睡眠薬は喘息に禁忌?|19品目の添付文書で確認、BZ・Z薬の条件は「呼吸機能の高度な低下」【原則禁忌は廃止】

睡眠薬は喘息に禁忌?|19品目の添付文書で確認、BZ・Z薬の条件は「呼吸機能の高度な低下」【原則禁忌は廃止】 医薬品
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執筆:Nori(薬Talk編集長・薬剤師)/調剤薬局勤務26年。管理薬剤師を経て、現在はチェーン薬局の本社部門で店舗運営支援を担当しています。

喘息の患者さんに睡眠薬が出たとき、「睡眠薬は喘息に禁忌だったはず」と手が止まったことはありませんか。

睡眠薬19品目の添付文書を開いて確かめました。「気管支喘息」というだけで禁忌になっている睡眠薬は、1つもありません。ベンゾジアゼピン系とZ薬に書いてあるのは、「気管支喘息等で呼吸機能が高度に低下している患者」には、治療上やむを得ない場合を除いて投与しない、という注意です。場所は「禁忌」ではなく、「9.1 合併症・既往歴等のある患者」です。

0品目「喘息」だけで禁忌の睡眠薬19品目の添付文書を確認
12品目ベンゾジアゼピン系・Z薬の9.1.1「呼吸機能が高度に低下」で原則投与しない
1品目睡眠時無呼吸症候群が禁忌ドラール(クアゼパム)
見るべきは「喘息かどうか」ではなく「いま呼吸機能が高度に低下しているか」です。そして「原則禁忌」という区分は、2019年からの新しい添付文書の書き方で廃止されています。古い資料のまま説明すると、根拠を聞かれたときに答えられません。

「原則禁忌」は、もう添付文書にない

添付文書の書き方は、厚生労働省の通知「医療用医薬品の添付文書等の記載要領について」(平成29年6月8日 薬生発0608第1号)で大きく変わりました。要点の1つめがこれです。

旧局長通知に含まれる「原則禁忌」及び「慎重投与」の廃止、並びに「特定の背景を有する患者に関する注意」の新設等、添付文書等の項目・構造を見直したこと。

適用は平成31年(2019年)4月1日から。すでに承認されていた薬も、令和6年(2024年)3月31日まで(通知の表記は「平成36年3月31日」)にできるだけ速やかに改訂することとされました。

睡眠薬で「原則禁忌」だった「呼吸機能が高度に低下している患者」は、新しい添付文書では「9. 特定の背景を有する患者に関する注意」の「9.1 合併症・既往歴等のある患者」に移っています。書き方は「治療上やむを得ないと判断される場合を除き、投与しない」。中身は「原則として使わない」のままですが、区分の名前は「禁忌」でも「原則禁忌」でもありません。

19品目を添付文書で並べる

呼吸に関わる記載が、添付文書のどの項目に、どう書いてあるかを並べました。「禁忌」の列に呼吸の記載があるのは、ドラールの睡眠時無呼吸症候群だけです。

系統製品(一般名)禁忌(2.)に呼吸の記載9.1 合併症のある患者
ベンゾジアゼピン系ハルシオン(トリアゾラム)なし9.1.1 呼吸機能が高度に低下している患者:投与しないこと。やむを得ず投与が必要な場合には、少量より開始し、呼吸の状態を見ながら慎重に調節
レンドルミン(ブロチゾラム)なし9.1.1 肺性心、肺気腫、気管支喘息及び脳血管障害の急性期等で呼吸機能が高度に低下している患者:治療上やむを得ないと判断される場合を除き、投与しない(炭酸ガスナルコーシス)。サイレース・ダルメートは「少量から投与を開始するなど注意」も記載
エバミール(ロルメタゼパム)なし
リスミー(リルマザホン)なし
ユーロジン(エスタゾラム)なし
サイレース(フルニトラゼパム)なし
ベンザリン(ニトラゼパム)なし
ダルメート(フルラゼパム)なし
ドラール(クアゼパム)あり:2.4 睡眠時無呼吸症候群の患者
Z薬(非ベンゾジアゼピン系)マイスリー(ゾルピデム)なし9.1.1 同上(呼吸機能が高度に低下している患者:治療上やむを得ない場合を除き、投与しない)
アモバン(ゾピクロン)なし
ルネスタ(エスゾピクロン)なし
オレキシン受容体拮抗薬ベルソムラ(スボレキサント)なし9.1.2 重度の呼吸機能障害を有する患者:臨床試験は実施していない
デエビゴ(レンボレキサント)なし9.1.3 中等度及び重度の呼吸機能障害(OSA・COPDを除く):使用経験がなく、安全性は確立していない/9.1.4 中等度及び重度のOSA・COPD:長期投与の使用経験がない
クービビック(ダリドレキサント)なし9.1.2 中等度及び重度の呼吸機能障害(OSA及び中等度以下のCOPDを除く):臨床試験は実施していない/9.1.3 OSA・COPD:長期投与の使用経験はない
ボルズィ(ボルノレキサント)なし9.1.3 呼吸機能障害のある患者(軽度のOSAを除く):臨床試験は実施していない
メラトニン受容体作動薬ロゼレム(ラメルテオン)なし9.1.1 高度の睡眠時無呼吸症候群患者:使用経験がなく、安全性は確立していない
メラトニンメラトベル(メラトニン)なし呼吸機能についての記載なし(効能は「小児期の神経発達症に伴う入眠困難の改善」)
(参考)抗不安薬デパス(エチゾラム)なし9.1.4 中等度呼吸障害又は重篤な呼吸障害(呼吸不全)のある患者:炭酸ガスナルコーシスを起こすことがある
OSA=閉塞性睡眠時無呼吸、COPD=慢性閉塞性肺疾患。各社の添付文書(PMDA掲載の現行版)の記載を要約。9.1欄は要旨で、文言は製品ごとに少し違います

