AIは薬剤師を減らせない|「40枚に1人」という法令の天井と、それでも仕事が変わる理由

AIは薬剤師を減らせない 「40枚に1人」という法令の天井と、それでも仕事が変わる理由 薬局実務
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執筆:Nori(薬Talk編集長・薬剤師)/調剤薬局勤務26年。管理薬剤師を経て、現在はチェーン薬局の本社部門で店舗運営支援を担当しています。

「薬剤師の仕事はAIに奪われる」

この話、もう10年くらい聞いていませんか。そのあいだに監査機は賢くなり、分包機は自動化され、薬歴はAIが下書きを書くようになりました。それでも薬剤師の数は減っていません。

なぜか。

答えはAIの性能ではなく、法律に書いてあるからです。

この記事では、薬剤師法・省令・厚労省通知の原文から「どこまでが機械に渡り、どこからが渡らないのか」を確定させます。そのうえで、少しだけ未来の話をします。

「人にはやらせられないが、機械にはやらせていい」

いきなり核心から入ります。厚生労働省の通知に、こう書いてあります。

平成31年4月2日 薬生総発0402第1号「調剤業務のあり方について」——通称0402通知の第3項です。

   薬剤師以外の者が軟膏剤、水剤、散剤等の医薬品を直接計量、混合する行為は、たとえ薬剤師による途中の確認行為があったとしても、引き続き、薬剤師法第19条に違反する。ただし、このことは、調剤機器を積極的に活用した業務の実施を妨げる趣旨ではない。

読み直してください。

  • 人(非薬剤師)が軟膏を混ぜる違法。薬剤師が途中で確認していてもダメ
  • 機械が軟膏を混ぜる問題なし。むしろ「積極的に活用」を妨げない

この非対称が、薬局の自動化の法的な出発点です。

理屈はこうです。機械は「調剤の主体」ではなく「薬剤師の道具」だから。軟膏練り機を回しているのは薬剤師であって、機械が調剤しているわけではない。だから薬剤師法第19条に触れない。

そしてこの理屈は、AIにもそのまま当てはまります。

AIが処方監査をしても、AIが薬歴を書いても、それは薬剤師が道具を使っているだけです。責任の所在は動かない。だから自動化に法的な上限はほとんどありません。

——ここまでが前提です。ここから、では何が残るのかを見ます。

すでに手放したもの

0402通知は、非薬剤師に渡してよい業務の線引きを3条件で示しました。

・当該薬剤師の目が現実に届く限度の場所で実施されること
・薬剤師の薬学的知見も踏まえ、処方箋に基づいて調剤した薬剤の品質等に影響がなく、結果として調剤した薬剤を服用する患者に危害の及ぶことがないこと
・当該業務を行う者が、判断を加える余地に乏しい機械的な作業であること

「判断を加える余地に乏しい機械的な作業」——ここに線が引かれています。

具体的に挙げられているのは2つだけです。

  • PTPシート等で包装されたままの医薬品の必要量を取り揃える行為(ピッキング)
  • 薬剤師による監査の前に行う一包化した薬剤の数量の確認行為

そして「調剤した薬剤の最終的な確認は、当該薬剤師が自ら行う必要がある」と念を押しています。

さらに第4項では、そもそも調剤に該当しない行為が並びます。

  • 納品された医薬品を調剤室内の棚に納める行為
  • 調剤済みの薬剤をお薬カレンダーや配薬カートへ入れる行為、電子画像を用いてお薬カレンダーを確認する行為
  • 在庫がなく取り寄せた場合等に、先に服薬指導等を薬剤師が行った上で、患者の居宅等に調剤した薬剤を郵送等する行為

この整理が2019年です。それから7年、薬局はここに書かれた分だけ、確実に人手を外に出してきました。

法律が薬剤師に残しているもの

では、渡せないものは何か。薬剤師法の条文で確認します。

条文内容本質
第19条薬剤師でない者は、販売又は授与の目的で調剤してはならない調剤権の独占
第23条処方箋によらなければ調剤してはならない/処方医の同意なく変更して調剤してはならない変更には同意が要る
第24条処方箋中に疑わしい点があるときは、問い合わせて確かめた後でなければ調剤してはならない疑義照会義務
第25条の2必要な情報を提供し、必要な薬学的知見に基づく指導を行わなければならない指導義務
第28条調剤録の記入・3年間の保存記録義務

そして第29条——第19条に違反した者は3年以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金、またはその併科

並べてみて気づくことがあります。

法律が薬剤師に義務づけているのは、「作業」ではなく「判断」と「指導」です。

錠剤を数えろとは書いていません。疑わしい点を確かめろと書いてある。分包しろとも書いていません。薬学的知見に基づいて指導しろと書いてある。

とくに第25条の2は、第2項でさらに踏み込みます。

   薬剤師は(中略)調剤した薬剤の適正な使用のため必要があると認める場合には、患者の当該薬剤の使用の状況を継続的かつ的確に把握するとともに、患者又は現にその看護に当たつている者に対し、必要な情報を提供し、及び必要な薬学的知見に基づく指導を行わなければならない。

