執筆:Nori(薬Talk編集長・薬剤師)/調剤薬局勤務26年。管理薬剤師を経て、現在はチェーン薬局の本社部門で店舗運営支援を担当しています。
「調剤薬局とドラッグストア、これからどっちが強いんですか」
就職を考えている学生にも、転職を考えている薬剤師にも聞かれます。感覚で答えても意味がないので、数字を並べました。
結論から書きます。
「調剤薬局 vs ドラッグストア」という対立は、もう終わっています。いま起きているのは「大規模 vs 小規模」で、そちらの勝負はほぼついています。
——と言い切ったうえで、それでも残るものの話をします。
個人薬局は1.9%しかない
まず全体像です。令和6年度末の薬局数は63,203施設(衛生行政報告例)。前年度から375施設増えています。
問題はその中身です。厚生労働省保険局医療課が施設基準の届出状況からまとめた、同一法人の店舗数別の内訳(令和6年、n=60,015)。
| 同一法人の店舗数 | 割合 |
|---|---|
| 個人 | 1.9% |
| 1店舗(法人) | 15.4% |
| 2〜5店舗(法人) | 16.5% |
| 6〜19店舗(法人) | 16.3% |
| 20〜299店舗(法人) | 32.2% |
| 300店舗以上(法人) | 17.7% |
整理すると、こうなります。
- 20店舗以上の法人が49.9%——ちょうど半分
- 300店舗以上だけで17.7%——6軒に1軒が超大手
- 個人+1店舗法人は17.3%——いわゆる「独立系1店舗」
「個人薬局を守る」という議論をよく聞きますが、守る対象はすでに全体の1.9%です。
そして中医協の資料には、こう書かれています。
薬局数は年々増加しており、令和5年度は約6.3万。20店舗以上の薬局の割合は増加傾向。
増加傾向。止まっていません。
調剤は8.4兆円。でも薬局に残るのは2.3兆円
市場の大きさも押さえておきます。令和6年度の数字です。
| 概算医療費 総額 | 約48兆円 |
| うち調剤医療費 | 約8.4兆円 |
| ├ 薬剤料 | 約6.1兆円 |
| └ 技術料 | 約2.3兆円 |
中医協の資料は、はっきり注記しています。「調剤医療費は約8.4兆円、そのうち技術料は約1/4の2.3兆円」。
「薬局が8兆円も取っている」は誤解です。6.1兆円は薬そのものの値段で、薬局の取り分ではありません。薬局の売上は技術料の2.3兆円と、薬価差のわずかな部分です。
そしてその薬価差は制度として縮み続けています。調整幅2%は据え置かれ、令和9年度も薬価改定が「着実に実施」されます。
つまり薬局の勝負どころは、2.3兆円の技術料をどう取るかに絞られているということです。
ドラッグストアは、調剤で稼いでいない
ここが最大の非対称です。
経済産業省の商業動態統計によると、2025年のドラッグストア販売額は前年比5.5%増、店舗数は3.6%増。増加に最も寄与したのは「食品」で、次いで「調剤医薬品」でした。
そして食品は前年比9.1%増。ドラッグストア販売額の約3分の1を占めています。
この構造を、調剤薬局と並べてみます。
| 調剤薬局 | ドラッグストア | |
|---|---|---|
| 収益の柱 | 調剤技術料(ほぼ100%) | 食品・日用品・化粧品+調剤 |
| 価格の決定権 | ない(公定価格) | ある(食品・日用品) |
| 薬価改定の影響 | 直撃 | 一部 |
| 調剤報酬改定の影響 | 直撃 | 一部 |
| 集客 | 処方箋依存 | 自力で集客できる |
| 営業時間 | 診療時間に従属 | 自由に設計できる |
ドラッグストアにとって調剤は「事業のひとつ」ですが、調剤薬局にとって調剤は「事業のすべて」です。
この差が効いてくるのが、改定の年です。調剤報酬がマイナスになったとき、片方は他の柱で吸収でき、もう片方はできません。
もっと言えば——ドラッグストアは調剤で儲からなくても撤退しません。調剤は「処方箋を持った人が定期的に来る仕組み」であり、その人はついでに食品を買います。調剤は集客装置として機能していれば十分なのです。
赤字でも続けられる相手と、黒字でなければ潰れる相手が、同じ土俵で戦っています。
それぞれのメリット・デメリット(働く側から)
