執筆:Nori(薬Talk編集長・薬剤師)/調剤薬局勤務26年。管理薬剤師を経て、現在はチェーン薬局の本社部門で店舗運営支援を担当しています。
心不全の処方箋で、ARNI(エンレスト)・β遮断薬・MRA・SGLT2阻害薬が並んでいる——いわゆる「4剤」です。日本循環器学会/日本心不全学会の「2025年改訂版 心不全診療ガイドライン」(2025年3月公開)は、LVEFの低下した心不全(HFrEF)に対して、この4つの薬効群をいずれも推奨クラスⅠとしています。
ガイドラインの推奨表と用量表、それに各薬の添付文書を並べて、薬局で確認することをまとめました。
ガイドラインの推奨(HFrEF、推奨表22)
| 薬効群 | 推奨の内容 | 推奨クラス/エビデンスレベル |
|---|---|---|
| ACE阻害薬 | 禁忌を除くすべての患者に投与 | Ⅰ/A |
| ARB | ACE阻害薬またはARNIに忍容性のない患者に投与 | Ⅰ/A |
| ARNI | ACE阻害薬(またはARB)が投与されているNYHAⅡ-Ⅲの症候性心不全で、ARNIへ切り替え | Ⅰ/B-R |
| β遮断薬 | 禁忌がない限り全例に投与(カルベジロール、ビソプロロール) | Ⅰ/A |
| MRA | NYHAⅡ-Ⅳ(LVEF≤40%)にスピロノラクトン・エプレレノン | Ⅰ/A |
| SGLT2阻害薬 | 糖尿病の有無にかかわらず、症候性HFrEFにエンパグリフロジン、ダパグリフロジン | Ⅰ/A |
| ループ利尿薬 | 体液貯留を伴う心不全に、うっ血の解除・症状改善・増悪予防 | Ⅰ/C-LD |
β遮断薬はカルベジロールとビソプロロールと名前が挙がっています。本文は「β遮断薬の効果はクラスエフェクトではないと考えられており、カルベジロール、ビソプロロールを使用する」としつつ、「β遮断薬の薬剤間でのイベント抑制効果の違いについて結論は出ていない」とも書いています。導入は、心不全が代償化し体液量が適正であることを確認したうえで少量から、数日~2週間ごとに増量、とされています。SGLT2阻害薬も、名前が挙がっているのはエンパグリフロジンとダパグリフロジンです。
用量(ガイドライン表19)——1日量で書かれている
| 薬 | ガイドライン表19の用量・用法 |
|---|---|
| サクビトリルバルサルタン(エンレスト) | 100mg/日より開始、維持量100・200または400mg/日、1日2回 |
| カルベジロール | 2.5mg/日(重症例では1.25mg/日)より開始、維持量5~20mg/日、1日2回 |
| ビソプロロール | 0.625mg/日(重症例では0.3125mg/日)より開始、維持量1.25~5mg/日、1日1回(※メインテートの添付文書の慢性心不全の用法は1日1回0.625mgから開始、2週間以上で1.25mgへ、その後4週間以上の間隔で段階的に。1回量は0.625・1.25・2.5・3.75・5mg) |
| スピロノラクトン | 12.5~25mg/日より開始、維持量25~50mg/日、1日1回 |
| エプレレノン | 25mg/日より開始、維持量50mg/日、1日1回 |
| ダパグリフロジン/エンパグリフロジン | 10mg/日、1日1回(ダパグリフロジン5mg、エンパグリフロジン25mgは心不全での保険適用外) |
表19は1日量です。エンレストの添付文書は「1回50mgを開始用量として1日2回」と1回量で書いているので、「100mg/日」と「1回50mg 1日2回」は同じ量です。処方箋と照らすときに取り違えないようにします。
エンレスト:36時間ルールはどちら向きにも
- ACE阻害薬→エンレスト:ACE阻害薬を投与中、あるいは投与中止から36時間以内の患者は禁忌(2.2)
- エンレスト→ACE阻害薬:本剤投与終了後にACE阻害薬を投与する場合は、本剤の最終投与から36時間後まで投与しない(8.1、10.1)
- 理由は血管性浮腫のおそれ。血管性浮腫の既往歴のある患者は禁忌(2.3)
- 成人の慢性心不全では「ACE阻害薬又はARBから切り替えて投与すること」(5.1)。ARBからの切り替えに36時間の規定はないが、ARBとの併用は「併用すべきでない」(10.2)。切り替え後にバルサルタンなどARBの処方が残っていないか確認する
- ほかの禁忌:アリスキレンを投与中の糖尿病患者(2.4)、重度の肝機能障害(Child-Pugh分類C、2.5)、妊婦又は妊娠している可能性のある女性(2.6)
- 増量は2~4週間の間隔で段階的に(6.)。増量時の目安は収縮期血圧95mmHg以上、血清カリウム5.4mEq/L以下、eGFR30以上かつ低下率35%以下(7.2、50mg→100mg増量時の臨床試験基準)
MRA:カリウムと腎機能
