オランザピンの糖尿病禁忌が効能別に分かれました|制吐目的だけ解除、統合失調症・双極性障害では禁忌のまま

医薬品
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執筆:Nori(薬Talk編集長・薬剤師)/調剤薬局勤務26年。管理薬剤師を経て、現在はチェーン薬局の本社部門で店舗運営支援を担当しています。

2026年8月25日、オランザピンの「糖尿病の患者、糖尿病の既往歴のある患者」という禁忌が、効能によって外れました。抗がん剤の悪心・嘔吐に使う場合だけです。統合失調症と双極性障害では、禁忌のまま。同じ成分・同じ錠剤で、何のために出ているかによって禁忌が変わります。2002年の緊急安全性情報から24年めの改訂でした。
24糖尿病が禁忌だった期間2002年4月の緊急安全性情報から
1/3効能禁忌が外れた範囲制吐目的のみ。他2効能は禁忌のまま
0か国海外で禁忌にしていた国米・英・欧・加・豪を調査

禁忌が、効能で分かれました

改訂指示の原文です。新旧を並べると、何が起きたのかが一目でわかります。

【現行】 2. 禁忌(次の患者には投与しないこと)
糖尿病の患者、糖尿病の既往歴のある患者

【改訂案】 2. 禁忌(次の患者には投与しないこと)
〈統合失調症、双極性障害における躁症状及びうつ症状の改善〉
糖尿病の患者、糖尿病の既往歴のある患者

禁忌の前に、効能名の見出しが付きました。これだけです。これだけで、意味がまるごと変わります。

効能・効果糖尿病の患者・既往歴のある患者
統合失調症禁忌(変更なし)
双極性障害における躁症状及びうつ症状の改善禁忌(変更なし)
抗悪性腫瘍剤(シスプラチン等)投与に伴う消化器症状(悪心、嘔吐)禁忌から外れた
→ 警告+特定の背景を有する患者へ

同じジプレキサ錠5mgでも、統合失調症で出れば糖尿病患者に禁忌、制吐目的で出れば禁忌ではありません。

添付文書の「2. 禁忌」を、そのまま見てください

改訂は2026年8月25日に添付文書へ反映済みです(ジプレキサ錠 第4版)。禁忌は5項目に分かれていて、糖尿病が禁忌なのは 2.5 だけ——ここが一番大事なところです。

〈効能共通〉

2.1 昏睡状態の患者[昏睡状態を悪化させるおそれがある。]

2.2 バルビツール酸誘導体等の中枢神経抑制剤の強い影響下にある患者[中枢神経抑制作用が増強される。]

2.3 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者

2.4 アドレナリンを投与中の患者(アドレナリンをアナフィラキシーの救急治療、又は歯科領域における浸潤麻酔もしくは伝達麻酔に使用する場合を除く)

〈統合失調症、双極性障害における躁症状及びうつ症状の改善〉

2.5 糖尿病の患者、糖尿病の既往歴のある患者

2.1〜2.4 には効能の見出しが付いていません。つまり制吐目的でも禁忌のままです。効能で分かれたのは2.5 の1項目だけ——ここを読み違えないでください。

ついでに2.4 の括弧書きも見ておく価値があります。アドレナリン併用禁忌の除外はアナフィラキシーの救急治療だけではありません。「歯科領域における浸潤麻酔もしくは伝達麻酔」も除外です。歯科の局所麻酔にはアドレナリン含有製剤が普通に使われるので、ここを知らないと不要な照会をかけます。

なお、制吐の効能(CINV)自体は前からあります。公知申請で承認されたものです。今回変わったのは適応ではなく、禁忌のかかり方です。

禁忌が外れた代わりに、警告「1.3」が足されました

「制限がなくなった」わけではありません。警告に、制吐目的だけの項が足されました。

ここも添付文書の実物で見ます。警告は3項あり、1.1と1.2は〈効能共通〉——つまり以前からあるものです。今回の改訂で付いたのは 1.3 だけ(添付文書上も改訂マークは1.3に付いています)。

〈効能共通〉

1.1 著しい血糖値の上昇から、糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡等の重大な副作用が発現し、死亡に至る場合があるので、本剤投与中は、血糖値の測定等の観察を十分に行うこと。

1.2 投与にあたっては、あらかじめ上記副作用が発現する場合があることを、患者及びその家族に十分に説明し、口渇、多飲、多尿、頻尿等の異常に注意し、このような症状があらわれた場合には、直ちに投与を中断し、医師の診察を受けるよう、指導すること。

