執筆:Nori(薬Talk編集長・薬剤師)/調剤薬局勤務26年。管理薬剤師を経て、現在はチェーン薬局の本社部門で店舗運営支援を担当しています。
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35肩・対照群なし
何の病気の話なのか
石灰沈着性腱板炎です。肩の腱板にハイドロキシアパタイトの結晶が沈着し、それが二次的な炎症を起こして激痛が出ます。
「四十肩・五十肩」と一括りにされますが、いわゆる肩関節周囲炎とは別物です。単純X線で石灰化陰影が見えるのが決め手になります。
ここで押さえておくべき事実が1つあります。
Louwerens らは、肩痛のない患者の石灰化率を調査したところ、7.8%の症例に石灰化陰影を認め、無症候性石灰化病変と報告した。我々の狩猟する限りの報告では、無症候性石灰化病変を有する症例は2.7%~20%程度存在する。
石灰が写っていても、痛みの原因とは限りません。この点は、あとで効いてきます。
データはあります。ただし、質はそれなりです
2018年、JCHO熊本総合病院整形外科からの報告です。
対象は、2010年4月から2017年7月まで、肩石灰性腱炎の診断にてシメチジン(400mg/日)とロキソプロフェンNaで加療を行った33例35肩(平均年齢60.7±9.6歳)である。
疼痛改善率は85%(30肩/35肩)であった。……急性期群では……改善率96%(23肩/24肩)であった。亜急性期群では……67%……慢性期群では……60%……急性期群が亜急性期群、慢性期群と比較して疼痛改善率が有意に高かった(p=0.039)。
石灰化は69%(24肩/35肩)の症例において消失または改善を認めた。
数字だけ見ると強そうです。でも著者自身が限界を書いています。
本研究の限界としては、対照群を設定しておらず、ロキソプロフェンNa の効果もしくは自然経過で症状が改善している可能性が考えられる。また亜急性群、慢性期群で症例数が少ないこと、X 線学的評価が目視であることがあげられる。
ロキソプロフェンを併用しているので、H2ブロッカーの効果を切り分けられていません。そして石灰の評価は目視です。ここを飛ばして「85%効く」と言ってはいけないタイプの研究です。
対照群がある報告もあります——ここにファモチジンが出てきます
上の論文が引用している、繁田らの2011年の報告です。シメチジン・ファモチジン・対照の3群を比べています。
繁田らは肩石灰性腱炎と診断された72症例に対し、シメチジン、ファモチジン投与による疼痛改善率およびX線的に石灰縮小率を検討、疼痛改善率はシメチジン77.8%、ファモチジン73.1%、対照群44.1%であり、石灰縮小率はシメチジン64.4%、ファモチジン70.3%、対照群35.4%であり、同疾患に対するシメチジン、ファモチジンの有効性を報告した。
ファモチジンにもデータがあります。しかも石灰縮小率はファモチジン(70.3%)のほうがシメチジン(64.4%)より高い。
そして注目すべきは対照群の数字です。疼痛改善44.1%、石灰縮小35.4%。何もしなくても、4割は痛みが取れ、3割は石灰が縮んでいます。自然経過が無視できない疾患だということです。

本題です。ファモチジンは10mgか、20mgか
先に結論を書きます。これを直接示した一次文献に、私は到達できませんでした。「20mgがよい」と断定できる根拠を持っていません。
ただ、手がかりはあります。確認できている唯一の用量がシメチジン400mg/日だからです。この400mgが何の用量なのかを見ると、話が進みます。
〈胃潰瘍、十二指腸潰瘍〉通常、成人にはシメチジンとして1日800mgを2回(朝食後及び就寝前)に分割して経口投与する。
〈胃粘膜病変(びらん、出血、発赤、浮腫)の改善 急性胃炎、慢性胃炎の急性増悪期〉通常、成人にはシメチジンとして1日400mgを2回(朝食後及び就寝前)に分割して経口投与する。
400mgは「胃炎」の用量です。潰瘍用量(800mg)の半分。H2ブロッカーとしては低いほうを使っているということになります。
ではファモチジンの側を並べます。
〈胃潰瘍、十二指腸潰瘍、吻合部潰瘍、上部消化管出血……、逆流性食道炎、Zollinger-Ellison症候群〉通常成人にはファモチジンとして1回20mgを1日2回(朝食後、夕食後または就寝前)経口投与する。また、1回40mgを1日1回(就寝前)経口投与することもできる。
〈胃粘膜病変……の改善 急性胃炎、慢性胃炎の急性増悪期〉通常成人にはファモチジンとして1回10mgを1日2回(朝食後、夕食後または就寝前)経口投与する。また、1回20mgを1日1回(就寝前)経口投与することもできる。
| 効能 | シメチジン | ファモチジン |
|---|---|---|
| 胃潰瘍・十二指腸潰瘍 等 | 800mg/日 | 40mg/日(20mg×2 または 40mg×1) |