ベンゾジアゼピン系とZ薬の12品目は、9.1.1の中身が同じです(文言は製品ごとに少し違います)。リルマザホン(リスミー)もエスタゾラム(ユーロジン)もニトラゼパム(ベンザリン)も、トリアゾラムやブロチゾラムと同じ扱いで、「この薬なら呼吸は気にしなくてよい」という差は添付文書からは読み取れません。

いちばん書き方が強いのはハルシオンで、「治療上やむを得ない場合を除き」を付けずに「投与しないこと」と言い切ったうえで、「やむを得ず投与が必要な場合には、少量より投与を開始し、呼吸の状態を見ながら投与量を慎重に調節すること」と続けています。サイレースとダルメートにも「少量から投与を開始するなど注意すること」という一文があります。

「喘息」は例の1つ。条件は「呼吸機能が高度に低下している」

9.1.1の文をもう一度読みます。

治療上やむを得ないと判断される場合を除き、投与しない。肺性心、肺気腫、気管支喘息及び脳血管障害の急性期等で呼吸機能が高度に低下している場合、炭酸ガスナルコーシスを起こすおそれがある。

肺性心・肺気腫・気管支喘息・脳血管障害の急性期は、呼吸機能が高度に低下する場面の例として挙がっています。対象は「呼吸機能が高度に低下している患者」です。喘息の診断があるだけで、コントロールが保たれている患者さんは、この文の直接の対象ではありません。

ただし、「対象ではない」は「問題ない」という意味ではありません。夜間の症状がある、発作止めを使う回数が増えている、最近増悪した——こうした状態は「高度に低下」の側に近づきます。患者さんに「喘息でも大丈夫」と言い切らず、最近の発作・夜間の症状・在宅酸素・COPDの合併を聞き、判断が要る場合は処方医に確認します。病棟では、発作・増悪の最中に睡眠薬(頓用を含む)を使わないことが、この注意のいちばん中心の場面です。

理由として書かれているのは炭酸ガスナルコーシスです。12品目とも「11.1 重大な副作用」に呼吸抑制が挙がっていて、多くは「呼吸機能が高度に低下している患者に投与した場合、炭酸ガスナルコーシスを起こすことがある」と、気道確保・換気の処置まで書いています。

オレキシン受容体拮抗薬は「投与しない」とは書いていない

ベルソムラ・デエビゴ・クービビック・ボルズィの4剤には、「投与しない」という文はありません。書いてあるのは「臨床試験は実施していない」「使用経験がない」です。これは「安全」という意味ではなく、データがない範囲がどこかを示しています。

その範囲が、薬ごとに違います。

  • ベルソムラ:試験していないのは「重度」の呼吸機能障害。軽度〜中等度のCOPD患者25例・OSA患者26例に4日間投与して、明らかな呼吸抑制作用はみられなかった(重度のCOPD・OSAは検討されていない)
  • デエビゴ:中等度〜重度のOSA患者33例、中等度〜重度のCOPD患者30例に10mgを8日間投与し、OSAでは無呼吸低呼吸指数がプラセボと同程度、COPDでは睡眠中のSpO2低下は認められなかった(米国の製造販売後臨床試験)。ただし長期投与の使用経験はない
  • クービビック:中等度COPD患者、軽度〜中等度と重度のOSA患者で臨床薬理試験あり。OSA・COPDでの長期投与の使用経験はない
  • ボルズィ:試験があるのは軽度のOSA患者(46例)。それ以外の呼吸機能障害は臨床試験を実施していない

