エンレスト(ARNI)の作用機序とBNP上昇|心不全・高血圧での使い方

エンレスト(ARNI)の作用機序とBNP上昇 心不全・高血圧での使い方 医薬品
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こんにちは、『薬Talk』編集長、薬剤師のNoriです!

本サイトは、薬剤師をはじめとする医療従事者向けの情報提供サイトです。記載内容は告示・通知・添付文書などの原文を確認したうえでまとめています。一般の方が医薬品の使用を判断される際は、必ず医師・薬剤師にご相談ください。
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今回は、心不全治療の新たな選択肢として注目されている「エンレスト®(サクビトリルバルサルタン)」について、薬剤師の視点からわかりやすくご紹介します。

「ARBと何が違うの?」「高血圧の患者にも処方される理由は?」といった疑問を持つ方に向けて、作用機序や副作用、処方意図まで丁寧に解説していきます。


エンレストは、ARB(バルサルタン)とネプリライシン阻害薬(サクビトリル)の合剤で、心不全治療における新たな治療戦略「ARNI(Angiotensin Receptor–Neprilysin Inhibitor)」に属します。

成分名主な作用
バルサルタンAT1受容体遮断によるRA系抑制
サクビトリルネプリライシン阻害 → BNPなどナトリウム利尿ペプチド分解抑制

サクビトリルにより心保護作用や利尿効果が強化されることで、従来のARB単独治療よりも多面的な心不全管理が可能とされています。


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※ 本記事の制度・添付文書に関する記載はすべて原文を確認しており、広告主の影響を受けていません。

適応症:

  • 慢性心不全——成人は「慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る」。小児(1歳以上)にこの限定はありません。添付文書にLVEFの限定はありません(5.2で、臨床試験の患者背景〔前治療、左室駆出率、収縮期血圧等〕を理解したうえで適応患者を選ぶよう求めています)
  • 高血圧症——錠100mg・200mgのみ。50mg錠に高血圧症の適応はありません

用法・用量:

適応初期用量(目安)維持量(目標)
心不全1回50mg 1日2回(=100mg/日)1回200mg 1日2回(=400mg/日)まで2〜4週ごとに増量
高血圧200mg/日(分1)最大400mg/日

成人の慢性心不全では、ACE阻害薬またはARBから切り替えて投与します(5.1)。高血圧症では「原則として本剤を高血圧治療の第一選択薬としないこと」(5.5)とされ、理由に「過度な血圧低下のおそれ等」が挙げられています。


エンレスト錠の添付文書7.1と7.2から、成人の慢性心不全で増量するときの基準を示した図。7.1では腎機能障害(eGFR 90mL/min/1.73m2未満)のある患者、中等度の肝機能障害(Child-Pugh分類B)のある患者、血圧が低い患者では、状態を注意深く観察し増量の可否を慎重に判断することとされる。7.2の成人の臨床試験で用いられた増量時の基準は、血圧が症候性低血圧がみられず収縮期血圧95mmHg以上、血清カリウム値が5.4mEq/L以下、腎機能がeGFR 30mL/min/1.73m2以上かつeGFRの低下率が35%以下。これは1回50mgから1回100mgへの増量時の基準であり、臨床試験ではいずれの項目も満たす患者が増量可能とされた
エンレスト錠50mg/100mg/200mg、エンレスト粒状錠小児用12.5mg/31.25mg 添付文書(2026年10月改訂 第10版)7.1、7.2 成人の臨床試験で用いられた増量時の基準

HFrEF(左室駆出率低下型心不全)とは、左室駆出率が低下した心不全です。

  • 主な症状:息切れ・浮腫・倦怠感
  • 主な原因:虚血性心疾患、高血圧、心筋症
  • 治療目標:再入院予防、死亡率低下、QOL改善

エンレストはこのHFrEFにおいて、再入院や死亡率を有意に低下させることが、PARADIGM-HF試験(NEJM, 2014)で示されています。


添付文書の「12. 臨床検査結果に及ぼす影響」にこう書かれています。

本剤の薬力学的作用により本剤投与後にネプリライシンの基質であるBNPの上昇がみられることから、本剤投与後にBNPを測定する際は値の解釈に注意すること。

BNPが上がっても、心不全が悪化したのか薬の作用なのかを、BNPの数字だけでは見分けにくくなります。検査値つきの処方箋でエンレスト開始後にBNPが上がっていたら、まずこの記載を思い出してください。

なお、添付文書にはNT-proBNPで測るよう指示する記載はありません。臨床試験では、成人でNT-proBNPを層別因子に、小児で評価項目に使っています(17. 臨床成績)。


