執筆:Nori(薬Talk編集長・薬剤師)/調剤薬局勤務26年。管理薬剤師を経て、現在はチェーン薬局の本社部門で店舗運営支援を担当しています。
棚卸しで期限切れが出てきた。患者さんが古い薬を持ってきた。返品できない在庫が積み上がっている——。
どれも日常ですが、法令上の扱いは薬の種類でまったく違います。普通の錠剤なら届出は不要ですが、麻薬なら都道府県職員の立会いが要る場合があり、覚醒剤原料なら患者さんから受け取った時点で届出義務が発生します。
そして意外に知られていないのが、期限切れの医薬品は「置いておくこと」自体が禁止されているという点です。
法令の条文から、正確に整理します。
「貯蔵」も「広告」も禁止されている
根拠は薬機法施行規則第15条の3です。見出しがそのまま内容を表しています。
(使用の期限を超過した医薬品の販売等の禁止)
第十五条の三 薬局開設者は、その直接の容器又は直接の被包に表示された使用の期限を超過した医薬品を、正当な理由なく、販売し、授与し、販売若しくは授与の目的で貯蔵し、若しくは陳列し、又は広告してはならない。
同じ規定が、店舗販売業には第147条の4、配置販売業には第149条の8として置かれています。
条文を分解すると
禁止されている行為は5つです。
- 販売
- 授与
- 販売若しくは授与の目的で貯蔵
- 販売若しくは授与の目的で陳列
- 広告
ここで重要なのが「販売若しくは授与の目的で」という限定です。これは貯蔵と陳列にかかっています。
つまり——
- 通常の医薬品棚に期限切れが混ざっている→ 販売・授与の目的での貯蔵にあたり得る
- 廃棄用・返品用として明確に分けて保管している→ 販売・授与の目的ではない
「捨てるまで置いてある」こと自体が問題なのではありません。問題は、それが調剤に使える状態で混ざっていることです。
だからこそ実務上は、期限切れを見つけたら即座に通常在庫から物理的に隔離することが答えになります。「期限切れ・廃棄待ち」と明示した箱を用意して、そこに入れる。それだけで条文上の位置づけがはっきりします。
なお、条文冒頭の「正当な理由なく」が何を指すかは、省令に定義がありません。文言上は、返品・回収・廃棄までの一時保管や試験検査目的などが想定されると読めますが、「正当な理由」に頼る運用は避け、隔離と記録で説明できる状態にしておくのが安全です。
使用期限とは何を保証しているのか
患者さんから必ず聞かれます。「これ、まだ飲めますか?」
答えの前提として、使用期限が保証しているものを正確に押さえておく必要があります。
使用期限は、製造販売業者が定めた保存条件のもとで、その日付まで規格に適合することを保証した期限です。安定性試験の結果に基づいて設定され、承認事項の一部になっています。
ここから2つのことが言えます。
- 期限を過ぎた薬の品質は「保証の対象外」であって、「必ず劣化している」という意味ではない
- ただし、家庭での保存条件は規定の保存条件とは限らない——洗面所、車の中、直射日光の当たる窓際。一包化して数か月経ったもの。これらは安定性試験の条件ではありません
したがって、薬剤師が「まだ飲めます」と保証できる根拠はありません。同時に「必ず有害です」と言うのも正確ではありません。
説明の仕方
正確で、かつ患者さんが納得できる言い方はこうなります。
「使用期限は、決められた保存の仕方をしたときに、その日まで効き目と品質を保証しますという日付です。期限を過ぎたものは、効き目が確かめられていない状態になります。飲んで危険とまでは言えませんが、効くはずのものが効かないほうが困るので、処分をおすすめします」
「危険だから捨てて」ではなく「効くか分からないから捨てて」——このほうが事実に忠実で、しかも抗菌薬や循環器薬では説得力があります。
やってはいけないのは、「まだ大丈夫ですよ」と保証することです。品質が保証されていない医薬品について効果や安全性を請け合うことは、根拠がないだけでなく、健康被害が生じた場合の責任の所在も曖昧になります。
廃棄手続は薬の区分でこれだけ違う
ここが本題です。同じ「期限切れだから捨てる」でも、手続はまったく違います。
| 区分 | 立会い | 届出 | 方法 |
|---|---|---|---|
| 一般の医療用医薬品 | 不要 | 不要 | 廃棄物処理法に従い処理 |
| 麻薬(在庫・未調剤) | 必要 | 事前に届出 | 都道府県職員の立会いの下 |
| 調剤済麻薬 | 不要 | 廃棄後30日以内 | 焼却その他回収困難な方法 |
| 向精神薬 | 不要 | 規定なし | 焼却その他回収困難な方法 |
| 覚醒剤原料(在庫) | 必要 | 事前に届出 | 都道府県職員の立会いの下 |
| 調剤済・交付済の覚醒剤原料 | 不要 | 廃棄後30日以内 | 焼却その他回収困難な方法 |
それぞれの根拠を見ていきます。
麻薬
麻薬及び向精神薬取締法第29条が原則です。