経営の話が続いたので、働く薬剤師の目線で整理します。
調剤薬局専門
| メリット | デメリット |
|---|---|
| 調剤・薬学管理に集中できる | 会社の業績が調剤報酬に全面依存 |
| 門前の診療科に詳しくなる | 門前の診療科しか経験できない |
| 在宅・かかりつけの経験を積みやすい | 処方箋が減ると即座に人員過剰になる |
| 診療時間に連動し、深夜勤務が少ない | 医療機関の移転・閉院で店舗ごと消える |
| 薬剤師としてのキャリアが明確 | OTC・セルフメディケーションの経験が乏しい |
ドラッグストア(調剤併設)
| メリット | デメリット |
|---|---|
| 会社の収益基盤が調剤だけではない | 調剤以外の業務が入る(レジ・品出し・売場) |
| OTC・受診勧奨の経験が積める | 夜間・土日の勤務が多い |
| 処方箋の診療科が幅広い(面対応) | 1人薬剤師の時間帯が生じやすい |
| 店舗数が多く転勤先の選択肢がある | 転勤の範囲が広い |
| 薬剤師以外のキャリアパスがある | 薬学管理に集中しにくい環境になりがち |
どちらが良いかは、何をやりたいかで決まります。ただし「会社が続くかどうか」という観点では、収益の柱が複数あるほうが強い——これは動かしがたい事実です。
制度は、どちらの味方でもない
ここが誤解されているところです。
「厚労省は大手を優遇している」と言われますが、調剤報酬の設計は一貫して「大規模・特定医療機関依存」に厳しくできています。
- 調剤基本料の区分——処方箋の受付回数と集中率が高いほど、基本料は下がる
- 特別調剤基本料A・B——同一敷地内薬局は最も低い区分になる
- 立地依存の減算——特定医療機関への依存そのものが減算対象になった
- 後発医薬品調剤体制加算の撤廃——数量シェアで稼ぐ道が閉じた
これはドラッグストアにも効きます。店舗数が多ければ調剤基本料の区分は下がりますし、大型医療機関の門前に出せば集中率で下がります。
では小規模が有利かというと、そうでもありません。
加算の側を見ると、要件は体制で書かれています。地域支援・医薬品供給対応体制加算、連携強化加算、在宅薬学総合体制加算、医療DX推進体制整備加算——どれも「24時間対応」「在宅実績」「システム導入」「研修」を求めます。
体制は、人と資本で買えます。1店舗で24時間対応するのと、20店舗で輪番を組むのとでは、負担がまったく違います。
つまり制度の構造はこうです。
- 基本料では、大規模が不利
- 加算では、大規模が有利
そして改定のたびに、基本料の比重が下がり、加算の比重が上がっています。中医協の資料も「対人業務の評価のシフトが進んでいる」と明記しています。
差し引きで、規模が効く方向に動いている——これが数字から読める結論です。
1店舗あたりの現実
もう少し現場に近い数字も出ています。
| 1店舗の1日あたり勤務薬剤師数 | 平均2.7人 |
| 1か月の処方箋受付回数(令和6年度) | 平均 約1,172回 |
| (令和5年度) | 約1,118回 |
| (令和4年度) | 約1,052回 |
| (令和3年度) | 約1,047回 |
受付回数は増え続けています。薬局数も増えているのに、1店舗あたりの処方箋も増えている。市場全体が拡大しているということです。
もうひとつ、見逃せない数字があります。服薬管理指導料の算定のうち、「3月以内に同じ薬局を利用した場合」が約75%。
4人に3人はリピーターです。つまり患者は、思っているより薬局を変えていません。
これは小規模薬局にとって希望でもあり、警告でもあります。いったん選ばれれば続きますが、一度離れた患者は戻ってこないということでもあるからです。
で、どっちが勝つのか(筆者の予測)
ここからは意見です。データからの推論であって、事実ではありません。
予測1:業態の勝負はつかない。境目が消える
大手調剤チェーンはすでにOTCを扱い、ドラッグストアは在宅に出ています。10年後、「調剤薬局」と「ドラッグストア」という区別自体が意味を失っている可能性が高いと思います。
残るのは「調剤もできる店」と「調剤しかできない店」の差です。
予測2:中規模がいちばん苦しい