高血圧症の用量は1回200mgを1日1回(最大1回400mgを1日1回)です。心不全の「1日2回」と回数が違うので、同じエンレストでも適応で飲み方が変わります。

そして5.5で「原則として本剤を高血圧治療の第一選択薬としないこと」とされています。急な血圧低下については、次の2つの場面で「低用量から投与を開始し、増量する場合は徐々に行うこと」と書かれています。

  • 厳重な減塩療法中の患者(9.1.5)——急激な血圧低下(失神及び意識消失等を伴う)を起こすおそれ
  • 利尿降圧剤(フロセミド、トリクロルメチアジド等)との併用(10.2)——同じく急激な血圧低下のおそれ

疑義照会で実際に止まるのは、ここです。添付文書の禁忌を原文で並べます。

2.2 アンジオテンシン変換酵素阻害薬(アラセプリル、イミダプリル塩酸塩、エナラプリルマレイン酸塩、カプトプリル、キナプリル塩酸塩、シラザプリル水和物、テモカプリル塩酸塩、デラプリル塩酸塩、トランドラプリル、ベナゼプリル塩酸塩、ペリンドプリルエルブミン、リシノプリル水和物)を投与中の患者、あるいは投与中止から36時間以内の患者

「中止から36時間以内」が禁忌です。ACE阻害薬からの切り替えは日常的に起こります。前回の残薬をいつまで飲んでいたか——そこを聞けるのは薬局です。

逆向きにも36時間あります。8.1は「本剤投与終了後にアンジオテンシン変換酵素阻害薬を投与する場合は、本剤の最終投与から36時間後までは投与しないこと」としています。エンレストからACE阻害薬に戻す処方でも、最終服用の時刻を確認します。

そしてアリスキレンは、全患者の禁忌ではありません。

2.4 アリスキレンフマル酸塩を投与中の糖尿病患者(ただし、他の降圧治療を行ってもなお血圧のコントロールが著しく不良の患者を除く)

糖尿病患者に限定され、さらに除外規定まで付いています。「アリスキレンとの併用はNG」と覚えていると、範囲を広く取りすぎます。

残りの禁忌も挙げておきます。

  • 2.1 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
  • 2.3 血管性浮腫の既往歴のある患者(ARB又はACE阻害薬による血管性浮腫、遺伝性血管性浮腫、後天性血管性浮腫、特発性血管性浮腫等)
  • 2.5 重度の肝機能障害(Child-Pugh分類C)のある患者
  • 2.6 妊婦又は妊娠している可能性のある女性

エンレスト錠の重大な副作用と注意。血管性浮腫0.2%、腎機能障害2.4%、低血圧8.8%、高カリウム血症3.9%。手術前24時間は投与しないことが望ましい。アリスキレンの禁忌は糖尿病患者に限られ除外規定もある
PMDA 添付文書「エンレスト錠」(2026年10月改訂 第10版)
重大な副作用(11.1、頻度)添付文書が求めること
低血圧(8.8%)特に投与開始時・増量時に観察(8.2)。手術前24時間は投与しないことが望ましい(8.5)
高カリウム血症(3.9%)カリウム保持性利尿薬(スピロノラクトン・エプレレノン等)、カリウム製剤、ST合剤、シクロスポリンとの併用で上昇のおそれ(10.2)
腎機能障害(2.4%)・腎不全(0.6%)NSAIDsとの併用で悪化のおそれ。危険因子は高齢者、利尿薬使用を含む体液量減少、腎機能障害(10.2)
血管性浮腫(0.2%)腹痛・嘔気・嘔吐・下痢を伴う腸管血管性浮腫もある。消失しても再投与しない(11.1.1)

心不全の場合

  • ACE阻害薬やARBからの切り替え
  • BNP高値・再入院リスクへの対応
  • EFや腎機能に応じて慎重に漸増

高血圧の場合

  • 初めての降圧薬としてエンレストが出ていたら、5.5(原則として第一選択薬としない)を踏まえて、それまでの治療歴を確認する
  • 利尿薬を飲んでいる、または減塩を厳しくしている患者では、立ちくらみ・ふらつきを聞く(9.1.5、10.2)

エンレストは、単なる降圧薬ではありません。
心不全再発の予防、心機能の維持といった「心を守る」薬として位置づけられています。

薬剤師としては、この薬が「なぜ今、選ばれたのか?」を見抜き、患者さんごとに適切なサポートをすることが大切です。


【参考文献】

PMDA 添付文書「エンレスト錠50mg/100mg/200mg、エンレスト粒状錠小児用12.5mg/31.25mg」(2026年10月改訂 第10版)

日本循環器学会「慢性心不全治療ガイドライン(2021年版)」

ノバルティスファーマ株式会社「エンレスト製品情報」
https://www.novartis.co.jp/products/enresto-tab

PARADIGM-HF試験(NEJM, 2014)
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1409077

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