調剤過誤は「渡してから」半分見つかっている|ヒヤリ・ハット11万件のデータが示す、明日変えられること

調剤過誤は「渡してから」半分見つかっている ヒヤリ・ハット11万件のデータが示す、明日変えられること 薬局実務
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執筆:Nori(薬Talk編集長・薬剤師)/調剤薬局勤務26年。管理薬剤師を経て、現在はチェーン薬局の本社部門で店舗運営支援を担当しています。

調剤過誤をゼロにはできません。それでも、どこで起きているかは分かっています。

日本医療機能評価機構の「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」に、2024年の1年間で113,185件が報告されました。全国の薬局が自分たちの失敗を出し合った、11万件のデータです。

この年報を読むと、現場の感覚と食い違う事実がいくつも出てきます。

  • ミスに気づいたのが交付前だったのは、半分以下
  • 約5件に1件は、患者さんか家族が見つけている
  • 過誤の8割は「平素から利用している」患者で起きている
  • 鑑査者が当事者になっている事例が7,083件

数字から、明日変えられることを整理します。

報告の8割は「疑義照会」——薬局内のミスではない

まず全体像です。2024年の報告内訳。

区分件数割合
疑義照会や処方医への情報提供に関する事例93,715件82.8%
調剤に関するヒヤリ・ハット事例19,304件17.1%
特定保険医療材料等66件0.1%
一般用医薬品等の販売100件0.1%
合計113,185件100%

8割が疑義照会です。

これは「薬局がミスをした」記録ではありません。薬局が処方段階の問題を捕まえた記録です。年報も、この割合について「これらの事例の割合は年々増加しており、報告事例の8割を占めるようになった」と書いています。

10年前と比べると、変化がはっきり見えます。

2015年2024年
報告総数4,779件113,185件
疑義照会の割合21.8%82.8%
調剤の割合78.0%17.1%

報告総数は約24倍になりました。もちろん報告件数の増加は、事故が増えたことを意味しません。報告する薬局が増え、報告する文化が育ったということです。

ここが最初の実務的な示唆です。報告件数が少ない薬局は、安全な薬局ではありません。見つけていないか、出していないかのどちらかです。

半分以上は「渡してから」気づいている

いちばん重い数字です。

調剤に関する事例19,304件を、発見のタイミングで分けたものです。

発見場面患者への影響件数
交付前に発見した9,177件
交付後に発見した軽微な治療237件
影響なし9,266件
不明624件
合計19,304件

交付前に止められたのは9,177件——全体の47.5%です。

残りの10,127件(52.5%)は、患者さんの手に渡ってから見つかっています。そのうち237件では、実際に軽微な治療が必要になりました。

「影響なし」が9,266件あることに安心してはいけません。影響がなかったのは、たまたまです。同じ経路で起きた別のミスが、237件では治療につながっています。

薬局の防御ラインは、半分しか機能していない——これが11万件が示す現実です。

5件に1件は、患者さんが見つけている

誰が気づいたか、の内訳です。

発見者件数
当事者(自分で気づいた)6,288件
当該薬局の薬剤師(他の薬剤師)6,849件
当該薬局の事務員1,196件
他施設の医療従事者869件
患者本人3,005件
家族・付き添い928件
他患者8件
その他161件
合計19,304件

患者本人・家族・他患者で3,941件。全体の20.4%です。

5件に1件は、薬局の誰も気づかず、患者さん側が気づいたということです。

これは怖い数字であると同時に、実務的なヒントでもあります。

患者さんは「最後の鑑査者」

患者さんが3,000件も見つけられるのは、いつもと違うことに気づける立場にいるからです。「前と色が違う」「いつもより多い」「この薬は飲んでいない」。

だとすれば、気づける材料を渡すこと自体が、安全対策になります。

  • 薬を見せながら渡す。袋に入れたまま渡さない
  • 変更点を先に言う。「今回からメーカーが変わって、色が白から薄い黄色になっています」
  • 数量を口に出す。「28日分、4シートです」
  • 「いつもと違うと思ったら、飲む前に連絡してください」と毎回言う

最後のひと言は、交付後に発見される10,127件を、被害の出る前に止める唯一の仕組みです。

「常連さん」がいちばん危ない

これは多くの薬剤師の直感と逆だと思います。

患者の来局状況件数割合
平素から利用15,481件80.2%
久しぶりに利用1,991件10.3%
初めて1,537件8.0%
複数人295件1.5%

8割が「平素から利用している」患者さんです。

もちろん来局数そのものが多いという分母の効果はあります。それでも、この数字は「知っている患者だから大丈夫」が成り立たないことを示しています。

むしろ逆でしょう。初めての患者には全部確認します。常連さんには確認しません。「いつものやつね」で処理が始まる。処方が変わっていても、目が滑る。

前回と同じだろう、という予測が入った瞬間に、鑑査は鑑査でなくなります。

もうひとつ、来局状況の別の切り口も出ています。

  • 当薬局のみ利用:10,411件
  • 複数の薬局を利用(当薬局が主):5,870件
  • 複数の薬局を利用(他薬局が主):2,728件

約45%は、複数の薬局を使っている患者さんです。手元の薬歴に全部が載っているとは限らない——この前提を忘れると、重複や相互作用は見えません。

鑑査者も当事者になっている

当事者の職種です(複数回答のため合計24,219)。

当事者職種件数
薬剤師(調製者8,471件
薬剤師(鑑査者7,083件
薬剤師(交付者4,895件
薬剤師(その他)410件
事務員3,093件
その他の職種267件

