執筆:Nori(薬Talk編集長・薬剤師)/調剤薬局勤務26年。管理薬剤師を経て、現在はチェーン薬局の本社部門で店舗運営支援を担当しています。
自分の薬局の「レセプト1件あたりの平均点数」を知っていますか。
ほとんどの薬剤師が知らないと思います。そして、その数字で指導の対象が決まります。
指導・監査の話は、なぜか現場で共有されません。管理薬剤師だけが知っていて、スタッフには「指導が来るから薬歴を書いて」としか伝わらない。
厚生労働省保険局医療課 医療指導監査室の資料「令和8年度 保険調剤の理解のために」から、選定基準・不正の類型・処分の基準・実際の件数を、原文のまま整理します。
指導は「受ける義務」がある
まず前提から。健康保険法第73条です。
保険医療機関及び保険薬局は療養の給付に関し、保険医及び保険薬剤師は健康保険の診療又は調剤に関し、厚生労働大臣の指導を受けなければならない。
資料はこれに「厚生労働大臣の指導を受ける義務がある」と注記しています。断れるものではありません。
指導の目的も明示されています。
「保険診療の取扱い、診療報酬の請求等に関する事項について周知徹底させること」(指導大綱)
指導は「罰」ではなく「教育」です。罰にあたるのは、次に出てくる監査のほうです。
「集団的個別指導」の選定基準は公開されている
指導には3つの形態があります。①集団指導 ②集団的個別指導 ③個別指導。
このうち②集団的個別指導の選定基準が、はっきり書かれています。
・レセプト1件当たりの平均点数が次の都道府県の平均点数の一定割合※を超えるもの
※病院(歯科を除く)の場合は1.1倍、それ以外の場合は1.2倍
かつ
・前年度及び前々年度に集団的個別指導又は個別指導を受けた保険医療機関等を除き、類型区分ごとの保険医療機関等の総数の上位より概ね8%の範囲のもの
薬局は1区分(診療科などで分けない)とされています。つまり——
- 自分の県の薬局の平均点数の1.2倍を超えていて、
- かつ県内の上位およそ8%に入っていると、
- 集団的個別指導の対象になります
使うデータも明示されています。支払基金と国保連合会で管理されている、保険医療機関等ごとのデータ(社会保険・国民健康保険の一般分および後期高齢者保険分)。総点数 ÷ 総件数で算出します。
これが意味すること
平均点数は「相対評価」です。絶対的な基準はありません。周りより高いかどうかで決まります。
だから、こういう薬局は構造的に上がりやすい。
- 高薬価の薬を多く扱う(がん、生物学的製剤、専門医療機関の門前)
- 長期処方が多い(1件あたりの薬剤料が大きくなる)
- 在宅を多く手がけている(薬学管理料が積み上がる)
- 加算をきちんと取っている
つまり、点数が高いこと自体は「悪いこと」ではありません。むしろ在宅や専門対応を頑張っている薬局ほど上がります。
それでも指導の対象にはなる。「なぜ高いのかを説明できる状態にしておく」ことが備えです。
監査は「不正または著しい不当」が疑われたとき
指導とは目的が違います。
「保険医療機関等の診療内容又は診療報酬の請求について、不正又は著しい不当が疑われる場合等において、的確に事実関係を把握し、公正かつ適切な措置を採ることを主眼とする。」(監査要綱)
そして「不正請求」の類型が4つ挙げられています。
| 類型 | 内容 |
|---|---|
| 無資格者調剤 | 非薬剤師による調剤 |
| 架空請求 | 調剤の事実がないものを調剤したとして請求 |
| 付増請求 | 実際に行った調剤内容に、実際に行っていない調剤内容を付増して請求 |
| 振替請求 | 実際に行った調剤内容を、点数の高い別の調剤内容に振替えて請求 |
1番目に「無資格者調剤」が来ていることに注目してください。
これは「詐欺や不正行為に当たるもの」の筆頭に置かれています。薬剤師法第19条違反であると同時に、健康保険法上も不正請求として扱われるということです。
0402通知で非薬剤師に渡せる業務が整理されましたが、その線を越えると、法違反と不正請求の両方になります。