ガイドライン本文(2.1.6)は、MRAについて「eGFR<30 mL/分/1.73m²あるいは血清カリウム値5.0 mEq/L以上の場合には、投与開始にあたっては慎重でなければならない」としています。エンレストの添付文書も、カリウム保持性利尿薬(スピロノラクトン、エプレレノン等)との併用で血清カリウム値・血清クレアチニン値が上昇するおそれ(10.2)としています。処方箋の検査値欄にK・eGFRが載っていれば、開始時・増量時に確認します。
添付文書のほうが強い書き方の薬があります。セララ(エプレレノン)は、投与開始時に血清カリウム値が5.0mEq/Lを超えている患者と重度の腎機能障害(CCr 30mL/分未満)を禁忌としています(2.2・2.3)。さらにカリウム保持性利尿薬及びMRAを投与中の患者も禁忌(2.5)で、スピロノラクトンとの重複は禁忌です。アルダクトンA(スピロノラクトン)は、高カリウム血症、無尿又は急性腎不全、アジソン病、エプレレノン・エサキセレノン等の投与中を禁忌としています。
HFrEFで「避ける」と書かれている薬
- 非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬(ベラパミル、ジルチアゼム):HFrEFの治療薬として投与すべきではない(推奨クラスⅢ・Harm)。ガイドライン本文は「陰性変力作用があり心機能を低下させるため、HFrEF患者では禁忌である」としている。添付文書(ワソラン・ヘルベッサー)の禁忌は「重篤なうっ血性心不全のある患者」
- Ⅰc群抗不整脈薬:HFrEFに投与すべきではない(Ⅲ・Harm)
- ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬:狭心症または高血圧を合併していないHFrEFには推奨されない(Ⅲ・No benefit)
心房細動の心拍数調節などでベラパミルやジルチアゼムが出ている患者さんが、HFrEFの診断を受けている——という組み合わせは、処方医に確認する候補になります。
処方監査のチェックリスト
- □ ACE阻害薬からエンレストへ(またはその逆)の切り替えで、36時間あいているか
- □ エンレストの1回量・1日量の読み違いがないか(表19は1日量)
- □ β遮断薬は少量から漸増しているか(GLが挙げるのはカルベジロール・ビソプロロール。メインテートは0.625mgから段階的に)
- □ MRA:K 5.0以上、eGFR<30での開始は慎重に(GL)。セララは開始時K>5.0・CCr<30が禁忌、スピロノラクトンとの重複も禁忌
- □ エンレストに切り替えたあとARBが残っていないか(併用すべきでない)。妊娠の可能性
- □ SGLT2阻害薬:心不全ではダパグリフロジン10mg・エンパグリフロジン10mg(5mg・25mgは心不全で保険適用外。糖尿病の適応で処方されていれば別)
- □ ベラパミル・ジルチアゼム、Ⅰc群抗不整脈薬が併用されていないか
まとめ
- HFrEFではACE阻害薬/ARB→ARNI、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬がいずれも推奨クラスⅠ(2025年改訂版GL)
- β遮断薬はカルベジロール・ビソプロロール、SGLT2阻害薬はダパグリフロジン・エンパグリフロジン(各10mg)
- エンレストとACE阻害薬の切り替えはどちら向きも36時間
- MRAはK 5.0以上・eGFR<30で開始に慎重
- 非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬・Ⅰc群はHFrEFで避ける
- 「4剤」はHFrEFの話。HFpEF・HFmrEFでクラスⅠなのはSGLT2阻害薬(と利尿薬・併存疾患の治療)で、ARNI・MRA・β遮断薬はⅡa〜Ⅱb(推奨表23・24)。HFpEFの処方にβ遮断薬・MRAがないのは不備ではない
出典
- 日本循環器学会/日本心不全学会「2025年改訂版 心不全診療ガイドライン」(2025年3月)第6章 2.1(2.1.5 β遮断薬、2.1.6 MRA、2.1.7 SGLT2阻害薬)、推奨表22、表19
- エンレスト錠 添付文書(PMDA 300242_2190041F1027_1_10)2.・5.1・6・7.2・8.1・10.1・10.2
- セララ錠(671450_2149045F1029_4_10)2./アルダクトンA(672212_2133001C1097_3_05)2./メインテート錠(400315_2123016F1107_1_21)6./ワソラン錠(170033_2171008F1070_1_08)2./ヘルベッサー錠(400315_2171006F1224_1_14)2.

