【保険のバイブル②】労災の処方箋が来たら|様式5号と16号の3、写しの⑳欄、そして200円は取らない

保険のバイブル②労災の処方箋が来たら 様式5号と16号の3、写しの⑳欄、そして200円は取らない 薬局実務
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執筆:Nori(薬Talk編集長・薬剤師)/調剤薬局勤務26年。管理薬剤師を経て、現在はチェーン薬局の本社部門で店舗運営支援を担当しています。

「これ、労災なんですけど」——年に何回あるかどうかの言葉です。だから毎回あわてます。

様式第5号? 16号の3? 保険証は要る? お金はもらう? レセプトはどこに出す?

労働局が出している「労災保険 指定薬局の手引」には、全部書いてあります。ただし読む機会がない。この記事は、その手引から薬局に必要な部分だけを抜いたものです。

保険のバイブル第2回、労災・通勤災害・交通事故編です。

まず、うちは「指定薬局」か

ここが分岐点です。

労災保険指定薬局指定を受けていない薬局
給付の形療養の給付(現物給付)療養の費用の支給(現金給付)
患者さんの支払い無料いったん全額立替、後日請求して支給を受ける
薬局の請求先労働局(労災レセプト)—(患者さんが労基署へ請求)

手引の説明はこうです。

   「療養の給付」は、労災病院や労災保険指定医療機関・薬局等(中略)で、無料で治療や薬剤の支給などを受けられます(これを現物給付といいます)。
「療養の費用の支給」は、近くに指定医療機関等がないなどの理由で、指定医療機関等以外の医療機関や薬局等で療養を受けた場合に、その療養にかかった費用を支給する現金給付です。

給付の対象となる療養の範囲や期間は、どちらも同じです。違うのは、患者さんが立て替えるかどうか。

指定を受けていない薬局で労災の処方箋を受けたら、全額を患者さんからいただき、領収書を渡します。患者さんはそれを労基署に請求します。「10割です」と言うときは、必ず理由と、後で戻ることを説明してください。

出してもらう書類は、状況で3パターン

手引は、労働者に提出を求める書類を3つの場面に分けています。

場面業務災害・複数業務要因災害通勤災害
初めての処方
(この薬局が初めて/前の薬局が非指定)
様式第5号
療養補償給付及び複数事業労働者療養給付たる療養の給付請求書
様式第16号の3
療養給付たる療養の給付請求書
他の指定薬局からの変更様式第6号
指定病院等(変更)届
様式第16号の4
指定病院等(変更)届
傷病(補償)等年金に移行した上記の「指定病院等(変更)届」

覚え方はシンプルです。

  • 仕事中のケガ=5号/6号
  • 通勤中のケガ=16号の3/16号の4
  • 初めて=請求書、乗り換え=変更届

「病院に出したから、うちには無い」と言われたら

写しで構いません。手引にこうあります。

   「療養(補償)等給付たる療養の給付請求書」は、労災指定医療機関に提出したものの写しでも差し支えありません。(ただし、⑳指定病院等の名称・所在地は、指定薬局の名称・所在地を記入します。

ここは実務で毎回引っかかるところです。写しをもらったら、⑳欄を薬局の名称・所在地に直してもらう(または直す)。医療機関名のまま出すと返戻になります。

その場で出せないと言われたら

   緊急やむを得ない事由によって提出を求めることが困難な場合には、できるだけ早い時期に提出を求めてください。督促しても提出がない場合は、労働基準監督署又は労働局に連絡してください。

調剤を断る必要はありません。後から出してもらえばよい。ただし「必ず持ってきてください」と伝え、いつまでに、を決めること。出てこなければ労基署に連絡する——これも手引が求めている対応です。

処方箋には「労働保険番号と事業場名」を書いて3年保存

意外と知られていない義務です。

   指定薬局は、傷病労働者に対する療養の給付に関する処方箋に、療養の給付請求書に記載されている労働保険番号又は年金証書番号及び事業場の名称を記載し、その完結の日から3年間保存してください。

