「エナジードリンクって、1日何本までですか」
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この質問、答えにくくないでしょうか。日本にカフェインの基準がないからです。
ないのですが、参照すべき数字はあります。食品安全委員会がファクトシートにまとめていて、そこに海外機関の値が並んでいます。それと、添付文書に「カフェイン」と名指しで書かれている薬もあります。

まず、日本に基準はありません
ここを押さえておくと、説明がぶれません。
カフェインに対する感受性は個人差が大きいため、健康に及ぼす影響を正確に評価することは難しく、カフェインの一日摂取許容量(ADI)は設定されていません。
ADIが設定されていないので、「日本では1日◯mgまで」という公的な数字は存在しません。厚生労働省・農林水産省・消費者庁がそれぞれ注意喚起はしていますが、いずれも海外機関の値を紹介する形です。
だから患者さんに答えるときは、「日本に基準はないので、海外の評価機関の値を目安にすると」と前置きするのが正確です。
では何mgまでか
ファクトシートに載っている数字を整理します。中心は欧州食品安全機関(EFSA)の2015年の科学的意見書で、他国もこれを引用しています。
| 対象 | 目安 | 出典 |
|---|---|---|
| 健康な成人(習慣的) | 400mg/日まで | EFSA 2015 |
| 健康な成人(1回) | 200mgまで(体重70kgで約3mg/kg) | EFSA 2015 |
| 妊婦 | 200mg/日まで | EFSA 2015 |
| 妊婦(WHO) | 300mg/日を超える場合は制限を | WHO 2016 |
| 授乳婦 | 1回200mg・200mg/日まで | EFSA 2015 |
| 子供・青少年 | 約3mg/kg体重(1回・1日とも) | EFSA 2015 |
| 就寝直前 | 1回100mgで一部の成人に睡眠障害 | AGES 2017 |
注目したいのが子供の「3mg/kg体重」です。体重換算なので、体重40kgの中学生なら120mg。これはエナジードリンク1本で届く量です。
そして「1回200mg」という数字。これは1日400mgの半分を、一度に飲めるということではありません。1回の急性毒性の線が200mg、習慣的な1日の線が400mg。別々の基準です。
何mg入っているのか
同じファクトシートの表です。
| 食品 | カフェイン濃度 | 備考 |
|---|---|---|
| エナジードリンク/ 眠気覚まし用飲料 | 32〜300mg/100mL (1本当たり36〜150mg) | 製品で濃度も内容量も違う |
| 玉露 | 160mg/100mL | 茶葉10g/60℃60mL・2.5分 |
| コーヒー | 60mg/100mL | 粉末10g/熱湯150mL |
| インスタントコーヒー | 57mg/100mL | 2g/熱湯140mL |
| 紅茶 | 30mg/100mL | 茶5g/熱湯360mL |
| せん茶 | 20mg/100mL | 茶10g/90℃430mL |
| ウーロン茶 | 20mg/100mL | 茶15g/90℃650mL |
| 抹茶 | 1杯48mg | 抹茶1.5g/70〜80℃70mL |
玉露はコーヒーの2.7倍です。ここは意外に知られていません。「カフェインを控えたいのでコーヒーをやめてお茶にしました」が、逆になっている場合があります。
そしてエナジードリンクの「32〜300mg/100mL」という幅の広さ。濃度が最も高いのは、50mL程度の小容量タイプです。「小さいから少ない」は成り立ちません。
いちばんやっかいなのは、表示義務がないこと
国民生活センターが2021年に、市販飲料78銘柄のカフェインを実測しています。
テスト対象銘柄78銘柄中、商品本体にカフェイン含有量の表示がみられたのは25銘柄、商品本体には含有量の表示がなく販売者等のウェブサイトのみに含有量の表示がみられたのは22銘柄で、それ以外の銘柄では商品本体や販売者等のウェブサイトには、含有量の表示はみられませんでした。