「不当請求」の例が、薬歴の話だった
ここが現場に直結します。
資料は「不当請求=算定要件を満たさない等、調剤報酬請求の妥当性を欠くもの」と定義したうえで、具体例を2つ挙げています。両方とも薬歴です。
【服薬管理指導料の例】
薬剤服用歴等に、服薬指導の要点を記載していないにもかかわらず、服薬管理指導料を算定している。
【特定薬剤管理指導加算1の例】
薬剤服用歴等に、特に安全管理が必要な医薬品に関する指導の要点を記載していないにもかかわらず、特定薬剤管理指導加算1を算定している。
指導したかどうかではありません。「記載しているかどうか」です。
実際に丁寧な指導をしていても、薬歴にその要点が書かれていなければ、不当請求として扱われ得ます。指導監査室が例示しているということは、それだけ多いということでもあります。
とくに特定薬剤管理指導加算1は要注意です。ハイリスク薬について「その薬に関する指導の要点」が要ります。「変わりないとのこと」だけでは足りません。
薬歴の書き方が算定と直結している——これが理由です。
処分は「故意でなくても」あり得る
監査後の措置は2種類あります。
行政上の措置
- 保険医療機関等の指定・保険医等の登録の取消(取消処分)——取消処分となった場合、原則として5年間は再指定・再登録を行わない
- 戒告
- 注意
あわせて薬剤師法第8条により、戒告/3年以内の業務の停止/免許の取消しという処分もあります。
経済上の措置
診療内容または診療報酬の請求に関し不正、不当の事実が認められた場合、原則として5年間分を返還する。40%の加算金が加えられることもある。(健康保険法第58条)
5年分+40%。この規模になると、薬局の存続に直結します。
そして、ここが最も重要
取消処分の基準に、こう書かれています。
・ 重大な過失により、不正又は不当な診療(調剤)をしばしば行ったもの。
・重大な過失により、不正又は不当な診療報酬(調剤報酬)の請求をしばしば行ったもの。
・重大な過失により、保険医療機関の管理者が当該保険医療機関に勤務する者の監督又は当該保険医療機関の管理及び運営の注意を怠り、不正又は不当な診療がしばしば行われた又は診療報酬の請求がしばしば行われたもの。
資料はこれに、はっきりと注をつけています。
※故意でなくとも、重大な過失がしばしば行われれば、処分の対象となり得る。
「知らなかった」「うっかりしていた」は、繰り返されれば通用しません。
そして3つ目——管理者が、勤務する者の監督を怠った場合も取消処分の基準に入っています。管理薬剤師の責任は、自分の調剤だけではありません。
実際、どれくらい起きているのか
令和6年度の実績が公表されています(医科・歯科・薬局を含む数字です)。
| 監査を受けた保険医療機関・保険医等 | 34件、83人 |
| 指定・登録の取消(取消相当を含む) | 23件、18人 |
| 指導・適時調査・監査により返還を求めた金額 | 約48.5億円 |
監査34件のうち、23件が取消。監査まで行くと、かなりの割合で取消に至っているということです。
件数だけ見れば「めったにない」と思うかもしれません。ただし返還額は約48.5億円。これは監査だけでなく指導・適時調査を含む金額ですから、取消に至らない「返還」は、はるかに広く起きているということです。
怖いのは取消ではなく、返還です。算定要件を満たさない請求が続いていれば、5年分がまとめて返ってきます。
個別指導で現物を出すもの
同じ資料の別の箇所から、確認対象として明記されているものを集めました。日常業務のどこを整えるべきかが分かります。
処方箋の受付・確認
- 保険医等の署名または記名・押印があるか
- 被保険者記号・番号、保険者名の記載があるか
- 使用期間は適切か。リフィルは次回調剤予定日の前後7日以内か
- 変更不可の場合、備考欄の「保険医署名」があるか
- 薬価基準収載品目か
- 適応外・用法外・用量外、投与期間の上限を超えていないか
調剤済処方箋への記入
- 調剤済年月日(調剤済とならなかった場合は調剤年月日と調剤量)
