こんにちは、『薬Talk』編集長、薬剤師のNoriです!
今回は、心不全治療の新たな選択肢として注目されている「エンレスト®(サクビトリルバルサルタン)」について、薬剤師の視点からわかりやすくご紹介します。
「ARBと何が違うの?」「高血圧の患者にも処方される理由は?」といった疑問を持つ方に向けて、作用機序や副作用、処方意図まで丁寧に解説していきます。
目次
エンレストとは?|ARNIという新しい選択肢
エンレストは、ARB(バルサルタン)とネプリライシン阻害薬(サクビトリル)の合剤で、心不全治療における新たな治療戦略「ARNI(Angiotensin Receptor–Neprilysin Inhibitor)」に属します。
成分名 | 主な作用 |
---|---|
バルサルタン | AT1受容体遮断によるRA系抑制 |
サクビトリル | ネプリライシン阻害 → BNPなどナトリウム利尿ペプチド分解抑制 |
サクビトリルにより心保護作用や利尿効果が強化されることで、従来のARB単独治療よりも多面的な心不全管理が可能とされています。
適応と用法・用量(2025年7月時点)
適応症:
- 慢性心不全(HFrEF)
- 高血圧症(2021年に追加)
用法・用量:
適応 | 初期用量(目安) | 維持量(目標) |
---|---|---|
心不全 | 50〜100mg/日(分2) | 400mg/日(分2) |
高血圧 | 200mg/日(分1) | 最大400mg/日 |
※特に心不全では、腎機能や既存のRA系薬使用状況を考慮して慎重な漸増が推奨されます。
HFrEFとは?|病態と治療の目的
**HFrEF(左室駆出率低下型心不全)**とは、駆出率が40%以下の心不全を指します。
- 主な症状:息切れ・浮腫・倦怠感
- 主な原因:虚血性心疾患、高血圧、心筋症
- 治療目標:再入院予防、死亡率低下、QOL改善
エンレストはこのHFrEFにおいて、再入院や死亡率を有意に低下させることが、PARADIGM-HF試験(NEJM, 2014)で示されています。
モニタリング時の注意点:BNPとNT-proBNPの使い分け
項目 | BNP | NT-proBNP |
---|---|---|
分泌部位 | 心室 | 同上 |
エンレストの影響 | ネプリライシンで分解されにくく上昇(偽高値) | 分解されない → より信頼性高 |
👉 エンレスト投与中は、BNPが上昇する可能性があるため、NT-proBNPでの評価が推奨されます。
高血圧への効果|ARBとの違いとは?
エンレストは、単なる降圧薬ではなく、
- 血管内皮機能の改善
- 心肥大・心筋リモデリング抑制
など、心臓保護効果も期待されます。
特に「夜間高血圧」や「早朝高血圧」に対して使用されることが増えており、心血管イベントの予防にもつながるとされています。
併用禁忌|アリスキレンとの併用はNG
アリスキレン(ラジレス®)との併用は、RA系抑制の重複により、
- 高カリウム血症
- 腎機能悪化
のリスクが高まるため、基本的に併用は避ける必要があります。
主な副作用と対策ポイント
副作用 | 対応のポイント |
---|---|
低血圧 | 初期は少量投与。脱水や利尿薬併用に注意 |
高カリウム血症 | 血清K値を定期モニタリング |
腎機能障害 | NSAIDs・利尿薬併用時は要注意 |
咳 | ARB成分のためACE阻害薬ほどではないが、報告あり |
処方意図の読み解き方|薬剤師の観察力が活きる場面
🔹心不全の場合
- ACE阻害薬やARBからの切り替え
- BNP高値・再入院リスクへの対応
- EFや腎機能に応じて慎重に漸増
🔹高血圧の場合
- 心血管リスクの高い症例(心筋梗塞・心不全既往など)
- 降圧+心保護を狙った処方
- 夜間高血圧のコントロール目的など
【まとめ】心を守る治療薬、エンレストの可能性
エンレストは、単なる降圧薬ではありません。
心不全再発の予防、心機能の維持といった「心を守る」薬として位置づけられています。
薬剤師としては、この薬が「なぜ今、選ばれたのか?」を見抜き、患者さんごとに適切なサポートをすることが大切です。
【参考文献】
日本循環器学会「慢性心不全治療ガイドライン(2021年版)」
ノバルティスファーマ株式会社「エンレスト製品情報」
https://www.novartis.co.jp/products/enresto-tab
PARADIGM-HF試験(NEJM, 2014)
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1409077