〈抗悪性腫瘍剤(シスプラチン等)投与に伴う消化器症状(悪心、嘔吐)〉

1.3 糖尿病又はその既往のある患者へ本剤を投与する場合には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合以外は投与しないこと。また、本剤投与前及び投与期間中は、毎日頻回に血糖値のモニタリングの管理を行い、本剤投与後も血糖値が安定するまではモニタリングを継続するなど患者の状態を継続的に観察するとともに、投与期間を通じて、緊急時に十分に対応できる体制を整えた上で投与すること。

「毎日頻回に」。警告の項でここまで書かれるのは強い部類です。2.5の禁忌が、1.3の警告に降りた——そう読むのが正確だと思います。

さらに「9.1.10」が新設されました。ここも改訂マークが付いています。守るべき条件が3つ挙げられています。

〈抗悪性腫瘍剤(シスプラチン等)投与に伴う消化器症状(悪心、嘔吐)〉

9.1.10 糖尿病の患者、糖尿病の既往歴のある患者
以下の点に留意すること。本剤投与により、血糖値が上昇し、代謝状態を急激に悪化させるおそれがあるため、投与期間を通じて、緊急時に十分に対応できる体制を整えた上で投与すること。

血糖コントロールが良好な患者にのみ投与すること。なお、関連学会の最新のガイドライン等を参考にした上で、患者の状態に応じて、本剤の必要性を判断すること。

本剤の投与量及び投与期間は必要最小限とすること。

・本剤投与前及び投与期間中は、毎日頻回に血糖値のモニタリングの管理を行い、本剤投与後も血糖値が安定するまではモニタリングを継続するなど患者の状態を継続的に観察すること。

「血糖コントロールが良好な患者にのみ」。糖尿病であれば誰でもよい、ではありません。

なぜ外れたのか——日本だけが禁忌でした

PMDAの調査結果報告書(令和8年7月14日)に、経緯がそのまま書かれています。

動かしたのは一般社団法人日本癌治療学会でした。学会が禁忌解除を要望し、厚生労働省医薬局医薬安全対策課が令和8年4月9日付でPMDAに調査を依頼。7月14日に報告書、8月25日に改訂指示。要望から改訂まで約4か月半です。

・これまで報告されている本薬の有効性を検証した臨床試験において、重篤な高血糖関連事象は報告されていない。

・本薬を含む4剤併用の制吐療法は、国内外のガイドラインにおいて高度催吐性リスクの化学療法に対する標準制吐療法になっているが、本邦のみ本薬が糖尿病患者に対して禁忌であるため、本邦の糖尿病併存がん患者だけが本薬を含む4剤併用の制吐療法を受けることができず、非糖尿病がん患者よりも強い悪心嘔吐を経験することになり、苦痛だけでなく予後への悪影響が懸念される。

「本邦のみ」。報告書は海外5か国の添付文書を調べています。

「糖尿病の患者、糖尿病の既往歴のある患者」への投与が禁忌に設定されている海外添付文書はなかった。

なお、いずれの国においても、CINVの効能又は効果については承認されていない。

ねじれています。制吐の適応を持っているのは日本だけ。そして糖尿病を禁忌にしていたのも日本だけ。結果として、日本の糖尿病があるがん患者だけが標準治療から外れる状態になっていました。

専門協議では、機構の判断が全ての専門委員から支持されたと記録されています。

24年前に、何があったのか

そもそもこの禁忌は、なぜ付いたのか。報告書が書いています。

2001年6月の本邦での本薬発売開始後約10カ月間において、本薬と因果関係が否定できない重篤な高血糖、糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡の副作用症例が9例(死亡例2例を含む)報告されていたことから、使用上の注意を改訂するとともに、緊急安全性情報(平成14年4月 No.02-1)を医療機関等へ配布し……

発売10か月で9例、うち死亡2例。緊急安全性情報——いわゆるイエローレターです。それで禁忌に入りました。

そして報告書は、こう続けます。「本使用上の注意の改訂以降に承認された『双極性障害における躁症状及びうつ症状の改善』及びCINVの効能又は効果においても同様の注意喚起が行われている」。

つまり、CINVの禁忌は「統合失調症で起きたことを引き継いだもの」でした。制吐の使い方について検討して付いた禁忌ではなかった。今回はそこが切り離された、と読めます。

