妊娠中・授乳中の薬をどう説明するか|週数と移行量から考える、薬剤師の判断手順

妊娠中・授乳中の薬をどう説明するか 週数と移行量から考える、薬剤師の判断手順 小児・妊婦・授乳婦
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執筆:Nori(薬Talk編集長・薬剤師)/調剤薬局勤務26年。管理薬剤師を経て、現在はチェーン薬局の本社部門で店舗運営支援を担当しています。

本サイトは、薬剤師をはじめとする医療従事者向けの情報提供サイトです。記載内容は告示・通知・添付文書などの原文を確認したうえでまとめています。一般の方が医薬品の使用を判断される際は、必ず医師・薬剤師にご相談ください。
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【はじめにお読みください】
本記事は、妊娠中・授乳中の方から相談を受ける機会のある方に向けて、判断の枠組みと調べ方を整理したものです。個別の薬剤について「使ってよい/いけない」を判断できるものではありません。実際の使用は必ず医師・薬剤師にご相談ください。

「妊娠中ですが、この薬は飲んでも大丈夫ですか」

窓口で最も答えに詰まる質問のひとつだと思います。私も長く迷ってきました。安易に「大丈夫です」とは言えない。かといって「医師に聞いてください」で終わらせると、目の前の不安は何も解消されません。

この記事は、薬剤一覧表ではありません。その場でどう考え、どこを調べ、何を伝えるか——判断の手順を整理します。個別の可否は薬剤ごとに異なり、一覧では追いつかないからです。

妊娠中:まず「いつ」を確認する

妊娠中の薬の影響は、妊娠週数によって性質がまったく違います。薬剤名を聞く前に、週数を確認してください。

時期週数の目安考えるべきこと
無影響期受精〜妊娠3週末着床前。影響が出れば流産に至り、残った場合は影響を残さないとされる(All or None)
絶対過敏期妊娠4週〜7週末中枢神経・心臓・消化器・四肢などの器官形成期。催奇形性を最も慎重に考える時期
相対過敏期妊娠8週〜15週末主要器官の形成は終わるが、口蓋・性器等の分化が続く
比較的過敏期〜潜在過敏期妊娠16週〜分娩形態異常より、胎児の機能・発育への影響が問題になる

相談を受けたとき、「もう飲んでしまった」のか「これから飲むか迷っている」のかで、話す内容が変わります。

  • すでに服用した場合——不安を増幅させないことが第一です。妊娠に気づかず服用したケースは非常に多く、多くは問題になりません。週数と薬剤を確認し、専門の相談先につなぐ
  • これから使うか迷っている場合——「薬を飲まないこと」がリスクになる場合もあります。発熱や持病の悪化のほうが影響が大きいことは珍しくありません

「薬を避ける」が常に安全側ではない——これは伝える価値のある視点です。自己判断で治療を中断してしまう方がいます。

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※ 本記事の制度・添付文書に関する記載はすべて原文を確認しており、広告主の影響を受けていません。

授乳中:移行量で考える

授乳中は、妊娠中とは考え方が変わります。問題は「胎児への影響」ではなく、「母乳を介して乳児がどれだけ薬を受け取るか」です。

評価に使われる代表的な指標が2つあります。

M/P比母乳中濃度と母体血漿中濃度の比。高いほど母乳に移行しやすい
RID
(相対的乳児投与量)
乳児が母乳から受け取る量が、体重あたりの母体投与量の何%にあたるか目安として10%未満であれば許容されることが多いとされる

実務で重要なのは、多くの薬剤で母乳中への移行はごく微量にとどまるという点です。「授乳中は薬を飲めない」という思い込みで、必要な治療を我慢している方がいます。

一方で、乳児側の条件も考える必要があります。

  • 月齢——新生児・低出生体重児は代謝・排泄能が未熟で、影響を受けやすい
  • 哺乳量——完全母乳か、混合か
  • 投与期間——単回か、長期か

「この薬は授乳中OK」という一律の答えはありません。同じ薬でも、生後1週の子と1歳の子では話が違います。

添付文書の記載をどう読むか

ここが実務で最も悩むところです。

添付文書の「妊婦・産婦・授乳婦等への投与」には、しばしば「授乳を避けさせること」と書かれています。しかし、これは必ずしも「危険であることが確認された」という意味ではありません。

