執筆:Nori(薬Talk編集長・薬剤師)/調剤薬局勤務26年。管理薬剤師を経て、現在はチェーン薬局の本社部門で店舗運営支援を担当しています。
効能に「予防」が入りました。同時に警告も付きました
SARS-CoV-2による感染症の治療及びその予防
ここだけ見ると「予防に使える薬」ですが、添付文書の一番上に警告があります。
<予防>
SARS-CoV-2による感染症の予防の基本はワクチンによる予防であり、本剤はワクチンに置き換わるものではない。
警告の項に、これしか書かれていません。ゾコーバの警告は、この一文だけです。予防の効能を追加すると同時に、「ワクチンの代わりではない」とわざわざ最上位に置いた——そういう構成になっています。
患者さんが「これを飲めばワクチンを打たなくていい」と受け取る可能性を、行政と企業がはっきり否定していると読めます。
誰に出せるのか——対象はかなり絞られています
本剤はSARS-CoV-2による感染症患者との接触後に投与するものであり、原則として、SARS-CoV-2による感染症患者の同居家族又は共同生活者のうち、重症化リスク因子を有する者に投与すること。
※ 最新のガイドラインを参考にすること。
3つの条件が重なります。①接触後であること ②同居家族または共同生活者であること ③重症化リスク因子を有すること。
「職場の人が陽性だった」は、原則の外です。同居か共同生活が前提になっています。「念のため家族全員に」も違います。重症化リスクのある人が対象です。
そして時間の制限があります。
7.2 SARS-CoV-2による感染症患者に接触後72時間以内に投与を開始すること。臨床試験において、接触後72時間経過後に投与を開始した場合における有効性を裏付けるデータは得られていない。
7.3 本剤を服用開始した日から10日を超えた期間のSARS-CoV-2による感染症に対する予防効果は確立していない。
接触から72時間以内に飲み始めて、守れるのは10日まで。用法は1日目375mg、2〜5日目125mg を1日1回、5日間——治療とまったく同じ量を5日間飲みます。
効果はどれくらいか——17人に1人です
根拠は国際共同第Ⅲ相試験(T1331試験)です。家庭内で最初に感染した人(初発患者)の、12歳以上の同居者を対象にしたプラセボ対照無作為化二重盲検試験。2,041例(うち日本人536例)で解析されています。
主要評価項目は10日目までにSARS-CoV-2に感染(RT-PCR陽性確認)し、かつCOVID-19症状を発症した被験者の割合
本剤群 1030例中 30例(2.9%)
プラセボ群 1011例中 91例(9.0%)
リスク比 0.33[95%信頼区間 0.22, 0.49] p<0.0001
発症が9.0%から2.9%へ。相対的には約3分の1です。
この数字を持っておくと、「効くんですか」と聞かれたときに答えられます。効きます。ただし魔法ではありません。
効果が確認されていない人がいます
ここが一番見落とされそうなところです。
過去6か月間にSARS-CoV-2陽性になった者、過去3か月間に抗SARS-CoV-2モノクローナル抗体を投与されたことがある者、過去6か月以内にSARS-CoV-2ワクチンを接種した者における本剤の有効性は確認されていない。
過去6か月以内にワクチンを接種した人。——これはT1331試験の除外基準だったからです。試験に入っていないので、データがありません。
秋冬にワクチンを打った高齢者は、まさにここに当たります。「重症化リスクがあるから予防を」という人ほど、ワクチンも打っている。皮肉な構造です。
禁忌ではないので投与自体はできますが、「効果は確認されていません」と伝えられるかどうかは別です。接種歴を聞く理由がここにあります。
そして、完全には防げません
本剤を投与した場合であっても、SARS-CoV-2の感染及びSARS-CoV-2による感染症の発症を完全には防ぐことができず、SARS-CoV-2に感染している可能性及び他者に感染させる可能性があることを服用者に十分に説明すること。
「十分に説明すること」と書かれています。飲んだから大丈夫、で行動を緩めると他人にうつす——そこまで含めた説明が求められています。
睡眠薬は3剤とも併用禁忌です
ゾコーバは併用禁忌が非常に多い薬です。そのなかで、薬局で最も遭遇しやすいのがここだと思います。
スボレキサント(ベルソムラ)/ダリドレキサント塩酸塩(クービビック)/ボルノレキサント水和物(ボルズィ)/トリアゾラム(ハルシオン)
ブロナンセリン/ルラシドン塩酸塩/アゼルニジピン/シンバスタチン/リバーロキサバン/イブルチニブ/フィネレノン/カルバマゼピン/フェニトイン/リファンピシン/セイヨウオトギリソウ(セント・ジョーンズ・ワート)含有食品 ほか