カフェインは、商品への含有量表示が義務とはなっていない成分ですが、一部の消費者にとっては関心が高い成分です。
78銘柄のうち、パッケージを見て量が分かるのは25銘柄だけ。31銘柄はどこにも書かれていません。
さらに、表示があっても実測と差があった銘柄がありました。
商品本体や販売者等のウェブサイトにあるカフェインの表示量よりも多く含まれている銘柄もあり、最も差が大きかった銘柄は、ほうじ茶、ウーロン茶の各1銘柄で、100g当たり5mg(1.5倍)程度多く含まれていました。
つまり患者さんは、量の分からないものを足し算していることになります。「1日何本まで」に答えるには、まずその製品に何mg入っているかを一緒に確認するところから始めるしかありません。
動悸・不眠・イライラは、並んで載っています
「飲みすぎるとどうなるか」も、ファクトシートに列挙されています。
過剰に摂取した場合の一般的な急性作用は、めまい、心拍数の増加、興奮、不安、震え、不眠症、下痢、吐き気をもたらすこともあります。
動悸(心拍数の増加)も不眠も、同じ一覧の中にあります。別々の副作用ではなく、同じ過剰摂取の現れ方です。「動悸はするけど眠れないのは別の原因かも」という切り分けは、あまり意味がありません。
長期の影響としては、こちらが挙げられています。
- ◻️ 高血圧リスク——肝機能が低下しているヒトなど一部において(MPI)
- ◻️ 骨粗しょう症——特にカルシウム摂取量が少ないヒトで、カルシウムの排出率が増えるため(MPI)
- ◻️ 胎児の発育阻害——妊婦において(MPI)
そして見落としやすいのが依存です。フィンランド食品安全局の評価に、具体的な数字が出ています。
体重50kgの青少年では、約15mg/日のカフェインでは副作用はみられないが、50mg/日を超えると耐性が増加する可能性がある。耐性の増加は、通常の摂取で発現するカフェイン依存症の兆候を示す。125mg/日を超えると不安とイライラ感がみられた。
体重50kgで50mg/日。エナジードリンク半分以下です。「安全な量」とされる3mg/kg(150mg)よりずっと手前に、耐性と依存の線が引かれています。
「やめると頭痛がする」「飲まないと仕事にならない」は、離脱症状として説明がつきます。
添付文書に「カフェイン」と書いてある薬
ここが薬局の出番です。シプロフロキサシンの添付文書を見てください。
本剤はチトクロームP4501A2(CYP1A2)を阻害するので、本酵素で代謝される薬剤の代謝を阻害し、血中濃度を上昇させるおそれがある。
カフェイン/デュロキセチン塩酸塩
臨床症状・措置方法:これらの薬剤の血中濃度が上昇することがある。
機序・危険因子:これらの薬剤の肝での代謝を抑制し、クリアランスを減少させるためと考えられている。
「カフェイン」が、併用注意の薬剤名の欄に載っています。飲食物の注意書きではなく、相互作用の表の中です。
ここで大事なのは、キノロンなら何でもそうというわけではないことです。
| 成分 | 添付文書の「カフェイン」の記載 |
|---|---|
| シプロフロキサシン | あり(10.2 併用注意) |
| レボフロキサシン | なし |
| ノルフロキサシン | なし |
いちばん処方されるレボフロキサシンには記載がありません。名指しされているのはシプロフロキサシンです。同じ表にテオフィリンも並んでいるのを見ると、納得がいきます。
シプロフロキサシンが出た患者さんに「コーヒーやエナジードリンクを控えてください」と一言添える——添付文書に根拠のある指導です。
足し算を忘れやすいもの
カフェインは飲み物だけではありません。ファクトシート自身がそう書いています。
食品に添加されるカフェイン(抽出物)については、既存添加物名簿に収載され、厚生労働省により食品添加物として使用することが従来から認められています。更に、医薬品として処方されております。
現在では、この他にエナジードリンク、眠気覚まし用の清涼飲料水、サプリメント、ガムなど様々な製品に添加されています。