同じ系統でも、「どこまで試験しているか」が4剤でそろっていません。系統でまとめて「オレキシンなら呼吸は大丈夫」と説明しないほうが安全です。

ロゼレムと、睡眠時無呼吸症候群

ロゼレム(ラメルテオン)の9.1.1は「高度の睡眠時無呼吸症候群患者」で、使用経験がなく安全性は確立していない、という書き方です。臨床薬理試験として、軽度又は中等度の閉塞性睡眠時無呼吸患者に16mg(承認用量は1回8mg)を単回投与し、睡眠中の無呼吸低呼吸指数への影響は認められなかったと記載されています。

睡眠時無呼吸症候群を禁忌にしているのは、19品目のうちドラール(クアゼパム)だけです(2.4「呼吸障害を悪化させるおそれがある」)。喘息と睡眠時無呼吸症候群を合併している患者さんにドラールが出たら、確認が要ります。

デパスは「中等度」から書いている

睡眠目的で出ることもあるデパス(エチゾラム)は、9.1.4で「中等度呼吸障害又は重篤な呼吸障害(呼吸不全)のある患者」を挙げています。睡眠薬の9.1.1が「高度に低下」なのに対し、デパスは中等度から注意の対象です。

ついでに見落としやすい:クラリスロマイシンとの併用

呼吸器の感染症でクラリスロマイシンが出たときは、睡眠薬側の併用禁忌を確認します。喘息に限った話ではありませんが、呼吸器の処方と重なりやすい組み合わせです。

  • ベルソムラ・クービビック・ボルズィ:クラリスロマイシンは併用禁忌(2. 禁忌に記載)
  • デエビゴ:禁忌ではない。7.4で、CYP3Aを中程度又は強力に阻害する薬剤(クラリスロマイシン等)との併用は投与の可否を判断し、併用する場合は1日1回2.5mg
  • ハルシオン:禁忌の併用薬はアゾール系抗真菌薬・HIVプロテアーゼ阻害剤など。クラリスロマイシンは禁忌欄には入っていない

喘息の患者さんに睡眠薬が出たときのチェックリスト

  • □ いま呼吸機能が高度に低下していないか(発作・増悪中、夜間の症状、発作止めの回数の増加、在宅酸素、COPDの合併など)。該当すればベンゾジアゼピン系・Z薬は9.1.1の対象
  • □ 睡眠時無呼吸症候群の診断はないか(ドラールは禁忌、ロゼレムは高度のSASで使用経験なし)
  • □ オレキシン受容体拮抗薬なら、その薬がどの範囲まで試験しているかを個別に確認
  • □ 同時に出ているクラリスロマイシンなどのCYP3A阻害薬(ベルソムラ・クービビック・ボルズィは併用禁忌、デエビゴは2.5mg)
  • □ アルコールや他の中枢神経抑制薬との重なり(併用注意。マイスリーは「相互に中枢神経抑制作用を増強することがある」、レンドルミンは「アルコールとの服用は避けさせることが望ましい」)
  • □ 疑問があれば、処方医に「呼吸機能の状態」を確認する(「喘息だから禁忌」ではなく、状態を聞く)

まとめ

  • 「気管支喘息」だけで禁忌の睡眠薬は、19品目中0品目
  • ベンゾジアゼピン系・Z薬12品目は、9.1.1で「呼吸機能が高度に低下している患者」に治療上やむを得ない場合を除き投与しない。旧「原則禁忌」はここに移った
  • 「原則禁忌」「慎重投与」は、2019年からの記載要領で廃止された区分
  • オレキシン受容体拮抗薬は「投与しない」ではなく「試験していない範囲」が書いてあり、4剤で範囲が違う
  • 睡眠時無呼吸症候群が禁忌なのはドラールだけ

出典

  • 厚生労働省医薬・生活衛生局長通知「医療用医薬品の添付文書等の記載要領について」(平成29年6月8日 薬生発0608第1号)記1(1)・記3
  • ハルシオン(PMDA 672212_1124007F1020_4_12)/レンドルミン(650168_1124009F1223_1_15)/エバミール(730119_1124010F1021_3_02)/リスミー(672173_1129006F1021_3_04)
  • ユーロジン(400061_1124001B1039_2_06)/サイレース(170033_1124008F1024_1_21)/ベンザリン(672173_1124003C1092_3_05)/ダルメート(672173_1124002M2022_2_02)/ドラール(650034_1124030F1029_2_17)
  • マイスリー(800126_1129009F1025_3_26)/アモバン(780069_1129007F1026_1_28)/ルネスタ(170033_1129010F1028_1_13)
  • ベルソムラ(170050_1190023F1024_1_20)/デエビゴ(170033_1190027F1022_1_08)/クービビック(150923_1190033F1028_1_04)/ボルズィ(400059_1190034F1022_2_01)
  • ロゼレム(400256_1190016F1024_1_14)/メラトベル(620095_1190028D1026_1_09)/デパス(400315_1179025C1054_2_20)
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