「継続的かつ的確に把握」。1回渡して終わりではない、と法律が言っています。

40枚ルールという天井

ここが、この記事でいちばんお伝えしたいことです。

「AIが業務を効率化したら、薬剤師は少なくて済むようになる」——これは、現行法では成り立ちません。

根拠は「薬局並びに店舗販売業及び配置販売業の業務を行う体制を定める省令」第1条第2号です。

   当該薬局において、調剤に従事する薬剤師の員数が当該薬局における一日平均取扱処方箋数(中略)を四十で除して得た数(その数が一に満たないときは一とし、その数に一に満たない端数が生じたときは、その端数は一とする。)以上であること。

必要な薬剤師の数を決めているのは処方箋の枚数です。業務量ではありません。

だからこうなります。

  • 1日80枚の薬局 → 薬剤師2人が必要
  • その薬局が全自動の分包機とAI監査を入れて、業務が半分になった → それでも薬剤師2人が必要
  • ロボットが調剤室を全部やるようになった → それでも薬剤師2人が必要

処方箋が80枚である限り、2人です。

しかも同条第1号は、「開店時間内は、常時、当該薬局において調剤に従事する薬剤師が勤務していること」と定めています(薬剤師不在時間の例外はあります)。

つまり「薬剤師が1人いればいい」世界が来るとしたら、それはAIが賢くなったからではありません。この省令が変わったときです。

それは技術の問題ではなく、政策判断です。

逆に言えば——AIをどれだけ入れても、法令上の人件費は1円も下がらない。これは薬局経営者にとって、かなり重い事実です。自動化の投資回収は「人を減らす」ではなく、「同じ人数で対人業務に回す時間を作る」でしか成立しません。

そして、それこそが厚労省の狙いです。0402通知の冒頭に、はっきり書かれています。

   薬剤師の行う対人業務を充実させる観点から、医薬品の品質の確保を前提として対物業務の効率化を図る必要があり、「調剤機器や情報技術の活用等も含めた業務効率化のために有効な取組の検討を進めるべき」とされたところです。

自動化は、人を減らすためではなく、人を対人業務に移すために推奨されている。制度の設計思想は一貫しています。

2035年のある日の薬局

ここからは想像です。事実ではありません。ただし、上に挙げた法令が変わらないという前提だけは守って書きます。


朝8時50分。薬局に着くと、今日の処方箋はもう半分届いています。電子処方箋は前日の診察が終わった時点で流れてくるので、開店前に調剤が終わっている分がある。

調剤室のロボットは夜のうちに動いていました。一包化も、軟膏の混合も、粉の分包も終わっています。あなたが最初にする仕事は、機械が上げてきた「引っかかり」を見ることです。

画面には12件。AIが疑義照会の候補として挙げてきたものです。

  • 8件は形式的な重複。見た瞬間に消せる
  • 3件は判断が要る。腎機能と用量、併用の可否
  • 1件はAIが気づいていない。先週この患者が「最近ふらつく」と言っていた。処方は変わっていない。だから機械には見えない

この最後の1件が、あなたの仕事です。

午前中、来局する患者は3人だけ。ほとんどはオンラインで服薬指導を受けて、薬は届く。わざわざ来る人には理由があります。不安があるか、聞きたいことがあるか、あるいは誰かと話したいか。

午後は施設を2軒。持っていくのは薬ではありません。薬はもう届いています。持っていくのは判断です。この人の薬は減らせないか、この人の飲み方は変えられないか。

夕方、薬歴を確認します。AIが書いた下書きが並んでいます。Sは音声からほぼ完璧に起こされ、Oも検査値から自動で埋まっている。あなたが手を入れるのはAとPだけ。評価と計画は、まだ機械には書けません。

——そして、隣にはやはりもう1人薬剤師がいます。処方箋が80枚あるからです。


この未来が示しているのは、「薬剤師が消える」ではなく「薬剤師の1日の中身が入れ替わる」ということです。

渡るもの/渡らないものの仕分け

もう少し具体的に整理します。「技術的にできるか」と「法的に渡せるか」は別なので、両方で見ます。

業務技術法令結論
ピッキング非薬剤師も可(0402通知)渡る
一包化・分包機械の活用は妨げない渡る
軟膏の混合人は不可/機械は可機械に渡る
在庫管理・発注調剤に該当しない渡る
薬歴のS・O記載主体は薬剤師下書きは渡る
形式的な処方監査最終確認は薬剤師(0402通知)下処理は渡る
最終監査薬剤師が自ら行う渡らない
疑義照会の判断薬剤師法24条渡らない
服薬指導薬剤師法25条の2渡らない
薬歴のA・P薬学的知見に基づく評価渡らない
処方提案医師との協議渡らない

この表を眺めると、「渡らない」側に共通するものが見えます。

責任を取る必要がある業務は、渡りません。

AIは間違えます。人も間違えます。違いは「間違えたときに誰が責任を負うか」です。免許は、その責任を引き受けられる主体であることの証明です。AIには免許がありません。だから責任も負えません。