- 保険薬局の所在地及び名称
- 保険薬剤師氏名印——調剤を行った薬剤師が署名するか、姓名を記載し押印する
- 備考欄または処方欄に、変更した場合はその変更内容、照会を行った場合はその回答の内容
- リフィルの場合、調剤実施回数のチェック、調剤日、次回調剤予定日
請求前の突合
調剤報酬の請求に当たっては、審査支払機関への提出前に、保険薬剤師が処方箋、調剤録、薬剤服用歴の記録、調剤報酬明細書の突合を行い、「摘要」欄も含め調剤報酬明細書の記載事項に誤りや不備がないか確認することが重要
「4つの突合」——処方箋・調剤録・薬歴・レセプト。この4つが食い違っていないか。不当請求の多くは、ここで防げます。
掲示
施設基準に係る指摘事項として、2つが挙げられています。
- 地方厚生(支)局長に届け出た事項に関する掲示がない
- 地方厚生(支)局長に届け出ていない事項に関する掲示がある
2つ目に注意してください。やめた加算の掲示が残っている——これも指摘されます。加算を取り下げたら、掲示も剥がす。忘れがちです。
明日からできる備え
- ◻️ 自局のレセプト1件あたり平均点数を把握している
- ◻️ 点数が高い場合、その理由を説明できる(高薬価品・在宅・長期処方など)
- ◻️ 薬歴に服薬指導の要点を毎回記載している
- ◻️ ハイリスク薬でその薬に関する指導の要点を記載している
- ◻️ 調剤済処方箋に調剤済年月日・薬局名・薬剤師氏名印が入っている
- ◻️ 疑義照会の回答内容を処方箋に記載している
- ◻️ 請求前に処方箋・調剤録・薬歴・レセプトの4点突合をしている
- ◻️ レセプトの「摘要」欄の記載漏れを確認している
- ◻️ 届け出た施設基準の掲示がすべてある
- ◻️ 届け出ていない事項の掲示が残っていない
- ◻️ 非薬剤師に任せている業務が0402通知の範囲内に収まっている
- ◻️ 管理薬剤師がスタッフの業務を監督できる体制になっている
まとめ
- 指導は健康保険法第73条の義務。目的は罰ではなく周知徹底
- 集団的個別指導は「都道府県平均点数の1.2倍超」かつ「上位概ね8%」で選定される(薬局は1区分)
- 点数が高い=悪ではない。理由を説明できる状態にしておく
- 不正請求の筆頭は無資格者調剤。架空・付増・振替が続く
- 不当請求の例示は、どちらも薬歴。「指導したか」ではなく「記載したか」で判断される
- 経済上の措置は原則5年分の返還+40%の加算金
- 故意でなくても、重大な過失がしばしばあれば処分の対象になり得る
- 管理者の監督不足も取消処分の基準に含まれる
- 令和6年度:監査34件・83人、取消23件・18人、返還約48.5億円
- 請求前の4点突合(処方箋・調剤録・薬歴・レセプト)が最大の防御
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出典
- 厚生労働省保険局医療課 医療指導監査室「令和8年度 保険調剤の理解のために」(1. 指導・監査等について/4. 保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則について/5. 調剤報酬点数表の解釈(主な留意点))
https://www.mhlw.go.jp/content/001713167.pdf - 健康保険法 第58条、第73条、第78条
- 薬剤師法(昭和35年法律第146号)第8条、第19条
https://laws.e-gov.go.jp/law/335AC0000000146 - 厚生労働省医薬・生活衛生局総務課長「調剤業務のあり方について」(平成31年4月2日 薬生総発0402第1号)
https://www.mhlw.go.jp/content/000498352.pdf
※ 本記事は2026年8月時点の公表資料に基づきます。令和6年度の実施状況は医科・歯科・薬局を含む全体の数字です。指導・監査の運用は地方厚生(支)局により細部が異なる場合があります。

