目次
🧑⚕️ はじめに
こんにちは、『薬Talk』編集長、薬剤師のNoriです!
ある日患者さんに「この目薬、なんか効いてない気がするんですけど……」と相談されました。
バッグから出てきたのは、タプロスミニ点眼液(一般名:タフルプロスト)。
しかも裸のまま、ポーチの奥からひょっこり。アルミ包装は数か月前に開封され、遮光袋にも入っていませんでした。
そう、点眼薬は“させば効く”わけではありません。
正しい保存・使用方法・指導があってこそ、患者の視野を守る薬になるのです。
今回は、薬剤師向けに
🧠 緑内障の病態理解から
💊 点眼薬の作用機序・振とう
❄️ 保存法
👁️ コンタクトレンズ対応
📌 指導ポイントまでを完全網羅でお届けします!
🧠 緑内障とは?(疾患と病態)
- 緑内障は、視神経乳頭の障害により視野が欠けていく進行性疾患群です。
- 日本では中高年の失明原因第1位。
- 進行しても視力が保たれることが多く、発見が遅れやすい。
🔬 病態生理のポイント
- 房水の産生と排出のバランスが崩れると眼圧上昇 → 視神経が障害。
- 房水の流出経路:
→ 毛様体で産生 → 後房 → 前房 → 線維柱帯 → シュレム管 → 強膜外へ
👁️ 緑内障の種類と特徴
種類 | 特徴 |
---|---|
原発開放隅角緑内障 | 最も多い。慢性進行で自覚症状に乏しい。 |
正常眼圧緑内障(NTG) | 日本人に非常に多い(7割)。眼圧は正常でも視神経障害あり。 |
原発閉塞隅角緑内障 | 急性型は眼痛・充血・視力低下が急激に。緊急対応が必要。 |
続発緑内障 | ステロイド使用、炎症、外傷、糖尿病などが原因。 |
発達緑内障(先天性) | 生まれつき排出路が未形成。乳児・小児で発症。 |
📈 眼圧の検査と基準値
- 正常眼圧の目安:10〜21 mmHg
- 日内変動あり(朝高く夜低い)ため、複数回の測定が重要
- NTGでは正常範囲内でも視神経障害が進行することがある
→ 治療の目標は「その人にとって安全な眼圧(目標眼圧)」を維持すること。
💊 緑内障点眼薬の作用機序と種類
薬剤群 | 製品名(一般名) | 主な作用機序 | 特徴・副作用 |
---|---|---|---|
PGF2α誘導体 | キサラタン(ラタノプロスト)、ルミガン(ビマトプロスト)、タプロスミニ(タフルプロスト) | 房水のぶどう膜強膜流出促進 | 睫毛伸長・色素沈着・要冷所保存(製剤により異なる) |
β遮断薬 | チモプトール/XE(チモロール)、リズモンTG(チモロール)、ミケランLA(カルテオロール) | 房水産生抑制 | 徐脈・喘息禁忌。XE・TG・LAはゲル化型 |
炭酸脱水酵素阻害薬 | トルソプト懸濁性(ドルゾラミド)、エイゾプト(ブリンゾラミド) | HCO₃⁻合成阻害→房水産生↓ | 懸濁性あり:要振とう。苦味あり |
α2作動薬 | アイファガン(ブリモニジン) | 房水産生抑制+ぶどう膜流出促進 | 眠気・アレルギー性結膜炎に注意 |
Rhoキナーゼ阻害薬 | グラナテック(リパスジル) | 線維柱帯細胞の弛緩→流出促進 | 充血が頻繁。新機序で注目される |
配合剤 | アゾルガ(ブリンゾラミド+チモロール)など | 各成分の合成作用 | アドヒアランス向上。懸濁性=要振とう |
🌀 要振とう製剤リスト(※使用前にしっかり振る!)
製品名 | 一般名 | 剤形 |
---|---|---|
アゾルガ配合懸濁性点眼液 | ブリンゾラミド+チモロール | 懸濁性 |
エイゾプト点眼液 | ブリンゾラミド | 懸濁性 |
トルソプト懸濁性点眼液 | ドルゾラミド | 懸濁性 |
⏳ 複数点眼時は「10分以上あける」べき製剤
製品名 | 特徴 |
---|---|
チモプトールXE | ゲル化型 |
リズモンTG | ゲル化型 |
ミケランLA | 粘稠性持続型 |
アゾルガ | 懸濁性 |
エイゾプト | 懸濁性 |
❄️ 保存方法まとめ
製品名 | 未開封保存 | 開封後保存 | 特記事項 |
---|---|---|---|
キサラタン | 冷所(2~8℃) | 室温(25℃以下)可 | 夏場は冷所推奨 |
トラバタンズ | 冷所 | 室温可 | 遮光必要 |
ルミガン | 冷所 | 室温可 | 睫毛伸長・色素沈着あり |
タプロスミニ | 冷所・遮光 | <ul><li>冷所:1年以内</li><li>室温:1か月以内</li></ul> | 遮光袋に入れること! |
アゾルガ/エイゾプト | 室温可 | 室温可 | 要振とう製剤 |
👁️ コンタクト装用時の注意点
✅ ハードレンズ:原則使用可(ただし外して点眼が推奨)
❌ ソフトレンズ(1DAY含む):
- 防腐剤(BAK等)がレンズに吸着 → 角膜障害のリスク
- 添付文書では**「外して点眼→15分後に再装着」が原則**
- PF製剤(例:タプロスミニ)でも「外して点眼」と明記
💬 医師による「1DAYなら装着のままOK」という判断もあり
→ アドヒアランス重視の例外的指示。薬剤師は添付文書準拠を基本に指導し、医師の意向がある場合は薬歴に記録して対応。
📌 服薬指導ポイント(まとめ)
- 「この薬、振ってますか?」「何分あけて使ってますか?」「冷蔵庫入れてますか?」のひと声が命
- 患者の使用実態(保存状態、使用頻度、点眼の順番)を具体的に聞く
- ソフトコンタクト使用者は特に慎重にタイミング指導を!
✋ おわりに
点眼薬は「させば効く」ではなく、「正しく使ってこそ効果が出る薬」。
1滴の指導が、患者の未来の視野を守る第一歩になります。
📚 参考文献・リンク集(2025年6月時点)
- 日本緑内障学会|緑内障の基礎知識
https://www.ryokunaisho.jp/glaucoma/ - 参天製薬:緑内障の種類と治療
https://www.santen.co.jp/ja/healthcare/eye/library/glaucoma/ - ファイザー:キサラタン点眼液添付文書
https://www.pfizerpro.jp/product/xalatan/ - 参天製薬:タプロスミニ点眼液 添付文書
https://med.santen.co.jp/medical/products/eyedrop/taprosmini/ - 日本アルコン:アゾルガ配合懸濁性点眼液 医薬品情報
https://www.myalcon.jp/professional/products/ophthalmic/arozga/ - 参天製薬:ブリンゾラミド点眼液(エイゾプト)添付文書
https://med.santen.co.jp/medical/products/eyedrop/eyzopto/ - 日本点眼薬協会:点眼時の注意点(併用間隔・コンタクト対応)
https://www.ten-gan.jp/use/ - 緑内障治療ガイドライン 第5版(日本緑内障学会 編)
https://www.ryokunaisho.jp/professional/guideline/ - 東京都薬剤師会 学術研修資料|緑内障点眼薬の作用と指導ポイント
https://www.toyaku.or.jp/educational/