こんにちは、『薬Talk』編集長Noriです!
お腹の赤ちゃんがすくすく育っていく妊娠期。このかけがえのない時間を過ごす中で、 「風邪ひいたけど薬飲んでいいのかな…?」「頭が痛い…でも我慢するしかないのかな?」と悩んだ経験はありませんか?
薬は、私たちの体調を整えてくれる大切な存在ですが、妊娠中となると少し話が変わります。 実は、日常的によく使われているお薬の中にも、赤ちゃんに影響を与える可能性があるものがあるんです。
特に妊娠初期(妊娠4〜11週)は、赤ちゃんの心臓・脳・手足など大切な器官が作られる”器官形成期”と呼ばれ、 この時期に使う薬の種類によっては、赤ちゃんに奇形や発達の影響が出ることもあるため、慎重な判断が必要になります。
この記事では、妊婦さん向けに、薬ごとに「使っていい薬・避けた方がよい薬」を優しい語り口で、表や具体例付きでわかりやすくご紹介します。
目次
妊婦さん向け:薬の種類別にみる使用の可否
以下では、薬の種類ごとに、妊娠中に使ってもよいのかを表にまとめました。
*使用ができないとされている薬剤でも、治療上使用が必要な場合もあります。必ず医師の指示に従ってください。
1. 解熱鎮痛剤(アセトアミノフェン、NSAIDs)
熱が出たときや頭痛、腰痛などに使われる薬です。妊娠中は使える薬が限られるため注意が必要です。
薬剤名 | 使用可否 | 使用可能な月齢 | 催奇形性・注意点 | 危険度 |
---|---|---|---|---|
アセトアミノフェン | ◎ | 全妊娠期間で使用可 | 安全性が高い、第一選択 | ★ |
NSAIDs(イブプロフェン、ロキソプロフェン) | △ | 妊娠初期・中期は注意、後期は禁忌 | 動脈管収縮、胎児腎障害 | ★★★ |
2. 抗生物質
感染症を治療するために使われます。妊娠中でも使えるものと、胎児への影響が心配されるものがあります。
薬剤名 | 使用可否 | 使用可能な月齢 | 催奇形性・注意点 | 危険度 |
ペニシリン系(アモキシシリン等) | ◎ | 全妊娠期間で使用可 | 特に問題なし、第一選択薬 | ★ |
セフェム系(セフカペン等) | ◎ | 全妊娠期間で使用可 | 安全性高い | ★ |
マクロライド系(クラリスロマイシン、アジスロマイシン) | ○ | 妊娠中期以降推奨 | 動物実験で催奇形性報告ありだがヒトでは限定的 | ★★ |
ニューキノロン系(レボフロキサシン等) | × | 禁忌 | 関節障害・軟骨形成異常 | ★★★★ |
テトラサイクリン系 | × | 禁忌 | 歯牙形成不全・骨発達障害 | ★★★★ |
3. 咳止め(鎮咳薬)
咳が続いて眠れないときなどに使います。安全性が高い薬もありますが、注意が必要なものも。
薬剤名 | 使用可否 | 使用可能な月齢 | 注意点 | 危険度 |
デキストロメトルファン | ○ | 妊娠初期〜後期で可 | 安全性高め | ★ |
コデイン | × | 禁忌 | 胎児呼吸抑制、奇形の報告あり | ★★★ |
チペピジン(アスベリン) | ○ | 妊娠中期以降推奨 | 安全性は比較的高い | ★ |
ジメモルファン(アストミン) | ○ | 妊娠後期は注意 | 長期使用は避ける | ★★ |
クロフェダノール(レスプレン) | △ | 初期・中期に注意 | 十分なデータがない | ★★ |
リフヌア(ナルフラフィン) | △ | 妊娠中の安全性は未確立 | 使用は避けるのが望ましい | ★★★ |
4. 鼻炎薬(抗ヒスタミン薬・点鼻薬)
鼻水やくしゃみ、アレルギー症状を抑える薬です。妊娠中は眠気や血流への影響に注意。
薬剤名 | 使用可否 | 使用可能な月齢 | 注意点 | 危険度 |
第二世代(フェキソフェナジン、ロラタジン、セチリジン、レボセチリジン、ベポタスチン) | ○ | 中期以降推奨 | 非鎮静性で安全性高め | ★ |
デスロラタジン(デザレックス) | ○ | 中期以降推奨 | 動物実験で問題なし | ★ |
ルパタジン(ルパフィン) | △ | 中期以降慎重に | ヒトでの安全性データ不足 | ★★ |
プソイドエフェドリン配合(プソフェキ等) | × | 禁忌 | 子宮収縮・胎盤血流低下 | ★★★ |
クロルフェニラミン | △ | 初期以降で慎重に | 第一世代、眠気や中枢抑制の懸念 | ★★ |