そしてデエビゴ(レンボレキサント)は禁忌リストに入っていません。同じオレキシン受容体拮抗薬でも扱いが違います。「オレキシン系だから全部だめ」と覚えると、逆に間違えます。各剤の違いはクービビックとボルズィの記事にまとめています。
他にもトリアゾラム(ハルシオン)、アゼルニジピン(カルブロック)、シンバスタチン、リバーロキサバン(イグザレルト)など、日常的に見る薬が並びます。セント・ジョーンズ・ワート含有食品まで禁忌です。
予防で処方されるのは「いま病気ではない人」です。その人が普段どんな薬を飲んでいるかは、処方元では分かりません。お薬手帳が効く場面そのものです。
妊婦は禁忌です
2.4 妊婦又は妊娠している可能性のある女性
8.2 妊娠する可能性のある女性への投与に際しては、本剤投与の必要性を十分に検討すること。本剤を予防に用いる場合は、SARS-CoV-2による感染症患者への接触後に必ずしも感染症を発症するとは限らないことを踏まえ、本剤投与の必要性を特に慎重に検討すること。
予防では「特に慎重に」と上乗せされています。理屈は明快で、接触しても発症しないかもしれない人に飲ませるからです。投与前に問診で妊娠していないことを確認することも求められています(8.2.1)。
「家族が陽性で、予防を」と来たときに確認すること
- いつ接触したか72時間以内でなければ、有効性のデータがありません
- 同居か、共同生活か職場や学校の接触は、原則の外です
- 重症化リスク因子があるか「念のため全員に」ではありません
- 過去6か月以内にワクチンを打っていないか打っていれば有効性は確認されていません。伝える必要があります
- 過去6か月以内に陽性になっていないか/3か月以内に抗体薬を使っていないか同じく有効性が確認されていない群です
- 睡眠薬を飲んでいないかベルソムラ・クービビック・ボルズィ・ハルシオンは禁忌。デエビゴは禁忌リストにありません
- 妊娠の可能性はないか妊婦・妊娠している可能性のある女性は禁忌です
4番と6番が、薬局でしか拾えません。ワクチンの接種歴も、他院で出ている睡眠薬も、処方元は知らないことがあります。
そして最後に、飲んでも完全には防げないこと、他者に感染させる可能性があることを伝えます。添付文書が「十分に説明すること」と求めている内容です。
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まとめ
- ゾコーバの効能は2026年3月改訂で「治療及びその予防」になりました。同時に警告に「予防の基本はワクチンによる予防であり、本剤はワクチンに置き換わるものではない」が置かれました
- 対象は接触後、同居家族または共同生活者のうち重症化リスク因子を有する者。接触後72時間以内に開始し、効果は10日まで
- 用法は1日目375mg、2〜5日目125mgを5日間。治療と同じ量を5日間飲みます
- T1331試験では発症が9.0%→2.9%(リスク比0.33)。約17人に投与して1人の発症を防ぐ規模です
- 過去6か月以内のワクチン接種者、過去6か月以内の陽性者、過去3か月以内の抗体薬使用者では、有効性が確認されていません(試験の除外基準だったため)
- ベルソムラ・クービビック・ボルズィは3剤とも併用禁忌。ただしデエビゴは禁忌リストにありません。トリアゾラム、アゼルニジピン、シンバスタチン、リバーロキサバン、セント・ジョーンズ・ワートも禁忌です
- 妊婦・妊娠している可能性のある女性は禁忌。予防では投与の必要性を「特に慎重に」検討することが求められています
- 飲んでも完全には防げず、他者に感染させる可能性があることを「十分に説明すること」とされています
出典
- ゾコーバ錠25mg/ゾコーバ錠125mg 添付文書(2026年6月改訂。予防の効能は2026年3月改訂で追加)※1. 警告/2. 禁忌/4. 効能・効果/5.5・5.6・5.7/6. 用法・用量/7.2・7.3/8.2/17.1.3
https://www.info.pmda.go.jp/go/pack/6250052F1023_2_16/ - 国際共同第Ⅲ相試験(T1331試験、jRCT2031230124)※上記添付文書 17.1.3 に記載
※ 本記事は2026年9月9日時点の添付文書の原文に基づいています。効能・用法・禁忌は改訂されます。調剤の際は当該製剤の添付文書をご確認ください。
※ 「約17人に1人」は、主要評価項目の発症率(9.0%と2.9%)から編集部が算出した目安です。添付文書に記載された数値ではありません。
※ 併用禁忌は本記事に挙げたもので全てではありません。必ず添付文書の「2. 禁忌」と「10. 相互作用」をご確認ください。
※ 予防投与の費用負担は保険適用の取扱いによります。