そのため、このような食品を組み合わせて飲んだり食べたりすることで気づかずにカフェインを多量に摂取してしまう可能性があります。
カナダ保健省の項にも、「一部の市販風邪薬・頭痛薬などにも含まれる」と書かれています。無水カフェインを配合した解熱鎮痛薬・総合感冒薬・眠気防止薬は、薬局の棚にあるものです。
ここで整理しておきたいのが法区分です。同じ「カフェインを摂る」でも、3つにまたがっています。
| 区分 | 例 | カフェイン量の表示 | 上限 |
|---|---|---|---|
| 清涼飲料水 (食品) | エナジードリンク | 義務なし | なし |
| 医薬部外品 | 栄養ドリンク | 成分として表示 | 承認内容による |
| 医薬品 | 眠気防止薬 | 成分・分量を表示 | 用法・用量で規定 |
上限が決まっているのは医薬品だけです。いちばん強いものにいちばん厳しい枠があり、枠がないものがコンビニで買えます。
そして薬局で起きるのは、この足し算です。眠気防止薬を買いに来た人が、すでにエナジードリンクを2本飲んでいる。医薬品の用法・用量を守っていても、合計は枠を超えます。
聞かれたときの答え方
① 「日本に基準はありません」から入る。海外機関の目安として400mg/日・1回200mgを示す
② 製品名を聞いて、何mgかを一緒に確認する(表示がないことも多い)
③ 他に何を飲んでいるか——コーヒー、お茶、栄養ドリンク、眠気防止薬
④ 眠れないなら、飲む時刻を聞く。就寝直前100mgで睡眠障害が起こりうる
⑤ 妊娠・授乳中なら200mg/日。成人の半分と覚えておく
「何本までですか」に本数で答えようとすると詰まります。製品によって36mgから150mgまで4倍以上の開きがあるので、本数では決まりません。
答えるべきは「1日400mgまで、1回200mgまで。その製品は1本◯mgなので——」という形です。
まとめ
- ◻️ 日本にカフェインのADIはありません。参照するのは海外機関の値
- ◻️ 健康な成人は400mg/日・1回200mg、妊婦・授乳婦は200mg/日、子供は約3mg/kg体重
- ◻️ エナジードリンクは32〜300mg/100mL(1本36〜150mg)。本数では決まらない
- ◻️ 玉露はコーヒーの2.7倍(160mg/100mL vs 60mg/100mL)
- ◻️ カフェイン量の表示は義務ではない。78銘柄中、本体に表示があったのは25銘柄
- ◻️ 動悸(心拍数の増加)と不眠は同じ過剰摂取の一覧に並んでいる
- ◻️ 体重50kgの青少年で50mg/日超で耐性、125mg/日超で不安・イライラ
- ◻️ シプロフロキサシンの添付文書には「カフェイン」が併用注意で名指し(CYP1A2阻害)
- ◻️ レボフロキサシン・ノルフロキサシンには記載なし。キノロン一律ではない
- ◻️ 上限が決まっているのは医薬品だけ。枠のないものがコンビニで買える
エナジードリンクそのものが悪いという話ではありません。量が見えないまま足し算されていることが問題で、そこは薬局が見える化できる部分です。
参考にした一次資料
- 食品安全委員会 ファクトシート「食品中のカフェイン」(作成 平成23年3月31日/最終更新 平成30年2月23日)
- 国民生活センター「飲料のカフェイン含有量に関する調査‐知らずに多く摂取していることも!?‐」(令和3年11月4日 報道発表資料)
- シプロフロキサシン塩酸塩錠 添付文書 10. 相互作用
- レボフロキサシン錠・ノルフロキサシン錠 添付文書(カフェインの記載がないことの確認)
- EFSA「カフェインの安全性に関する科学的意見書」(2015)※ファクトシート3.③より
- WHO 妊婦のカフェイン摂取に関する勧告(2016)※ファクトシート3.①より
- オーストリア保健・食品安全局(AGES)エナジードリンクの健康リスク評価(2017)※ファクトシート3.④より
- フィンランド食品安全局(EVIRA)子供と青少年に対するカフェインのリスク評価(2016)※ファクトシート3.⑥より
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