健康保険の処方箋と同じく3年ですが、「労働保険番号」と「事業場の名称」を処方箋に書き足すという一手間が入ります。

そして傷病(補償)等年金に移行すると、労働保険番号は年金証書番号に変わります。手引の説明です。

   療養の開始後1年6か月を経過しても傷病が治ゆせず、障害の程度が定められた傷病等級に該当する場合は、労働基準監督署が傷病(補償)等年金の決定を行います。(中略)それまでレセプト請求時に使用していた労働保険番号は、新たに振り出された年金証書番号に変更になります。

長期の患者さんで番号が変わったら、これです。変更後の第1回目の請求には、変更届の添付が必要になります。

労災に健康保険は使えない——そして薬局には指導が求められている

ここが、この記事でいちばん重い部分です。

   明らかに業務災害や通勤災害に該当するような負傷について、健康保険を使用することはできません。(中略)薬局の窓口において明らかに業務災害や通勤災害に該当するような負傷と考えられる場合については、次の理由により、健康保険を使用しないよう指導をお願いします。
なお、指導に応じないときは、労働基準監督署又は労働局へ連絡してください。

「指導をお願いします」——薬局の役割として明記されています。

患者さんが労災を避けたがる理由は、だいたい「会社に迷惑がかかる」「面倒くさい」です。手引は、その説得材料を4つ挙げています。

  • 事業場が「労働者死傷病報告」を出さないと「労災かくし」になり、50万円以下の罰金(労働安全衛生規則第97条。通勤災害は対象外
  • 健康保険側から見ても不正な請求であり、事実が分かれば遡って返還請求がなされる
  • 治療が長引いたり後遺症が残ると、被災労働者や事業主の経済的負担が予想以上に大きくなる
  • 後から労災へ切り替えると、薬局にとっても煩雑な事務になる

窓口ではこう言えます。

   「お仕事中のおケガでしたら、健康保険は使えない決まりなんです。労災だとお薬代のご負担がゼロになりますし、あとから切り替えるほうがずっと手間がかかります。会社に労災の書類をお願いしてみていただけますか

「負担がゼロになる」を先に言うのがコツです。制度の話より、患者さんの利益の話のほうが動きます。

交通事故のとき——「自賠先行」を勧める理由

通勤中の交通事故は、通勤災害であると同時に第三者行為災害です。労災と自賠責の両方が使えます。

   相手方のある交通事故の場合、被災労働者は労災保険の保険給付と自賠責保険(共済)による保険金支払のどちらか一方を受けることができます。この場合、どちらを先に受けるかの選択は、被災労働者の自由です。

そして手引は、はっきり「自賠先行を勧めている」と書いています。理由が具体的です。

項目自賠責保険労災保険
慰謝料支払われる給付が認められていない
休業損害原則100%てん補給付基礎日額の60%
療養費の対象労災保険より幅広い
支払いの速さ仮渡金・内払金制度で事実上速やか

患者さんの取り分が明らかに違います。「労災のほうが有利」と思い込んでいる方には、伝える価値があります。

ただし薬局側には、請求上の注意があります。

   自賠責保険から、薬剤費の一定期間分を全額受領済(請求済)の場合は、労災初回レセプトの摘要欄に「○年○月○日までは、自賠責保険より受領済(請求済)」と記載してください。

自賠責 → 労災へ切り替わったときの摘要欄。これを書かないと二重請求を疑われます。

通勤災害の「200円」は、窓口では取らない

通勤災害には一部負担金200円(健康保険の日雇特例被保険者は100円)があります。

ただし、薬局の窓口で徴収するものではありません。

この200円は、休業給付を支給する際に、政府が自動的に減額して支給する形で処理されます。指定薬局での療養は無料のままです。

「通勤災害だから200円もらうんだったかな」と迷う必要はありません。取りません。

レセプトは「初回」と「継続」に分ける

紙で請求する場合、初回請求分と継続請求分を分けて綴じます。

「初回請求分」になるのは、次の4つです。

  1. 受傷後、最初に処方したレセプト
  2. 非指定薬局から変更し、最初に処方したレセプト
  3. 再発した場合で、最初に処方したレセプト
  4. 自賠責保険(共済)の限度額を超えるため、労災保険へ請求する最初に処方したレセプト