オキシメタゾリン点鼻 | △ | 連用不可 | 血管収縮による胎盤循環低下 | ★★ |
5. 吐き気止め
つわりなどで辛いときに使われます。安全性の確認された薬を選びましょう。
薬剤名 | 使用可否 | 使用可能な月齢 | 注意点 | 危険度 |
メトクロプラミド(プリンペラン) | ○ | 妊娠初期以降 | 長期使用で錐体外路症状の可能性 | ★★ |
ドンペリドン(ナウゼリン) | ○ | 妊娠中期以降推奨 | 長期・高用量は避ける | ★★ |
*ドンペリドンは妊娠と薬情報センター」により禁忌から「妊婦」が除外されました
6. 止瀉薬(下痢止め)・便秘薬
妊娠中は腸の動きが変わりやすく、下痢や便秘に悩まされることも。安全性の高い薬を選ぶのが基本です。
薬剤名 | 使用可否 | 使用可能な月齢 | 注意点 | 危険度 |
タンニン酸アルブミン(アドソルビン) | ◎ | 全妊娠期間可 | 非吸収性、安全性高い | ★ |
ロペラミド | △ | 中期以降慎重に | 中枢神経への作用に注意 | ★★ |
酸化マグネシウム | ◎ | 全妊娠期間可 | 安全性高 | ★ |
アローゼン(センナ) | △ | 中期以降可 | 子宮収縮の可能性あり | ★★ |
ピコスルファートナトリウム | △ | 初期は慎重に | 子宮刺激作用の可能性 | ★★ |
7. 降圧剤
妊娠高血圧症候群などに使われる薬です。胎児への影響を考慮して、使える薬が限られます。
薬剤名 | 使用可否 | 使用可能な月齢 | 注意点 | 危険度 |
メチルドパ | ◎ | 妊娠高血圧症の第一選択 | 安全性高 | ★ |
ラベタロール | ○ | 中期以降推奨 | 比較的安全 | ★ |
βブロッカー(アテノロール等) | △ | 妊娠後期に胎児発育遅延の報告 | 使用時は慎重に管理 | ★★ |
Ca拮抗薬(アムロジピン等) | △ | 中期以降推奨 | ヒトでの使用例多数、慎重使用 | ★★ |
ACE阻害薬・ARB(エナラプリル等) | × | 禁忌 | 催奇形性・胎児腎障害 | ★★★★ |
バイアスピリン(低用量アスピリン) | ○ | 妊娠12〜27週まで推奨 | 妊娠高血圧症候群予防に有効、後期は中止 | ★ |
8. 抗てんかん薬
てんかんの治療に使われる薬の中には、強い催奇形性を持つものもあります。
薬剤名 | 使用可否 | 使用可能な月齢 | 催奇形性・注意点 | 危険度 |
ラモトリギン | ○ | 血中濃度変動に注意 | 神経管閉鎖障害の報告少ない | ★★ |
バルプロ酸 | × | 禁忌 | 神経管閉鎖障害のリスク大 | ★★★★ |
9. その他注意の必要な薬
ニキビ薬や精神科薬など、普段使っている人も多い薬の中に、妊娠中は絶対に避けるべき薬があります。
薬剤名 | 使用可否 | 使用可能な月齢 | 注意点 | 危険度 |
ワルファリン | × | 禁忌 | 胎児出血・奇形(ワルファリン症候群) | ★★★★ |
イソトレチノイン(ニキビ治療) | × | 禁忌 | 催奇形性が非常に強い | ★★★★★ |
リチウム | × | 禁忌 | 心奇形の報告あり | ★★★★ |
このように妊娠中の薬は「月齢」「薬の種類」「催奇形性の有無」によって使えるかどうかが大きく変わります。 自己判断は禁物!何か薬を使いたいときは、必ず医師・薬剤師に相談しましょう。
参考文献・情報源
厚生労働省
▶ 妊婦・授乳婦への医薬品の適正使用に関する情報
日本産婦人科医会
▶ 『妊婦と薬』ガイドライン(2022年改訂版)PDF
国立成育医療研究センター「妊娠と薬情報センター」
▶ https://www.ncchd.go.jp/kusuri/
沢井製薬「くすりのしおり」
▶ https://www.kusuri-shiori.jp
※薬品名で検索すると妊娠中・授乳中の使用可否も記載
MIMS JAPAN(妊娠・授乳と薬物治療)
▶ https://mimscx.mimsjapan.co.jp
※医療従事者向け。妊婦・授乳婦への使用可否が記載されています。
日本薬剤師会
▶ https://www.nichiyaku.or.jp
※「薬剤師のための妊娠中・授乳中の薬剤使用の手引き」等、会員向け資料多数。
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