【保険のバイブル①】負担割合と高額療養費|令和8年8月から限度額が変わり「年間上限」ができました

保険のバイブル①負担割合と高額療養費 令和8年8月から限度額が変わり「年間上限」ができました 調剤報酬・制度改正
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執筆:Nori(薬Talk編集長・薬剤師)/調剤薬局勤務26年。管理薬剤師を経て、現在はチェーン薬局の本社部門で店舗運営支援を担当しています。

保険証まわりは、薬剤師がいちばん教わっていない分野だと思います。

「この人はなぜ2割なのか」「現役並みってどこから」「限度額適用認定証はもう要らないんだっけ」——聞かれて即答できる人は多くありません。学校では習わず、現場でも体系的には教わらないからです。

しかも今月、大きく変わりました。

令和8年8月から、高額療養費の自己負担限度額が引き上げられ、同時に「年間上限」が新設されています。

この記事は薬局のカウンターで使えるリファレンスとして作りました。負担割合の決まり方と、新しい高額療養費です。公費・労災は次回にまわします。

年齢で決まる負担割合(全体像)

まず土台です。厚生労働省の整理そのままです。

年齢負担割合
6歳(義務教育就学前)未満2割
6歳(義務教育就学後)〜69歳3割
70〜74歳2割(現役並み所得者は3割)
75歳以上1割(一定以上所得者は2割、現役並み所得者は3割)

間違えやすいポイントを3つ。

  • 「6歳未満」ではなく「義務教育就学前」です。6歳の誕生日ではなく、小学校入学の年の3月31日までが2割
  • 70歳になった月ではなく、誕生日の翌月から2割(1日生まれの人はその月から)
  • 75歳以上の2割は令和4年10月から。それ以前を覚えている人は要注意

ただし実務上は、負担割合は保険証・資格確認書・オンライン資格確認に表示されます。自分で計算する必要はありません。

薬剤師が知っておくべきなのは「なぜその割合なのか」を説明できることです。患者さんは「去年まで1割だったのに」と聞いてきます。

後期高齢者の3区分——「現役並み」と「一定以上」は別物

ここが最も混乱するところです。75歳以上には3つの区分があります。

区分判定基準負担割合人数(構成比)
現役並み所得課税所得145万円以上
(年収 単身約383万円以上、複数約520万円以上)
3割約130万人(約7%)
一定以上所得課税所得28万円以上 かつ
年金収入+その他の合計所得金額が
単身約200万円以上、複数320万円以上
2割約370万人(約20%)
一般課税所得28万円未満/住民税課税世帯で「一定以上所得」以外1割約575万人(約32%)
低所得Ⅱ世帯全員が住民税非課税1割約435万人(約24%)
低所得Ⅰ世帯全員が住民税非課税で年収約80万円以下1割約305万人(約17%)

覚え方はこうです。

  • 145万円=現役並み(3割)のライン
  • 28万円=一定以上(2割)のライン。ただし収入要件とのAND条件

2割の判定は「かつ」です。課税所得28万円以上でも、年金収入+その他の合計所得金額が単身200万円未満なら1割のままです。ここを「または」と誤解している人が多い。

そして判定は世帯単位です。後期高齢者医療の被保険者が世帯に複数いれば、その合算で見ます。「本人の年金は少ないのに3割」は、同世帯に所得のある被保険者がいるからです。

低所得ⅠとⅡの違いも押さえておきましょう。どちらも世帯全員が住民税非課税ですが、Ⅰは年収約80万円以下(年金収入のみで、その他の所得がない場合など)。この区分は高額療養費の限度額で効いてきます。

令和8年8月、高額療養費が変わりました

本題です。

令和8年8月から、高額療養費の自己負担限度額が変わりました。変更は3点あります。

  1. 月単位の上限額が引き上げられた
  2. 「年間上限」が新設された
  3. 多数回該当の金額は据え置き(引き上げなし)

厚生労働省は見直しの考え方をこう説明しています。

   

(1)多数回該当の金額を据え置き——長期に継続して治療を受けられている方の経済的負担を増加させない。
(2)「年間上限」の導入——多数回該当に該当しない長期療養者の経済的負担にも配慮する観点から、新たに「年間上限」を導入。これにより、月単位の「限度額」に到達しない方であっても、「年間上限」に達した場合には、当該年においてそれ以上の負担は不要となる。

70歳未満(令和8年8月〜令和9年7月)

