【薬は水で飲むべき?】薬剤師があらためて考える「服薬の基本」

服薬指導
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「自分は薬剤師だから、薬の飲み方なんて当然間違えない」――
そう思っていたあの朝のことを、今でも時々思い出します。

急いで出勤準備をしていた朝、抗菌薬をサッと口に入れ、手近にあった牛乳で流し込みました。
その後にふと、「これ、キレート起きるやつでは…?」と気づくという、あのヒヤリとした感覚。
知っているのに、うっかりやってしまう。そんな“薬剤師あるある”、きっと私だけじゃないはずです。

今回は改めて、「なぜ薬は水で飲むのか?」を見直してみたいと思います。
服薬指導をする側の私たちが、自分自身にも問い直したいテーマです。


薬局で「お水で飲んでくださいね」とお伝えすることがありますが、その裏にはきちんとした根拠があります。
水で飲むことは、薬の効果を引き出し、副作用を防ぐための最も安全で確実な方法です。

✅ 水は薬にとって“中立な存在”

水は中性に近く、他の飲み物に比べて成分の影響を受けにくい特徴があります。
一方、牛乳やお茶、ジュースなどは、カルシウムやタンニン、糖分などが含まれ、薬の吸収や分解に影響を及ぼす可能性があります。


✅ 薬は「小腸」で吸収されるように設計されている

薬は一般に、胃を通過して小腸で吸収される設計です。
水で飲めば、錠剤やカプセルはスムーズに胃から小腸へと運ばれます。

【体内の通過ルート】

口 → 食道 → 胃(pH1〜3)→ 小腸(pH6〜8)→ 血液へ吸収

胃は酸性環境のため、薬によっては分解されやすかったり、吸収が悪くなることがあります。
小腸は中性〜弱アルカリ性で、薬の吸収が最も効率的に行われる場所です。


✅ 飲み物のpHや成分にも注意

飲み物の種類によって、体内のpHや薬の挙動に影響が出ることがあります。

飲み物・部位pH特徴・注意点
胃液1〜3強酸性、薬によっては不安定
小腸6〜8主な吸収部位、理想的な環境
6.5〜7.5中性、薬との相性が良い
コーヒー5前後やや酸性、刺激性あり
緑茶6前後タンニン含有、鉄剤と相互作用の可能性
牛乳6.5〜6.8カルシウム含有、抗菌薬とのキレートに注意

✅ 水不足による食道炎・貼りつきも防ぐ

水が少ないと、薬が食道に貼りついたり、胃で炎症を起こすこともあります。
これを防ぐためにも、コップ1杯(150~200ml)程度の水での服用が望ましいとされています。


☕薬剤師でも水以外で飲んでしまうことはある

日常業務の合間や、忙しい朝、薬を飲むときに手に取ったのがコーヒーや牛乳だった――
そんな経験、薬剤師なら一度はあるのではないでしょうか。

専門知識があるがゆえの「これくらいなら大丈夫」という油断。
しかし、水以外の飲み物が持つpHや成分の影響は、思った以上に複雑です。

だからこそ、患者さんへの指導と同様に、自分自身の服薬習慣も見直しておきたいところです。


🚫注意が必要な飲み物と薬の組み合わせ

飲み物注意が必要な薬理由
牛乳ニューキノロン系抗菌薬カルシウムとキレートを形成し吸収が低下(2時間以上空ける)
グレープフルーツジュース高血圧薬・高脂血症薬などCYP3A4阻害により血中濃度上昇のリスク
緑茶・ウーロン茶鉄剤タンニンとの結合で吸収が低下する可能性(ただし食事程度なら影響は少ないという報告も)
コーヒー総合感冒薬など(カフェイン含有)カフェインの過剰摂取や一部薬の吸収低下

🔥漢方薬は白湯が良いと言われる理由

漢方薬では「白湯」が推奨されるケースがあります。
これは、白湯が体を温め、胃腸の働きを助けて吸収を促進するためです。

特に、冷えや虚弱がテーマとなる処方では、冷たい水は避ける方が良いとされます。
ただし、日常で白湯を用意するのが難しい場合は、常温の水でも十分に代用可能です。


🧠この一杯の水が、薬の効果を左右する

多くの薬は、「水で飲む」ことを前提に設計されています。
添付文書に明記されていなくても、あえて指定しないほど「当たり前」の前提なのです。

水は薬にとって、最も相性が良く、体にも優しい存在。
どの薬をどこで効かせたいかを考えたとき、水で飲むことが最も合理的で確実だということがわかります。

ほんの一杯の水が、あなたの服薬を確かなものにしてくれます。
それは、薬の力を引き出すための“最初の一歩”です。


🔗参考文献・出典

日本病院薬剤師会「薬物相互作用Q&A」(一部会員制ページ含む)

くすりのしおり(公益社団法人くすりの適正使用協議会)

PMDA 医薬品添付文書検索

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