないと伝えられます。

ただし配偶者側の合計所得金額が1,000万円を超える場合は、配偶者特別控除は受けられません。ここは確認が要ります。

また住民税には別の線があります。住民税が非課税になる収入は自治体によって異なり、おおむね年収100万円前後です。所得税がかからない160万円までの範囲でも、住民税は発生し得ます。

本当に効くのは、税ではなく社会保険の130万円です。ここを超えると健康保険の被扶養から外れ、自分で保険料を負担することになります。手取りの落ち込みが大きいのはこちらです。

社会保険に入ると、何が付いてくるのか

「加入すると手取りが減る」は事実です。ただし減るだけではありません。ここを説明できるかどうかで、相談の質が変わります。

  • 厚生年金が上乗せされる——扶養のままなら国民年金の基礎年金だけ。加入すれば報酬比例部分が乗り、将来の年金額が増える
  • 傷病手当金が使える——病気やケガで働けない期間の所得補償。被扶養者にはこの給付がない
  • 出産手当金が使える——産前産後の休業期間の給付。これも被扶養者にはない
  • 障害厚生年金の対象になる——障害基礎年金より広い範囲がカバーされる

とくに傷病手当金は、薬剤師にとって現実味があります。長く休む可能性がある仕事で、扶養に留まるという選択は、その備えを持たないという選択でもあります。

「扶養を外れると損」で話を終わらせず、何を得て何を失うのかを並べて示す。判断するのは本人です。

繁忙期に130万円を超えそうになったら

薬局では毎年これが起きます。感染症の流行期に処方箋が増える。欠員が出て応援に入る。結果、扶養内で調整していた人が130万円を超えそうになる。

この場合に使える仕組みがあります。「事業主の証明による被扶養者認定の円滑化」(令和5年10月20日から適用)です。

年収が一時的に130万円以上になっても、それが一時的な収入変動であることを事業主が証明する書類を提出すれば、健康保険の被扶養者のまま継続できるという運用です。

繁忙期の残業や、欠員に伴う応援は、まさにこの「一時的な収入変動」に当たります。薬局はこの制度が想定している状況が、毎年のように発生する職場です。

ただし条件があります。

  • 恒常的な収入増には使えない。時給が上がった、シフトを恒久的に増やした、というケースは対象外
  • 最終的に判断するのは保険者(健康保険組合・協会けんぽ等)。証明を出せば必ず通るわけではない
  • 利用できる回数や具体的な運用は保険者によって異なる。該当しそうな人が出たら、扶養している側の保険者に事前確認しておく

「超えそうだから今月は休んでください」と言う前に、この制度を知っているかどうか。人手が足りない時期に、働ける人に働いてもらえるかが変わります。

薬局として、10月までに手を打つ相手は誰か

賃金要件の撤廃で影響を受けるのは、「週20時間以上働いているが、月8.8万円に届いていなかった人」です。

第3章の表に戻ると、時給1,200円なら週17時間で8.8万円に到達します。週20時間働けば月10万円を超えるので、実は事務職でも多くは既に要件を満たしています。

該当するのは、時給が最低賃金に近く、かつ週20時間ちょうど前後で働いている人——調剤事務、調剤助手、配送スタッフなどです。

薬剤師本人ではなく、その周辺のスタッフに影響が出る。ここを取り違えると、説明する相手を間違えます。

加入者が増えれば、薬局の社会保険料負担も増えます。10月以降の人件費に効いてくるので、シフトと採用計画は先に見直しておく必要があります。

10月までのチェックリスト

  • ◻️ 週20時間以上で、月8.8万円未満のスタッフを洗い出した——10月から新たに加入対象になる人
  • ◻️ その人数から、10月以降の社会保険料の増加額を試算した
  • ◻️ 該当者本人に、手取りがどう変わるかを事前に説明した——通知が来てから知らせるのは遅い
  • ◻️ 薬剤師パートには「106万円の壁がなくなる」と言っていない——実質的な影響はない
  • ◻️ 扶養内希望者の上限を、123万円・130万円・160万円で取り違えていない
  • ◻️ 企業規模要件(現在51人以上)が自局に該当するか確認した——2027年10月以降さらに縮小
  • ◻️ 「123万円を超えたら配偶者の控除が消える」と誤って説明していない——160万円までは満額38万円
  • ◻️ 加入で得られるもの(厚生年金の上乗せ・傷病手当金・出産手当金)も併せて説明した
  • ◻️ 繁忙期に130万円を超えそうな人の有無を確認し、事業主の証明の運用を保険者に照会した

数字を出せると、話が早い

「扶養内で働きたい」と言われたとき、「では週10時間ですね」と即答できるかどうかで、その後のやり取りの手数が変わります。

制度の説明は、突き詰めるとその人の時給で割り算をするだけです。130万円を時給で割って、52で割る。それだけで週何時間かが出ます。

今回の改正で本当に押さえるべきことは、3つに絞れます。

  • 2026年10月、社会保険の賃金要件(月8.8万円)が撤廃される。ただし週20時間の要件は残る
  • 薬剤師は時給が高く、週20時間働けば必ず賃金要件を満たす。だから撤廃の影響はほぼない
  • 影響が出るのは、時給が低く週20時間前後で働くスタッフ。薬局の人件費にも効く

制度が変わるときは、誰に影響が出ないかを言えることのほうが役に立つ場面があります。

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