6〜19店舗(16.3%)が最も厳しいと見ています。
- 基本料の区分では大手扱いになりやすい
- 加算の体制整備には規模が足りない
- システム投資は1店舗あたりの負担が重い
- 地域密着という物語は1店舗のほうが強い
大手のスケールも、個人の物語も持てない位置です。M&Aで買われる側に回るのは、この層だと思います。
予測3:1店舗は「消える」のではなく「選ばれるか」で分かれる
個人1.9%+1店舗法人15.4%の17.3%が、そのまま消えるとは思いません。
理由は、リピート率75%です。この数字は、患者が薬局を「機能」ではなく「関係」で選んでいることを示しています。
24時間対応も在宅も電子処方箋も、大手のほうが速く整えます。それでも「あの薬剤師さんに聞きたい」は、資本では買えません。
ただし、これは「何もしなくても残れる」という意味ではありません。むしろ逆です。関係を作れなかった1店舗は、加算も取れず、スケールもなく、いちばん先に消えます。
予測4:本当の勝者は「処方箋がなくても人が来る店」
結局これに尽きます。
ドラッグストアが強いのは、食品や日用品を売っているからではありません。処方箋がなくても人が来るからです。
電子処方箋が普及し、オンライン服薬指導が広がり、調剤の外部委託が始まると、「門前だから来る」という理由は弱くなります。立地依存への減算は、その方向を制度が後押ししているということです。
そのとき残るのは、「処方箋がなくても相談に来る店」です。
それはOTCを置くことでも、健康イベントをやることでもなくていい。「困ったらあそこに聞けばいい」と思われていること——それが唯一、規模で買えない資産です。
働く側が今できること
- ◻️ 自分の薬局の調剤基本料の区分を知っている
- ◻️ 自分の薬局の集中率を知っている
- ◻️ 自分の薬局が取れていない加算を把握している
- ◻️ 門前の医療機関が閉院したらどうなるかを考えたことがある
- ◻️ 処方箋以外で来店する患者がいるかどうかを把握している
- ◻️ OTC・受診勧奨の経験がある(またはこれから積む計画がある)
- ◻️ 在宅の経験がある(またはこれから積む計画がある)
- ◻️ 「自分を指名してくる患者」が何人いるか言える
最後の項目が、いちばん効きます。会社の規模は選べませんが、これは選べます。
まとめ
- 薬局は63,203施設。うち20店舗以上の法人が49.9%、300店舗以上が17.7%、個人はわずか1.9%
- 調剤医療費は約8.4兆円だが、技術料は約2.3兆円(約1/4)。薬局の取り分はそこだけ
- ドラッグストアは食品が販売額の約1/3。調剤は「事業のひとつ」であり、赤字でも撤退しない
- 制度は基本料では大規模に不利、加算では大規模に有利。比重が加算に移っている以上、差し引きで規模が効く
- 1店舗あたりの処方箋受付は月1,172回まで増加。市場自体は拡大している
- 服薬管理指導料の約75%はリピーター。患者は薬局を変えない
- 筆者の予測:業態の境目は消え、中規模が最も苦しく、1店舗は「関係を作れたか」で分かれる
- 最後に残るのは「処方箋がなくても人が来る店」
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出典
- 厚生労働省「令和6(2024)年度 衛生行政報告例の概況」(薬局数)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei_houkoku/24/ - 中央社会保険医療協議会 総会「調剤について(その1)」(令和7年9月10日 中医協 総-2)
https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001560022.pdf - 経済産業省 経済解析室「2025年小売業販売を振り返る」(商業動態統計)
https://www.meti.go.jp/statistics/toppage/report/minikeizai/kako/20260414minikeizai.html
※ 第7章「予測」は筆者の意見であり、事実ではありません。統計値は各出典の公表時点のものです。割合の一部は本記事で算出しました。