| 急性胃炎・慢性胃炎の急性増悪期 | 400mg/日 ← 文献で使われた量 | 20mg/日(10mg×2 または 20mg×1) |
文献のシメチジン400mgに用量段階をそろえるなら、ファモチジンは「胃炎」側——1回10mgを1日2回、または20mgを1日1回です。
ただし、これは私の対応づけであって、文献の記載ではありません。繁田らが実際に何mgを使ったかは、原著を見ないと分かりません。「10mgか20mgか」の問いに、現時点で私は答えを持っていません。
なぜ先生は出してくれないのか
理由ははっきりしています。効能・効果に入っていないからです。
タガメットもガスターも、効能は胃潰瘍・十二指腸潰瘍・吻合部潰瘍・上部消化管出血・逆流性食道炎・Zollinger-Ellison症候群・急性胃炎および慢性胃炎の急性増悪期の胃粘膜病変です。石灰沈着性腱板炎の文字はどこにもありません。
つまり完全な適応外使用です。レセプトに石灰沈着性腱板炎の傷病名だけを付けてH2ブロッカーを請求すれば、適応外として査定されうる——出したがらない医師がいるのは自然なことです。
逆に言えば、出している先生は、胃部不快やNSAIDsによる胃粘膜傷害という文脈で出していることが多いと考えられます。ロキソプロフェンと一緒に処方されていれば、その形は自然に成立します。実際、上の研究もロキソプロフェンNa との併用です。
ただしここは薬剤師が踏み込む領域ではありません。病名の付け方は処方医の判断です。「石灰化に効くので出してください」と提案するのは、適応外使用の依頼になります。
NSAIDsで胃が荒れたときは、話が別です
ここまでは「石灰化にH2ブロッカーが効くか」の話でした。もう一つ、現実に起きるのは胃のほうです。
思い出してください。文献のプロトコルは「シメチジン+ロキソプロフェンNa」でした。肩が痛ければ、まずNSAIDsが出ます。そしてNSAIDsは胃を荒らします。
実際、この研究でH2ブロッカーが併用されていた理由の一つはNSAIDsによる胃粘膜傷害への対応だったと考えるのが自然です。石灰化への効果とは別に、胃薬としての役目があるということです。
| 製品 | 規格・用法 |
|---|---|
| ガスター10(第1類医薬品) | ファモチジン10mg/1回1錠、1日2回まで(8時間以上あける) 3日間服用して改善しなければ中止。2週間を超えて服用しない |
第1類医薬品なので、通販でも薬剤師の対応を経てからの発送になります。購入時に質問票が出るのはそのためです。
- まず「なぜ胃が痛いのか」を確認するNSAIDsを飲み始めてからなら、その可能性が高い。もともと胃潰瘍がある人は受診です
- 処方でH2ブロッカーやPPIが出ていないか見る出ていればOTCは不要です。重複になります
- 3日で見切る添付文書の指示です。効かない胃痛を市販薬で引っ張らない
- 2週間を超えないcontinuing するなら、それは受診する場面です
2番目が実務で一番大事です。整形外科でNSAIDsと一緒に胃薬が出ているのに、患者さんが「胃が痛いから」とOTCを買い足すことがあります。お薬手帳を見れば防げます。
シメチジンとファモチジン、薬剤師が見るべき差
効果の話より、こちらのほうが実務では大きいと思います。
本剤は、肝薬物代謝酵素P-450を阻害する。特にCYP3A4とCYP2D6に対して強い阻害効果を有することが報告されている(外国人データ)。
[併用注意]ワルファリン/ジアゼパム・トリアゾラム・ミダゾラム等/フェニトイン・カルバマゼピン等/三環系抗うつ剤・パロキセチン/プロプラノロール・メトプロロール等/ニフェジピン等/リドカイン等/テオフィリン・アミノフィリン等
シメチジンは相互作用の塊です。ワルファリン、フェニトイン、テオフィリン——高齢者でよく出ている薬ばかりです。
ファモチジンにこの記載はありません。石灰沈着性腱板炎の好発年齢は40〜60代で、上の研究の平均年齢も60.7歳。併用薬を持っている層です。
そして両剤とも主として腎排泄で、腎機能低下時は減量・間隔延長が必要です。ガスターにはCcrごとの投与法の表が添付文書に載っています。

「ガスター10を買って飲めばいいのでは」に答えます
当然の発想です。ファモチジンはOTCで買えます。ガスター10は1錠あたりファモチジン10mg、第1類医薬品です。
結論から言うと、これは勧められません。効くか効かないか以前に、用法が噛み合っていないからです。
| OTC(ガスター10) | 石灰沈着性腱板炎の報告での経過 | |
|---|---|---|
| 用量 | 1回10mg、1日2回まで(8時間以上あける) | 用量の記載を確認できていない |
| 服用期間 | 3日間服用して改善しなければ中止/2週間を超えて服用しない | 症例1は3週間で石灰消失。症例2は再開後2か月で消失 |
| 目的 | 胃痛・もたれ・胸やけ・むかつき | 肩の疼痛と石灰沈着 |