薬局では、何を見ればいいのか

処方箋には効能が書いてありません。ここが今回いちばん厄介なところです。

用法・用量を並べると、手がかりが見えます。

効能用法・用量1日最大
統合失調症5〜10mgで開始、維持量1日1回10mg20mg
双極性障害・躁症状10mgで開始20mg
双極性障害・うつ症状5mgで開始→1日1回10mgに増量。就寝前20mg
制吐(CINV)他の制吐剤との併用において、1日1回5mg10mg

「5mg」だけでは決まりません。双極性障害のうつ症状も5mgで始まります。

判別に効くのは、用量ではなく周辺情報です。

  1. 他の制吐剤が一緒に出ているかCINVの用法は「他の制吐剤との併用において」が前提。アプレピタント・パロノセトロン・デキサメタゾンとの4剤併用が標準
  2. 処方元の診療科がん化学療法のレジメンに乗っているかどうか
  3. 投与日数制吐は化学療法に合わせた短期。精神科領域は継続投与
  4. 1日量が10mgを超えていないか制吐なら10mgが上限。それを超えていれば精神科領域の用量
  5. 投与日数が6日を超えていないか添付文書 7.2「がん化学療法の各サイクルにおける本剤の投与期間は6日間までを目安とすること」。長ければ精神科領域を疑う

「オランザピン+糖尿病」を見たときの反射が、変わります。これまでは無条件に疑義照会でした。これからはまず処方意図を確認する——そこからです。

ただし制吐目的だとしても、フリーパスではありません。警告1.3と9.1.10が求めているのは、①血糖コントロールが良好であること ②投与量・投与期間が必要最小限であること ③毎日頻回の血糖モニタリング。外来で出ていれば、確認する価値があります。

報告書の専門協議には、こんな意見も記録されています。「本薬のCINVに関する国内臨床試験では糖尿病患者が除外されているため、デキサメタゾンとの併用において、どの程度重篤な高血糖が生じるかについては引き続きデータを収集する必要がある」。

禁忌は外れましたが、データはこれから集まる段階です。そう理解しておくのが安全だと思います。

薬局でやること

  • ◻️ オランザピンの添付文書を差し替えた(先発・後発とも対象。承認取得者は10社以上)
  • ◻️ 禁忌が効能別に分かれたことをスタッフに共有した
  • ◻️ 「オランザピン+糖尿病」で自動的に疑義照会する運用になっていないか確認した
  • ◻️ 他の制吐剤の併用を、処方意図を確認する手がかりにする運用にした
  • ◻️ 制吐目的の場合、血糖コントロール状況を薬歴で追えるようにした
  • ◻️ 患者・家族への説明に口渇・多飲・多尿・頻尿を入れている(2002年の改訂から継続の注意喚起)
  • ◻️ 統合失調症・双極性障害では禁忌のままだと、全員が理解している

まとめ

  • 2026年8月25日、オランザピンの糖尿病禁忌が効能別に分かれました。医薬安発0825第1号 別紙2
  • 外れたのは制吐(CINV)だけ。統合失調症・双極性障害では禁忌のままです
  • 追加されたのは適応ではなく、警告です。「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合以外は投与しない」「毎日頻回に血糖値のモニタリング」
  • 9.1に3条件。血糖コントロールが良好な患者にのみ/投与量と期間は必要最小限/毎日頻回のモニタリング
  • 動かしたのは日本癌治療学会。要望→調査依頼(令和8年4月9日)→報告書(7月14日)→改訂(8月25日)
  • 海外5か国に禁忌はありませんでした。一方でCINVの適応を持つのも日本だけ。日本の糖尿病があるがん患者だけが標準制吐療法から外れていた
  • 元の禁忌は発売10か月で9例(死亡2例)と緊急安全性情報から。CINVの禁忌は統合失調症の注意喚起を引き継いだもので、制吐の使い方を検討して付いたものではありませんでした
  • 処方箋に効能は書いてありません。他の制吐剤の併用・診療科・投与日数・1日量10mgの上限が手がかりになります

出典

※ 本記事の警告・禁忌等は、2026年9月1日時点で公開されているジプレキサ錠の添付文書(第4版)の原文に基づいています。改訂の経緯は改訂指示通知および調査結果報告書の原文によります。
※ 引用は先発品(ジプレキサ錠)の添付文書です。後発品は版が異なる場合があります。調剤の際は当該製剤の添付文書をご確認ください。
※ 個々の患者への投与可否は処方医の判断によります。本記事は添付文書改訂の内容を整理したものです。

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