鑑査者が当事者になっている事例が7,083件。調製者の8,471件と、そう変わりません。

鑑査は「最後の砦」のはずです。その砦が、調製とほぼ同じ頻度で抜けている。

理由は想像がつきます。鑑査は「合っていることを確認する作業」になりがちだからです。合っているはずのものを見ると、人は合っているように見ます。

鑑査を「探す作業」に変える

実務で効くのは、手順を変えることではなく、順序と視点を変えることです。

  • 薬から処方箋を見る。処方箋を見てから薬を見ると、書いてあるものを探してしまう。逆にすると、余分なものに気づける
  • 前回処方との差分を先に見る。「変わったところはどこか」を最初に確定させる
  • 数量は声に出す。黙読は飛ばせるが、音読は飛ばしにくい
  • 調製した本人が鑑査しない。可能な体制なら徹底する
  • 迷ったら、いったん手を止めて別の作業に移る。戻ってきたときに見え方が変わる

ヒヤリハットを「集めるだけ」で終わらせない

報告制度の最大の落とし穴は、報告が目的化することです。書いて、ファイルして、終わる。

年報のデータは、集めた情報をどう使うかを考えるための材料でもあります。自局の事例を、次の3段階で扱ってみてください。

段階1:個人ではなく「経路」を書く

「Aさんが数え間違えた」では、次に活きません。

書くべきは「なぜそれが通ってしまったか」です。

  • どの工程で発生したか(入力/調製/鑑査/交付)
  • どの工程で止まるはずだったか
  • そこが止められなかった理由は何か

年報の分類が「薬剤の調製前/調製および鑑査/交付/交付後」という工程軸になっているのは、そのためです。人ではなく工程で見る。

段階2:3か月に1度、並べて眺める

1件ずつ見ても何も分かりません。10件並べると、偏りが見えます。

  • 同じ時間帯に集中していないか(昼の混雑、閉局間際)
  • 同じ薬が繰り返し出ていないか(名称類似・規格違い)
  • 同じ工程で止まっていないか
  • 同じ曜日ではないか(人が少ない日)

偏りが見つかったら、それは個人の不注意ではなく、設計の問題です。棚の配置を変える、その時間帯だけ人を増やす、その薬だけ棚を離す——対策が具体的になります。

段階3:出しても損をしない場にする

これがいちばん難しく、いちばん効きます。

報告した人が責められる薬局では、報告は出てきません。出てこなければ、分析もできません。そして「報告が少ない=安全」という最悪の誤解が生まれます。

全国の報告が10年で24倍になったのは、出せる場が増えたからです。同じことを、自分の薬局の中でやる必要があります。

  • 管理薬剤師が自分の事例を最初に出す
  • 「誰が」を記録しない様式にする
  • 朝礼で「今週のヒヤリ」を1件だけ共有する(責めない・原因だけ話す)
  • 止められた事例も報告する。交付前に気づいた9,177件のほうに、防ぎ方のヒントがある

最後の項目は見落とされがちです。「危なかったが止まった」事例には、止まった理由があります。その理由こそが再現すべき仕組みです。

報告制度は加算の要件でもある

実務的な話も添えておきます。年報の「ごあいさつ」に、こう書かれています。

  平成30年度診療報酬改定では、薬局における医療安全に資する情報の共有が地域支援体制加算の施設基準の1つとなりました。

「患者のための薬局ビジョン」実現のためのアクションプラン検討委員会報告書でも、薬学的管理・指導の取り組みを評価する指標の1つとして、本事業への事例報告が挙げられています。

報告は、安全のためであると同時に、制度上も評価される行為だということです。参加していない薬局は、施設基準の観点からも確認しておく価値があります。

明日からのチェックリスト

  • ◻️ 「いつもと違うと思ったら飲む前に連絡を」を毎回言う運用にした
  • ◻️ 薬を見せながら交付している(袋のまま渡していない)
  • ◻️ 変更点(メーカー・色・規格)を先に伝えている
  • ◻️ 数量を声に出して確認している
  • ◻️ 常連の患者でも前回処方との差分を必ず見る手順にした
  • ◻️ 鑑査は薬→処方箋の順で見ている
  • ◻️ 調製者と鑑査者を分ける体制にしている(可能な範囲で)
  • ◻️ 複数薬局を使う患者を前提に他薬局の薬を確認している
  • ◻️ ヒヤリ・ハットを「人」ではなく「工程」で記録している
  • ◻️ 3か月に1度、並べて偏りを見る時間を取っている
  • ◻️ 交付前に止まった事例も報告している
  • ◻️ 薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業に参加している

まとめ

  • 2024年の報告は113,185件。うち8割超が疑義照会——薬局は処方段階の問題を大量に捕まえている
  • 調剤の事例19,304件のうち、交付前に止められたのは47.5%。半分以上は渡してから気づいている
  • 237件では実際に軽微な治療が必要になった
  • 20.4%は患者本人・家族が発見。患者は事実上「最後の鑑査者」
  • 過誤の80.2%は「平素から利用している」患者で起きている。常連こそ差分を見る
  • 鑑査者が当事者の事例が7,083件。鑑査は「確認」ではなく「探す」作業に変える
  • ヒヤリ・ハットは人ではなく工程で記録し、3か月ごとに偏りを見る
  • 止まった事例にこそ、止め方が書いてある

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出典

※ 数値は2024年年報の集計値です。報告件数は事業参加薬局からの自主報告に基づくため、全国の発生実態をそのまま表すものではありません。割合は本記事で算出しました。

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