授乳中でも安心して薬を使うために知っておきたいこと

妊婦・授乳婦
この記事は約6分で読めます。

こんにちは、『薬Talk』編集長、薬剤師のNoriです!

授乳中のママは、体調を崩しても「薬を飲んでいいのかな?」「母乳に影響はないかな?」と不安になることが多いですよね。

赤ちゃんにとって母乳はとても大切な栄養源。だからこそ、ママが口にする薬が赤ちゃんにどんな影響を与えるのか、気をつけたいものです。

でも実は、授乳中でも安心して使える薬はたくさんあります。この記事では、薬剤師の視点から「授乳中に使っても良い薬」「避けた方がいい薬」を薬の種類ごとに、やさしく丁寧に解説していきます。

体調が悪いときこそ、ママ自身の健康を守ることも大切です。この記事を通して、安心して薬と向き合える知識をお届けできたらうれしいです。


授乳中は、ママが飲んだ薬の一部が母乳に移行することがあります。多くの場合、ごく微量で赤ちゃんに問題が出ることは少ないですが、薬によっては中枢神経や心臓、腎臓に影響を与えることもあるため、注意が必要です。

以下の表にある通り、一般的に安全とされる薬もあれば、できるだけ避けるべき薬もあります。判断に迷った時は、必ず医師や薬剤師に相談しましょう。

1. 解熱鎮痛剤

アセトアミノフェンは授乳中でも安全に使えるお薬で、熱があるときや頭痛、筋肉痛の時の第一選択です。イブプロフェンやロキソプロフェンといったNSAIDsも母乳への移行が少なく、短期間の使用なら問題ありません。

薬剤名使用可否母乳移行性注意点
アセトアミノフェン授乳中の解熱鎮痛剤として第一選択
ロキソプロフェン、イブプロフェン非常に低い短期使用であれば問題ない

感染症などで処方される抗生物質。ペニシリン系やセフェム系は母乳移行が少なく安全ですが、テトラサイクリン系やニューキノロン系は避けた方が無難です。特にテトラサイクリンは歯の形成や骨の発達に悪影響を与える可能性があるため禁忌です。マクロライド系(クラリスロマイシン・アジスロマイシン)は一部移行しますが、通常使用であれば安全とされています。

薬剤名使用可否母乳移行性注意点
ペニシリン系非常に少ない赤ちゃんにアレルギー症状が出た場合は医師に相談
セフェム系使用可
マクロライド系(クラリスロマイシン、アジスロマイシン)中程度長期高用量使用は注意
ニューキノロン系中程度関節障害のリスクを避けるため基本的に避ける
テトラサイクリン系×歯牙形成障害・骨発達抑制の可能性あり

授乳中でも使える咳止めにはデキストロメトルファンがあります。アストミン(チペピジン)やアスベリン(カルボシステイン含有)は安全性が高く、よく使用されます。一方でコデインは乳児の呼吸抑制のリスクがあるため避けましょう。

薬剤名使用可否母乳移行性注意点
デキストロメトルファン少ない通常量であれば問題なし
アストミン(チペピジン)比較的安全に使用可
アスベリン(カルボシステイン含有)去痰作用あり、安全性高い
コデイン×中〜高新生児呼吸抑制の報告あり、避ける

アレルギー性鼻炎などに使う抗ヒスタミン薬は、第二世代(ロラタジン、セチリジンなど)が推奨されます。第一世代(クロルフェニラミン)は眠気を起こしやすく、母乳分泌の抑制作用もあるため、注意が必要です。

薬剤名使用可否母乳移行性注意点
ロラタジン、セチリジン非常に少ない授乳中でも使用可能、眠気少ない
クロルフェニラミン中程度乳汁分泌抑制・赤ちゃんの眠気に注意

つわりの延長や胃腸の不調で吐き気がある場合に使う薬です。メトクロプラミドは母乳移行が少なく比較的安全ですが、乳汁分泌を刺激する作用があるため注意が必要です。ドンペリドンも同様ですが、心電図異常のリスクもあるため慎重に使用します。

薬剤名使用可否母乳移行性注意点
メトクロプラミド(プリンペラン)少ない長期使用で母乳分泌過剰または抑制に注意
ドンペリドン(ナウゼリン)少ないが注意QT延長の報告あり、医師の指示で使用