年収換算健保(標報)/国保(旧ただし書き所得)月単位の上限額多数回該当年単位の上限額
約1,160万円〜83万円以上/901万円超270,300+(医療費−901,000)×1%140,1001,680,000
約770〜1,160万円53〜79万円/600〜901万円179,100+(医療費−597,000)×1%93,0001,110,000
約370〜770万円28〜50万円/210〜600万円85,800+(医療費−286,000)×1%44,400530,000
〜約370万円26万円以下/210万円以下61,50044,400530,000
住民税非課税36,90024,600290,000

70歳以上(令和8年8月〜令和9年7月)

年収換算負担外来(個人ごと)月単位の上限額(世帯)多数回年単位の上限額
約1,160万円〜3割270,300+(医療費−901,000)×1%140,1001,680,000
約770〜1,160万円179,100+(医療費−597,000)×1%93,0001,110,000
約370〜770万円85,800+(医療費−286,000)×1%44,400530,000
〜約370万円70-74歳2割
75歳以上1割
22,000
(年間上限216,000)
61,50044,400530,000
住民税非課税11,000
(年間上限96,000)
25,70024,600290,000
住民税非課税
(所得が一定以下)
8,00015,700180,000

※ 単位は円。医療費との関係は「上限額÷0.3=その金額」という関係になっています(例:85,800÷0.3=286,000)。

「月は上がったのに、年は変わらない」の仕組み

ここがいちばん面白いところで、そして説明が難しいところです。

70歳以上・年収〜約370万円の方の外来の上限が、18,000円から22,000円に上がりました。「負担増だ」と思いますよね。

でも同時に年間上限216,000円が入りました。

216,000 ÷ 12 = 18,000。

つまり「毎月上限まで使う人」の年間負担は、変わりません。厚生労働省の説明どおりです。

   住民税非課税区分に対して、新たに年間上限を導入。これにより、毎月現在の上限額まで利用される方の負担は変わらない。

住民税非課税も同じ構造です。外来 8,000円 → 11,000円。年間上限 96,000円。96,000 ÷ 12 = 8,000。

そして低所得Ⅰ(住民税非課税で所得が一定以下)の外来は8,000円のまま据え置きです。

では、誰の負担が増えるのか

毎月ではなく、時々かかる人です。

  • 毎月上限まで使う人→ 年間上限で吸収され、負担は変わらない
  • 年に数回だけ上限に達する人→ その月ごとに22,000円になるので負担増

逆に、「月の上限には届かないが、毎月そこそこかかる」人は軽くなります。年間上限に達すれば、そこから先は払わなくてよくなるからです。

厚生労働省の試算例では、多数回該当に届かなかった方で年間約4.3万円の負担減、極めて高額な医療を受けた方で年間約23.7万円の負担減というケースが示されています。

令和9年8月には、区分が12段階になる

これで終わりではありません。

令和9年8月からは、所得区分が細分化されます。現在の5区分から、12段階へ。

年収換算で見ると、こう刻まれます。

  • 約1,650万円〜/約1,410〜1,650万円/約1,160〜1,410万円/約1,040〜1,160万円
  • 約950〜1,040万円/約770〜950万円/約650〜770万円/約510〜650万円
  • 約370〜510万円/約260〜370万円/約200〜260万円/〜約200万円

厚生労働省はこれを「応能負担」の考え方と説明しています。所得に応じてきめ細かく、ということです。

薬局にとっての意味は明確です。令和9年8月以降、「同じ年収帯」で説明が通じなくなります。限度額は個別に確認するしかなくなる。

そしてもうひとつ。令和9年8月からは「〜約200万円」区分の年間上限が41万円となり、該当が確認できた方には償還払いで適用されます。窓口では引けません。患者さんから聞かれたら「後から戻ってきます」と答える場面が出てきます。

マイナ保険証なら、限度額適用認定証は要らない

ここは窓口で毎日効きます。

厚生労働省・支払基金の「マイナ保険証・資格確認書の受付時のチェックリスト」に、こうあります。

   マイナ保険証での受付時に、「限度額適用認定証」で所得区分を確認していませんか?
マイナ保険証での受付時に、オンライン資格確認で所得区分が確認できます。限度額適用認定証で確認する必要はありません。レセプト請求の際は、オンライン資格確認で確認できた所得区分で請求してください。