初回請求分には添付書類が必要です。

  • 業務災害・複数業務要因災害→ 様式第5号
  • 通勤災害→ 様式第16号の3

4つ目を見落としがちです。交通事故で自賠責を先行させていて、限度額(傷害は120万円)を超えて労災に移るとき——それは「初回」扱いになります。

提出先は都道府県労働局です。健康保険のように支払基金・国保連ではありません。薬剤費請求権の時効は2年とされていますので、放置しないでください。

「アフターケア」という制度がある

あまり知られていませんが、治ゆ(症状固定)後の制度です。

労災は原則として「治ゆするまで」の給付です。症状固定すると療養給付は終わります。ただし一定の傷病では、その後も後遺症状の悪化防止のための措置が受けられます。これがアフターケアです。

薬局の実務では、「健康管理手帳」を持参された場合に該当します。通常の労災レセプトとは請求の様式も請求先も異なるため、初めて出会ったら手引の該当章を確認するか、労働局に問い合わせてください。

「労災の書類がないのに労災と言われた」というときは、これの可能性があります。

迷ったときの分岐フロー

状況やること
仕事中のケガ/初めて様式第5号をもらう。無料で交付
通勤中のケガ/初めて様式第16号の3をもらう。無料で交付。200円は取らない
病院に書類を出したと言われた写しでOK。ただし⑳欄は薬局の名称・所在地に
他の薬局から移ってきた様式第6号/第16号の4(変更届)
書類がその場でない調剤はする。期限を決めて提出を求める。出なければ労基署へ連絡
うちは指定薬局ではない全額をいただき領収書を渡す。労基署へ請求すれば戻ると説明
交通事故(通勤中)労災か自賠責かは患者さんの選択。自賠先行のメリットを伝える
自賠責から労災に切り替わった初回扱い。摘要欄に「○年○月○日までは自賠責保険より受領済」
健康保険で出そうとしている使えないことを説明。応じなければ労基署・労働局へ連絡
番号が年金証書番号に変わった傷病年金へ移行。変更届を添付して請求

準備しておくこと

  • ◻️ 自局が労災保険指定薬局かどうかを全スタッフが知っている
  • ◻️ 様式第5号・第16号の3の見本を印刷して受付に置いた
  • ◻️ 「業務=5号/通勤=16号の3」を貼り紙にした
  • ◻️ 写しを受け取る場合、⑳欄を薬局名に直す運用にした
  • ◻️ 処方箋に労働保険番号と事業場名を記載する運用にした
  • ◻️ 労災の処方箋を3年保存している
  • ◻️ 通勤災害で200円を取らないことを共有した
  • ◻️ 「労災に健康保険は使えない」の説明文を用意した
  • ◻️ 管轄の労働基準監督署・労働局の連絡先を控えてある
  • ◻️ 労働局の「指定薬局の手引」をダウンロードして共有フォルダに入れた

最後の項目がいちばん効きます。各都道府県の労働局が、それぞれ手引をPDFで公開しています。「○○労働局 労災保険指定薬局 手引」で検索すれば出てきます。様式の見本も、記入例も、請求先も、全部載っています。

まとめ

  • 指定薬局なら無料(現物給付)。非指定なら全額立替(現金給付)。給付の範囲はどちらも同じ
  • 初回は業務災害=様式第5号/通勤災害=様式第16号の3。薬局の変更は第6号/第16号の4
  • 医療機関に出した請求書の写しでOK。ただし⑳欄は薬局の名称・所在地に
  • その場で出せなくても調剤はする。督促しても出なければ労基署へ連絡
  • 処方箋に労働保険番号と事業場名を記載し、完結の日から3年保存
  • 労災に健康保険は使えない。薬局には「使わないよう指導する」役割が明記されている
  • 労災かくしは50万円以下の罰金(通勤災害は対象外)
  • 交通事故では自賠先行が勧められている。慰謝料が出て、休業損害は100%てん補
  • 通勤災害の200円は窓口で取らない。休業給付から控除される
  • レセプトは初回と継続を分ける。自賠責の限度額超えで労災へ移る分も「初回」

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出典

※ 本記事は長崎労働局の手引(令和7年7月改訂版)を主な典拠としています。提出先・様式番号・運用の細部は都道府県労働局により異なる場合がありますので、管轄の労働局が公開している手引をあわせてご確認ください。記載は2026年8月時点の情報です。

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