こんにちは、『薬Talk』編集長、薬剤師Noriです!
本日は、薬局でも相談を受けることの多い「片頭痛」について、医療従事者向けに深掘りしていきます。
「トリプタン効かないんですけど…」
「片頭痛ってストレスのせいですか?」
「最近、注射薬が出たって聞いたけど?」
――患者さんから、そんな質問を受けたことはありませんか?
今回は、片頭痛のメカニズムから予防法、薬物治療までを丁寧に解説。最新知見も交えて、明日からの服薬指導・対話に活かせる知識を一緒にアップデートしましょう。
目次
1. 片頭痛とは? ―臨床での定義と疫学
片頭痛(migraine)は、一次性頭痛のひとつで、反復性の中等度~重度の頭痛発作が特徴です。
【特徴的な臨床像】
- 拍動性の片側頭痛(両側の場合もあり)
- 4〜72時間持続
- 悪心・嘔吐、光過敏・音過敏を伴うことが多い
- 日常動作で悪化(例:階段昇降)
日本人の有病率は約8.4%とされ、特に30〜40代の女性に多い傾向があります。
2. メカニズム ―三叉神経血管説と神経炎症
片頭痛のメカニズムは複雑ですが、近年は以下の流れが主要な説とされています。
【片頭痛発作の機序(要点まとめ)】
- 皮質拡延性抑制(CSD)
→オーラの原因とされる神経活動の波状抑制。 - 三叉神経血管系の活性化
→神経終末から**CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)**などが放出。 - 血管拡張・神経原性炎症
→CGRPにより脳硬膜の血管が拡張し、痛みを誘発。 - 脳幹の痛覚調節異常
→視床や脳幹の感作が慢性化を引き起こす。
💡CGRPは片頭痛の発症・増悪に強く関与しているため、CGRP関連薬が近年登場しています。
3. 誘因・原因 ―患者に必ず聞くべき項目
片頭痛は体質に加え、さまざまな環境・生活因子によって誘発されます。
主な誘因 | 内容 |
---|---|
ストレス・疲労 | 特にストレスから解放された週末などに多い |
睡眠リズムの乱れ | 過眠・寝不足の両方がリスクに |
月経周期 | エストロゲン低下が発作を誘発 |
特定の食べ物 | チョコ、赤ワイン、チーズなど |
天候変化 | 気圧の急変など |
✅指導時には「片頭痛ダイアリー」の活用を勧めると、誘因の特定と生活改善のきっかけになります。
4. 予防策 ―発作を減らすために
予防には生活指導と薬物療法の2本柱があります。
【生活指導の要点】
- 睡眠・食事・運動のリズムを整える
- カフェインやアルコールの過剰摂取を避ける
- ストレスマネジメント(呼吸法やマインドフルネス)
【薬物による予防療法(定期内服)】
薬剤群 | 代表薬 | 補足 |
---|---|---|
β遮断薬 | プロプラノロール | 高血圧・不安症にも有効 |
抗てんかん薬 | バルプロ酸、トピラマート | 中枢副作用に注意 |
Ca拮抗薬 | ロメリジン | 片頭痛専用薬として承認あり |
抗CGRP抗体 | エムガルティ、アジョビ | 皮下注射、月1回投与可(自由診療も含む) |
💡抗CGRP薬は保険適応が通った後、予防薬として注目されています。
ただし「月に4日以上の発作がある患者」が対象。
5. 急性期治療 ―使い分けがカギ
片頭痛発作が起きたときは、できるだけ早く薬を使うことが重要です。
【急性期治療薬とその特徴】
薬剤 | 特徴 | 備考 |
---|---|---|
アセトアミノフェン・NSAIDs | 軽度〜中等度向け | 胃障害に注意 |
トリプタン系 | スマトリプタン、ゾルミトリプタンなど | 発作開始時に速やかに使用 |
ジタン系 | ラスミジタン | セロトニン5-HT1F作動薬、新機序 |
抗CGRP薬(経口) | アトゲパントなど | 日本では現在未承認(2025年7月時点) |
❗トリプタンは「効かない」とされる多くの例で、投与タイミングの遅れが原因になっています。
「前兆が終わった直後」や「痛みの初期」に使うよう、患者に繰り返し指導を。
6. 片頭痛と他の頭痛の鑑別ポイント
片頭痛は緊張型頭痛や群発頭痛と誤診されやすいため、以下のような表現で問診を進めるのが有効です。
頭痛の種類 | 痛みの性質 | 部位 | 随伴症状 |
---|---|---|---|
片頭痛 | 拍動性・ズキズキ | 片側(ときに両側) | 悪心・嘔吐・感覚過敏 |
緊張型頭痛 | 締めつけ・重だるい | 両側 | 筋緊張・ストレス |
群発頭痛 | えぐられるような激痛 | 眼窩・側頭部 | 流涙・鼻閉・夜間発作 |
7. 最後に:薬剤師ができる片頭痛支援とは?
片頭痛は「慢性疾患」の一つとして、患者の生活に深く関わっています。
- 発作時のタイミング指導
- 生活習慣の見直しアドバイス
- 予防薬の副作用管理や継続支援
- 漢方や栄養アプローチの提案も視野に
とくに、トリプタンの使い方の再確認は、服薬指導の中でも頻出かつ重要なポイントです。
☘️おわりに|「治らない頭痛」から「コントロール可能な頭痛」へ
患者さんが「また頭痛が来るかも…」という不安から解放されるには、私たち医療従事者の継続的な関わりが不可欠です。
ぜひ、片頭痛への理解を深めて、日々の業務に活かしていただけたら嬉しいです。
🔍参考資料
- 日本頭痛学会ガイドライン(2021年版)
- 厚生労働省 eJIM「慢性頭痛について」
- Neurology誌、Lancet Neurology 他