そしてこれは、技術が進歩しても変わらない構造です。どれだけ賢いAIでも、行政処分を受けることはできないからです。

本当の脅威は、AIではない

ここまで読んで「じゃあ安泰だ」と思われたら、それは違います。

薬剤師の仕事を減らすものがあるとすれば、AIではなく制度です。すでに動いているものを挙げます。

  • 調剤の外部委託——一包化を他の薬局に出せるようになる。調剤室の仕事が、店舗から出ていく
  • 電子処方箋——処方情報が事前に流れる。門前という立地の意味が薄れる
  • オンライン服薬指導——患者が薬局に来なくなる
  • 0402通知——非薬剤師に渡せる業務が明文化された
  • 対物から対人への配分——調剤そのものへの評価が下がり続けている

どれもAIの話ではありません。全部、制度の話です。

そして制度は、AIより速く動きます。0402通知は1枚の紙で、薬局の人員配置を変えました。

もし「薬剤師は1薬局に1人でいい」という日が来るとしたら、その引き金はロボットの登場ではなく、体制省令の40枚が80枚に変わる日です。そしてその判断材料は、「薬剤師が対人業務で何を生んだか」になります。

じゃあ、何をする薬剤師になるのか

法令から逆算すると、答えは意外とはっきりしています。

① 機械が「気づけないこと」に気づく

AIが見ているのはデータです。処方、検査値、既往歴。

見ていないのは、入力されていないものです。歩き方が変わった。今日は奥さんが来た。前回より口数が少ない。薬の袋が汚れている。これらはどこにも入力されていません。

逆に言えば、それを薬歴に書いて初めて、AIの材料になります。入力する人がいなければAIは何も見えない——ここは当分変わりません。

② 「確かめる」人になる

薬剤師法第24条は「問い合わせて、その疑わしい点を確かめた後でなければ」調剤してはならない、と書いています。

AIは「疑わしい」を出せます。しかし「確かめる」はできません。医師に電話して、経緯を聞いて、意図を汲んで、落としどころを見つける——この工程は、当面は人の仕事です。

そしてAIが候補を大量に出すほど、「確かめる」側の負荷は上がります。ノイズを捨てて、本物を拾う。これは高度な判断です。

③ 決めて、責任を引き受ける

結局ここです。

「この薬は飲まないほうがいい」「この用量は変えたほうがいい」「今日は渡さないほうがいい」——決めて、その結果を引き受ける。

AIに聞けば答えは返ってきます。でも、その答えを採用すると決めるのは薬剤師です。そして採用した以上、責任は薬剤師にあります。

「AIがそう言ったので」は、通用しません。

④ AIを使いこなす側に立つ

身も蓋もない言い方をすると——AIに仕事を奪われる薬剤師と、AIに仕事を任せる薬剤師に分かれるだけです。

0402通知が「調剤機器を積極的に活用した業務の実施を妨げる趣旨ではない」と書いているのは、使えという意味です。使わない選択肢も残っていますが、その薬局は同じ人数で少ない仕事しかできなくなります。

少しだけ、うれしい予測

最後に、明るい話をひとつ。

薬剤師になった理由を思い出せる時代が来るかもしれません。

錠剤を数えたくて薬学部に入った人はいません。分包紙を補充したくて国家試験を受けた人もいません。それでも、時間の大半はそこに消えてきました。

機械がそれを持っていくなら、残るのは患者と話す時間考える時間です。法律が薬剤師に義務づけているのも、まさにそこでした。

問題は、その時間で何を生むのかを、薬剤師の側が示せるかどうかです。示せなければ、40枚は80枚になります。

未来を決めるのはAIではありません。私たちが、空いた時間で何をしたかです。

まとめ

  • 0402通知は「非薬剤師が軟膏を混ぜるのは違法。ただし調剤機器の活用は妨げない」と明記している。人はダメだが機械はいい
  • 機械は調剤の主体ではなく薬剤師の道具。だから自動化に法的上限はほぼない
  • 法律が薬剤師に義務づけているのは「作業」ではなく「判断」と「指導」(薬剤師法19・23・24・25条の2)
  • 必要な薬剤師数は処方箋40枚あたり1人。業務量では決まらない。AIで効率化しても法令上の必要員数は減らない
  • 自動化の投資回収は「人を減らす」ではなく「対人業務に回す時間を作る」でしか成立しない
  • 本当の脅威はAIではなく制度(外部委託・電子処方箋・オンライン服薬指導・対人シフト)
  • 「薬剤師1人でいい」が来るとしたら、それは40枚が変わる日。技術ではなく政策判断
  • 残る仕事は①気づく ②確かめる ③決めて責任を負う ④AIを使う側に立つ

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出典

※ 第5章「2035年のある日の薬局」は筆者による想像であり、事実ではありません。それ以外の記述は2026年8月時点の法令・通知に基づきます。制度は変わり得ます。

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