期間が決定的にずれています。報告されている経過は週から月の単位です。OTCは3日で見切り、2週間で打ち切る設計になっている。石灰が縮む前に、使用期限が来ます。
さらに、そもそも石灰沈着性腱板炎かどうかはX線を撮らないと分かりません。肩腱板断裂でも、肩関節周囲炎でも、同じように痛みます。無症候性の石灰化が2.7〜20%あることも思い出してください。
OTCのH2ブロッカーで肩を治そうとするのは、診断も用量も期間も外したまま薬を飲むことになります。第1類医薬品として販売する立場なら、この使い方の相談には「整形外科でX線を」と答えるのが筋だと思います。
まとめ
- データはあります。シメチジン400mg/日+ロキソプロフェンで、疼痛改善85%・石灰化改善69%(35肩)。急性期は96%と有意に高い
- ただし対照群がない研究です。著者自身が「ロキソプロフェンの効果もしくは自然経過の可能性」と書いています
- 対照群のある報告では疼痛改善 シメチジン77.8%/ファモチジン73.1%/対照44.1%、石灰縮小 64.4%/70.3%/35.4%。ファモチジンにもデータがあります(※孫引き。原著未確認)
- 「10mgか20mgか」に、私は答えを持っていません。確認できた唯一の用量はシメチジン400mg/日で、これは「胃炎」の用量(潰瘍用量の半分)。段階をそろえるならファモチジンは20mg/日相当ですが、それを示した文献は取れていません
- 効能・効果に石灰沈着性腱板炎はありません。完全な適応外使用です。処方されないのは自然なことで、薬剤師から提案する話でもありません
- 薬剤師が見るべきはシメチジンの相互作用です。CYP3A4とCYP2D6を強く阻害し、ワルファリン・フェニトイン・テオフィリン等が併用注意。ファモチジンにはこの記載がありません
- OTCのガスター10で代用はできません。「3日で改善しなければ中止」「2週間を超えて服用しない」——報告されている経過は3週間〜2か月です。期間が噛み合っていません
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株式会社メディカルリソースが運営する薬剤師専門サービスです(2000年設立)。転職だけでなく「派遣」を扱っているのが特徴で、有料職業紹介(13-ユ-010743)と労働者派遣(派13-010770)の両方の許可を持っています。拠点は全国12支店。運営元は日本調剤グループです——選ぶ材料になるので書いておきます。
「派遣」は、常勤か辞めるかの二択しかないと思っている人ほど知っておく価値があります。いま動く予定がなくても相場は交渉材料になりますし、地域差は大きい——厚労省の偏在指標で見ると、足りない地域ほど条件は動きます。在宅に移りたい方は「力を入れています」を届出で見分ける方法もどうぞ。
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出典
- 河上純輝、菊川憲志、小田勇一、森田誠、橋本憲蔵、田村諭史、福間裕子、高田興志「肩石灰性腱炎に対するH2受容体拮抗薬の治療成績」整形外科と災害外科 67(3):552-555、2018
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nishiseisai/67/3/67_552/_pdf - 繁田明義ら「肩石灰性腱炎に対するH2受容体拮抗薬治療効果」肩関節 35(3):907-910、2011 ※本記事の数値は上記 河上ら論文の引用(孫引き)によります。原著は未確認です
- タガメット錠200mg 添付文書(2025年4月改訂・第6版)※効能・効果、用法・用量、相互作用
https://www.info.pmda.go.jp/go/pack/2325001F1211_1_01/ - ガスター錠10mg/ガスター錠20mg 添付文書※効能・効果、用法・用量、腎機能低下時の投与法
https://www.info.pmda.go.jp/go/pack/2325003F1024_2_04/ - 第一三共ヘルスケア「ガスター10」製品情報・添付文書(第1類医薬品)
https://www.daiichisankyo-hc.co.jp/products/details/gaster/ - 日本整形外科学会「石灰沈着性腱板炎(石灰性腱炎)」
https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/calcific_tendinitis.html
※ 本記事は2026年9月2日時点の添付文書および公表論文の原文に基づいています。
※ H2受容体拮抗薬の石灰沈着性腱板炎への使用は、承認された効能・効果ではありません。本記事は文献の内容を整理したもので、特定の使用を推奨するものではありません。
※ 治療方針は主治医の判断によります。肩の痛みが続く場合は整形外科をご受診ください。
※ 繁田らの数値は孫引きです。投与量・投与期間は原著で確認していません。