マイナ保険証を出した患者さんに「限度額適用認定証はお持ちですか」と聞くのは、誤りです。指導での指摘対象になり得ます。

そしてこれは患者さんにとっての最大のメリットでもあります。厚生労働省のQ&A(Q1)が挙げているのがこれです。

   医療機関・薬局の窓口で高額な医療費が発生した場合に、限度額適用認定証の発行を申請しなくとも、外来の窓口で限度額を超える支払の免除が受けられる

「マイナ保険証にすると何がいいの」と聞かれたときの、いちばん具体的な答えです。「役所に申請に行かなくて済みます」——これで通じます。

薬局で気をつけること

① 限度額は「同一医療機関ごと」が原則

窓口で限度額までに止まるのは、同一の医療機関(薬局)での自己負担が限度額を超えた場合です。

ただし、こういう注記があります。

   同一の医療機関における一部負担金では限度額を超えない場合であっても、同じ月の複数の医療機関における一部負担金(70歳未満の場合は2万1千円以上であることが必要)を合算することができる。この合算額が限度額を超えれば、高額療養費の支給対象となる。

70歳未満は「2万1千円以上」の壁があります。薬局で2万1千円未満の負担なら、合算に入りません。70歳以上にはこの壁がありません。

ここは患者さんによく聞かれます。「病院と薬局で合わせて計算できますか」→ 70歳未満なら、それぞれ2万1千円以上でないと合算できません。

② 高額療養費の「年」は8月始まり

新設された年間上限の期間は8月〜翌年7月です。今回の改正も「令和8年8月〜令和9年7月」という区切りになっています。

1月始まりではありません。患者さんに「今年はもう上限に達していますか」と聞かれたら、8月からの累計で考えます。

③ 多数回該当は「過去12か月で3回以上」

過去12か月以内に3回以上上限額に達すると、4回目から「多数回該当」となり、上限額が下がります。

今回の見直しでこの金額は据え置かれました。長期療養者への配慮です。「毎月かかっている人ほど、影響が小さい」と説明できます。

窓口で使える説明

聞かれること答え方
「去年まで1割だったのに」「所得の状況で毎年見直されます。世帯の中に一定以上の所得の方がいると、割合が変わることがあります」
「うちは年金だけなのに3割?」「判定は世帯単位なんです。同じ世帯に後期高齢者の方がもう一人いらっしゃると、合わせて見ます」
「今月から高くなった気がする」「今年の8月から高額療養費の上限が見直されました。ただし毎月上限まで使われる方は、年間で見ると変わらない仕組みになっています」
「限度額の紙、要りますか」「マイナ保険証があれば不要です。その場で確認できます」
「病院と薬局は合算できる?」(70歳未満)「それぞれ2万1千円以上ないと合算できない決まりです」/(70歳以上)「合算できます」

チェックリスト

  • ◻️ 令和8年8月から限度額が変わったことを店舗で共有した
  • ◻️ 年間上限が新設されたことを説明できる
  • ◻️ 多数回該当は据え置きだと説明できる
  • ◻️ 後期高齢者の「145万円」と「28万円かつ収入要件」の違いを言える
  • ◻️ 2割の判定が「かつ」(AND条件)だと理解している
  • ◻️ 判定が世帯単位であることを説明できる
  • ◻️ マイナ保険証提示時に限度額適用認定証を求めない運用になっている
  • ◻️ 高額療養費の年度が8月始まりだと知っている
  • ◻️ 70歳未満の合算に2万1千円の壁があると知っている
  • ◻️ 令和9年8月に12区分へ細分化されることを把握している

まとめ

  • 負担割合:就学前2割/就学後〜69歳3割/70-74歳2割/75歳以上1割(+所得による例外)
  • 後期高齢者は3区分。現役並み=課税所得145万円以上(3割)、一定以上=課税所得28万円以上かつ収入要件(2割)
  • 2割の判定は「かつ」。そして世帯単位
  • 令和8年8月から高額療養費の月額上限が引き上げ、同時に年間上限が新設された
  • 多数回該当は据え置き。長期療養者の負担は増やさない設計
  • 70歳以上外来は月18,000円→22,000円だが、年間上限216,000円(=18,000×12)。毎月上限まで使う人の年負担は変わらない
  • 令和9年8月には所得区分が12段階に細分化される
  • マイナ保険証があれば限度額適用認定証は不要。求めるのは誤り
  • 高額療養費の年は8月始まり。70歳未満の合算には2万1千円の壁

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出典

※ 本記事は2026年8月時点の公表資料に基づきます。金額・区分は制度改正により変わります。個別の患者さんの適用区分は、オンライン資格確認や保険者の通知でご確認ください。次回は公費負担医療(難病・自立支援医療・小児慢性など)と労災・通勤災害を扱います。

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