エンレスト(サクビトリルバルサルタン)徹底解説|心不全と高血圧にどう効く?薬剤師が読み解く臨床使用のヒント

医薬品
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こんにちは、『薬Talk』編集長、薬剤師のNoriです!

今回は、心不全治療における新たなスタンダードとも言われる「エンレスト®」について解説していきます。

「ARBじゃダメなの?」「高血圧にも使うの?」と思った方はぜひ最後までお付き合いください。作用機序や副作用だけでなく、処方意図の読み取り方まで、薬剤師の視点から深掘りしていきます。


エンレスト(サクビトリルバルサルタンナトリウム水和物)は、ARBとネプリライシン阻害薬の合剤で、心不全における予後改善効果が認められた画期的な薬剤です。

成分名主な作用
バルサルタンAT1受容体を遮断(RA系抑制)
サクビトリルネプリライシン阻害 → BNPなどのナトリウム利尿ペプチド分解を抑制

ネプリライシンを阻害することで、利尿・血管拡張・心筋保護といった作用が高まり、従来のARBよりも多面的な心不全治療効果が期待されます。


  • 慢性心不全(HFrEF:左室駆出率低下型心不全
  • 高血圧症(2021年に追加)
適応初期用量維持量(目標)
心不全50〜100mg/日(分2)400mg/日(200mg×2回)
高血圧200mg/日(分1)最大400mg/日

特に心不全では、腎機能や既存のRA系薬使用状況を考慮して慎重な漸増が推奨されます。


HFrEF(Heart Failure with reduced Ejection Fraction)は、左室駆出率が40%以下の状態を指し、収縮機能が低下している心不全です。

  • 主な症状:息切れ・倦怠感・浮腫
  • 主な原因:虚血性心疾患、高血圧、心筋症など
  • 治療目標:再入院の防止、死亡率の低下、QOLの改善

エンレストはこのHFrEFにおいて、死亡率・再入院率を有意に低下させることが、PARADIGM-HF試験(NEJM, 2014)で確認されています。


比較項目BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)NT-proBNP(N末端)
分泌部位心室同上
エンレスト影響ネプリライシン阻害で上昇(偽高値)分解されない →信頼性高い
モニタリング

エンレスト使用時はBNPが偽高値になるため、モニタリングにはNT-proBNPの使用が推奨されます。


  • 血圧を下げるだけでなく、血管内皮機能の改善や心筋の構造的保護が期待される
  • 特に夜間高血圧や早朝高血圧において有用
  • 心血管イベント予防の観点から、「高血圧+心疾患リスク」の患者に積極的に使用される傾向

**アリスキレン(ラジレス®)**はレニンを直接阻害する降圧薬ですが、RA系を多重に抑制すると腎機能悪化や高カリウム血症のリスクがあります。

エンレストもRA系を抑制するため、アリスキレンとの併用は原則避けるべきです。


副作用名対応・ポイント
低血圧初期は少量投与+脱水や利尿薬併用に注意
高カリウム血症定期的な血清K値測定が必須
腎機能障害利尿薬・NSAIDs併用時に要注意
ARB成分なのでACE阻害薬ほど頻度は高くないが報告あり

  • 既存のARBやACE阻害薬からの切り替え目的
  • BNP高値・再入院リスクの高い患者に対し、長期予後の改善を狙う
  • EF値と腎機能を見ながら慎重に増量していく設計
  • 降圧不十分なケースで心保護も意図して選択
  • 心筋梗塞や心不全既往のある高リスク症例
  • 夜間血圧や早朝高血圧を重視する場合

エンレストは、単なる降圧薬ではありません。
心を守るために、心不全を繰り返させないために処方される薬です。

薬剤師としては、「この薬が“なぜ今”選ばれたのか」を考えることが、処方鑑査・服薬指導における大切な視点です。

患者さんの未来を見据えた提案と支援を、今日から一歩ずつ始めましょう。


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