こんにちは、「薬Talk」編集長Noriです!
昨年の8月上旬の午後、35℃近い猛暑日。
うちの薬局に、いつも穏やかな表情のおばあちゃん(82歳)がやってきました。
処方せんを手に受付に向かってきたのですが、その様子がちょっとおかしい…。
顔が真っ赤で、額には汗はなく、歩き方がふらついている。
「こんにちは」と声をかけても反応が鈍く、言葉がつっかえたり、話がかみ合わなかったり。
明らかに、いつもと違う。
私はすぐに待合室の椅子に案内し、水をお渡しして声をかけました。
「○○さん、今日の外は本当に暑いですね。歩いて来られたんですか?お水は飲まれてますか?」
すると、「うん、でも、あんまり水飲まなくてねぇ」と返答。
ここでピンと来ました。
これは…中等度の脱水、あるいは軽い熱中症の疑いがあるのではないか、と。
手足はやや冷たく、脈は速め。
ご本人は「大丈夫」とおっしゃるものの、明らかに様子が変。
ご家族の連絡先が、薬歴に記録してあったので、すぐにご家族に連絡。
「脱水や熱中症の疑いがる」と伝えたところ、ご家族も驚き、すぐに迎えに来て病院へ。
結果はやはり「脱水+軽度の熱中症」で、点滴を受けてその日は無事回復。
目次
◆ 脱水ってどうして起きるの?
体内の水分や電解質(ナトリウムなど)が失われすぎた状態が脱水です。主な原因は以下の通り:
- 大量の発汗(熱中症、運動、外作業)
- 下痢・嘔吐による脱水
- 利尿剤や糖尿病による排尿過多
- 高齢者の感覚鈍化・認知症による摂取不足
◆ 脱水の症状(初期〜重症)
● 軽度の症状
- のどの渇き
- 軽い頭痛・口の中の乾燥
- 濃い尿(黄〜オレンジ)
● 中等度の症状
- ふらつき・倦怠感
- 筋肉のけいれん
- ぼーっとする・集中力低下
● 重度の症状
- 血圧低下・頻脈
- 意識障害・尿がほとんど出ない
- 皮膚の弾力低下
◆ 脱水時の応急処置
- 涼しい場所へ移動
- 衣類を緩め、体を冷やす
- 経口補水液を少しずつ飲む
- 吐き気・意識障害がある場合はすぐ医療機関へ
◆ 脱水を予防する水分補給の方法
- 成人は1日1.5〜2リットルの水分を意識的に摂取
- のどが渇く前にこまめに飲む
- 起床後・入浴前後・就寝前にコップ1杯の水
- 高齢者や子どもは時間を決めて定期的に
- 発汗時は水だけでなく塩分も補給(スポーツドリンク・経口補水液)
- コーヒー・緑茶など利尿作用のあるものは控えめに
◆ アルコールと脱水の密接な関係
お酒を飲むと、抗利尿ホルモンが抑制されて尿量が増加。つまり、体の水分がどんどん抜けていくということです。
飲み会の翌朝に頭痛やだるさ、口の乾きがあるのは、まさに「アルコール性脱水」が原因。
● 対策方法
- 飲酒中に水をはさむ(チェイサー)
- 寝る前に水を1杯
- 翌朝は味噌汁や経口補水液で回復を
🩺 患者さんの観察と声かけが大事
「水、飲んでますか?」の一言が、大きな分かれ道になることもある。
薬剤師は「薬を渡す」だけじゃなく、患者さんの“いつもとの違い”を見抜く力が求められる。
特に高齢者は「喉が渇いた」と言えないこともあるため、観察力と声かけの習慣が命を守る。
◆ おわりに
脱水は年齢問わず、誰にでも起こる危険な状態です。
正しい知識と早めの対応で、防げる・救える命があります。
暑い季節も、元気に快適に過ごすために――
今日から「こまめに、正しく水分補給」、ぜひ実践してみてください!
◆ 参考文献・出典
- 厚生労働省「熱中症関連情報」
👉 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/nettyuusyou/ - 日本救急医学会「市民向け 熱中症対策ガイドライン 2021」
👉 https://www.jaam.jp/html/info/2021/pdf/info-20210719.pdf - 日本小児科学会「下痢症に対する経口補水療法」
👉 https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/guideline_2017_01.pdf - WHO「Oral Rehydration Salts」
👉 https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/oral-rehydration-salts