下痢が続くと水分不足や体力の低下にもつながります。ロペラミドは中枢作用があるものの、母乳中への移行は少なく、短期間であれば使用可能とされています。タンニン酸アルブミンは吸収されず、母乳にも移行しないため安心です。

薬剤名使用可否母乳移行性注意点
ロペラミド通常量であれば問題なし、乳児への便秘に注意
タンニン酸アルブミン非吸収性安全性が高い
酸化マグネシウム(便秘治療)非吸収性授乳中でも安心して使用可能

授乳中の高血圧治療では、母乳移行の少ない降圧薬が選ばれます。メチルドパやラベタロールは比較的安全ですが、ACE阻害薬やARB系は乳児の腎機能に影響を与える可能性があるため避けましょう。

薬剤名使用可否母乳移行性注意点
メチルドパ少ない安全性高く推奨される
ラベタロール少ない使用可能
アムロジピン(Ca拮抗薬)少ない授乳中でも使用可能、第一選択になりつつある
ACE阻害薬・ARB×母乳中への移行あり、乳児の腎障害リスク

てんかんの持病がある場合でも、コントロールを優先する必要があります。ラモトリギンやバルプロ酸は一定の条件下で使用可能とされますが、赤ちゃんの状態を慎重にモニタリングする必要があります。

薬剤名使用可否母乳移行性注意点
ラモトリギン中〜高血中濃度上昇の報告あり、乳児のモニタリングが必要
バルプロ酸中程度乳児での血中濃度上昇に注意、医師と相談の上で使用

授乳中でも注意が必要な薬がいくつかあります。特にイソトレチノイン(にきび治療薬)やリチウムは強い毒性があり、母乳育児中は禁忌です。ワルファリンは使用可能ですが、赤ちゃんの出血傾向に注意が必要です。

薬剤名使用可否母乳移行性注意点
ワルファリン少ない授乳中は使用可、乳児出血傾向に注意
イソトレチノイン×強い催奇形性あり、授乳中も禁忌
リチウム×母乳中移行が多く、乳児中毒リスク高

授乳中でも使える薬は意外と多くありますが、「自己判断で飲んでいい」というわけではありません。赤ちゃんの成長はとても繊細で、ちょっとした影響が長く残ることもあります。

だからこそ、薬を使うときは「なるべく短期間」「必要最小限」で、そして「必ず専門家に相談する」ことがとても大切です。

これからも『薬Talk』では、ママと赤ちゃんが安心して過ごせるための薬の知識を、やさしく・わかりやすくお届けしていきますね。

届けできたらうれしいです。


  1. 厚生労働省
    妊婦・授乳婦への医薬品の適正使用に関する情報
    ┗ 妊婦・授乳婦が薬を使用する際の基本的なガイドラインと安全性に関する考え方が掲載されています。
  2. 日本産婦人科医会
    『妊婦と薬』ガイドライン(2022年改訂版)
    ┗ 産婦人科医による薬剤リスクの分類と臨床現場での対応指針。医療関係者向けの標準資料です。
  3. 国立成育医療研究センター「妊娠と薬情報センター」
    https://www.ncchd.go.jp/kusuri/
    ┗ 妊婦さん・授乳中の方向けに「相談しやすい薬情報」を提供している専門機関サイト。
  4. 沢井製薬「くすりのしおり」
    妊婦・授乳婦向けの医薬品使用情報を含む市販薬・処方薬の解説サイト。
  5. MIMS JAPAN
    妊娠・授乳と薬物治療カテゴリ
    ┗ 医療従事者向けに、各薬剤の妊婦・授乳婦への使用可否情報をデータベース化。
  6. 日本薬剤師会
    『薬剤師のための妊娠中・授乳中の薬剤使用の手引き』
    ┗ 調剤薬局での対応指針や、添付文書だけでは分からない実践的な判断基準をまとめた資料。

※この記事は上記文献を元に、2025年6月時点の医療知見に基づいて編集しています。具体的な薬の使用については必ず医師・薬剤師にご相談ください。

タイトルとURLをコピーしました