ヒトでの安全性データが十分でない場合、製造販売業者は安全側に倒した記載をします。データがないことと、危険であることは違います。

したがって、添付文書だけで判断すると「ほとんどの薬が授乳中使えない」という結論になってしまいます。実際の臨床判断では、専門機関の情報と併せて考える必要があります。

ただし、薬剤師が独断で「添付文書には避けろと書いてあるが大丈夫です」と言うべきではありません。処方医と情報を共有し、判断を仰ぐのが筋です。伝えるべきは「添付文書の記載の背景」であって、可否の結論ではありません。

どこを調べるか

信頼できる情報源を、確認する順に並べます。

  1. 添付文書・インタビューフォーム(PMDA)——まず一次情報。記載の背景まで読む
  2. 国立成育医療研究センター「妊娠と薬情報センター」——妊娠中・授乳中の薬について相談を受け付けている国の事業。全国に拠点病院があります
  3. 各学会のガイドライン——産婦人科診療ガイドライン等
  4. 製造販売業者の学術情報窓口——公表されていないデータを持っている場合があります

2番の存在を知らない薬剤師が、意外に多いと感じています。「妊娠と薬情報センター」は、妊婦・授乳婦本人からの相談を受け付けており、拠点病院を通じて個別に回答が得られます。

窓口で答えきれないとき、「こういう相談先があります」と案内できること自体が、大きな価値です。「医師に聞いてください」で終わらせるより、はるかに親切です。

相談を受けたときの手順

  1. 状況を確認する——妊娠週数/授乳中なら乳児の月齢と哺乳の状況/すでに服用したか、これからか
  2. 何に困っているのかを聞く——症状そのものなのか、不安なのか。後者であることは多い
  3. 調べる——添付文書、専門機関の情報
  4. 断定を避けつつ、材料を渡す——「一般に、この時期は◯◯が考慮されます」まで
  5. 処方医または専門相談先につなぐ
  6. 薬歴に残す——相談内容、伝えた内容、つないだ先

2番を飛ばさないことをお勧めします。「この薬は大丈夫ですか」という質問の裏に、「薬を飲む自分は母親失格ではないか」という気持ちが隠れていることがあります。

そこに対して薬の話だけを返しても、本当の不安は解消されません。「治療することは、お子さんのためにもなります」という一言が、いちばん求められている場合があります。

患者さんに伝えたい3つのこと

説明の軸として、私が使っている3点です。

  • 自己判断で中断しない——持病の薬を勝手にやめることのほうが、リスクが大きい場合があります
  • 必要最小限・最短期間で——使うと決めたら、漫然と続けない
  • 妊娠・授乳中であることを、受診のたびに必ず伝える——医師・薬剤師が知らなければ、配慮のしようがありません

3つ目は特に重要です。お薬手帳に「妊娠中」「授乳中」と書いておくよう勧めるだけで、その後の安全性が大きく変わります。

まとめ

  • 妊娠中はまず週数を確認する。絶対過敏期(4〜7週末)とそれ以降で考え方が違う
  • 「薬を避ける」が常に安全側とは限らない。治療しないリスクも伝える
  • 授乳中は移行量(M/P比・RID)乳児側の条件(月齢・哺乳量・期間)で考える
  • 添付文書の「授乳を避けさせること」は、危険の確認ではなくデータ不足の場合がある
  • ただし薬剤師が独断で覆さない。処方医と共有する
  • 国立成育医療研究センター「妊娠と薬情報センター」を案内できるようにしておく
  • 「大丈夫ですか」の裏にある不安そのものに応える

参考

※ 本記事は判断の枠組みを整理したものであり、個別の薬剤の使用可否を示すものではありません。妊娠中・授乳中の薬の使用については、必ず医師・薬剤師にご相談ください。自己判断での服用・中止は避けてください。

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