(廃棄)第二十九条 麻薬を廃棄しようとする者は、廃棄する麻薬の品名及び数量並びに廃棄の方法について都道府県知事に届け出て、当該職員の立会いの下に行わなければならない。ただし、麻薬小売業者又は麻薬診療施設の開設者が、厚生労働省令で定めるところにより、麻薬処方箋により調剤された麻薬を廃棄する場合は、この限りでない。
境目は「調剤したかどうか」です。
- 在庫のまま期限切れになった麻薬(調剤していない)→ 事前に届け出て、職員の立会いの下で廃棄
- 調剤済麻薬(患者さんに交付されたものの返却分を含む)→ 立会い不要
調剤済麻薬の場合、方法と届出が決まっています。
- 方法:同法施行規則第10条の2により「焼却その他の麻薬を回収することが困難な方法」
- 届出:同法第35条第2項により廃棄したときは30日以内に、品名・数量その他を都道府県知事へ
「立会いが要らない=届出も要らない」ではありません。30日以内の事後届出は必要です。ここは混同されやすいところです。
なお、患者さんやご家族が未使用の麻薬を薬局に返すことは、同法第24条第1項第2号・第3号で認められています。施用の必要がなくなった場合と、患者さんが亡くなった場合です。在宅で麻薬を扱う薬局では、この返却を受ける場面が実際に発生します。
向精神薬
最もシンプルです。根拠は同法施行規則第40条第3項。
向精神薬取扱者は、その所有する向精神薬を廃棄するときは、焼却その他の向精神薬を回収することが困難な方法により行わなければならない。
立会いも届出も条文にありません。ただし方法は指定されています——「回収することが困難な方法」。そのままゴミ箱に捨てるのは、この要件を満たしません。
同条第1項・第2項では保管についても定められています。盗難防止のため、業務従事者が実地に注意する場合を除き、かぎをかけた設備内で保管することが必要です。廃棄待ちの向精神薬も「所有する向精神薬」ですから、この保管義務がかかります。
覚醒剤原料
セレギリン、リスデキサンフェタミンなどが該当します。構造は麻薬とよく似ています。
原則は覚醒剤取締法第30条の13——都道府県知事に届け出て、職員の立会いの下で廃棄。ただし調剤された、または交付された医薬品である覚醒剤原料は、ただし書で立会いが除外されます。
- 方法:同法施行規則第15条により「焼却その他の覚醒剤原料を回収することが困難な方法」
- 届出:同法第30条の14第2項により廃棄したときは30日以内に、都道府県知事へ(施行規則第19条第2項・別記第17号様式)
- 在庫品の廃棄届:施行規則第19条第1項・別記第16号様式
見落とされやすい——患者さんから覚醒剤原料を受け取ったとき
これは知らないと必ず漏れます。
覚醒剤取締法第30条の9第1項第6号により、施用の必要がなくなった場合や患者さんが亡くなった場合、薬局は医薬品である覚醒剤原料を譲り受けることができます。
ところが、その譲受には届出義務がついてきます。
第三十条の十四第3項 (略)医薬品である覚醒剤原料を譲り受けた薬局開設者又は病院、診療所若しくは飼育動物診療施設の開設者は、速やかにその医薬品である覚醒剤原料の品名及び数量その他厚生労働省令で定める事項を都道府県知事に届け出なければならない。
様式は施行規則第19条第3項の別記第18号様式。しかも「速やかに」——30日ではありません。
つまり、患者さんが飲まなくなったビバンセやエフピーを持ってきた場合、受け取った時点で「譲受届」、廃棄した時点で「廃棄届」の2回の届出が発生します。
あわせて、覚醒剤原料には帳簿義務もあります。同法第30条の17第3項により、薬局は譲渡・譲受・施用のため交付・廃棄した品名・数量・年月日と、届出をした品名・数量を記帳し、同条第4項により最終記入日から2年間保存します。
期限は「記録すべき事項」でもある
使用期限は、貼ってあるだけのものではありません。薬機法施行規則第14条により、医療用医薬品を購入・譲受・販売・授与したときは、書面に記載すべき事項として並んでいます。
- 品名
- ロット番号(ロットを構成しない医薬品は製造番号)
- 使用の期限
- 数量
- 年月日
- 相手方の氏名・住所・連絡先 ほか
他の薬局への分譲も「販売又は授与」ですから、この記録が必要です。期限切れ間近の在庫を融通するときこそ、使用期限の記載が意味を持ちます。
さらに同規則第285条——同一法人が2以上の許可を持っていて、店舗間で在庫を移動した場合も、移転前・移転後の両方の場所で品名・ロット番号・使用の期限・数量・移転元と移転先・移転年月日を記録し、記載日から3年間保存しなければなりません。
チェーン薬局で「期限が近いから隣の店に回す」——これは記録が必要な行為です。メールやチャットのやり取りだけで済ませていないか、確認する価値があります。
期限切れを出さないための運用
手続の話をしてきましたが、そもそも出さないのが最善です。現場で効く順に挙げます。
- 期限の早いものを手前に置く(先入れ先出し)——入庫時に必ず並べ替える。棚に後から差し込むと必ず奥が残ります
- 棚に「最短期限」を書く——棚札に、その棚で一番早い期限を記入しておくと、棚卸しを待たずに気づけます
- 半年前・3か月前の二段階でリスト化——半年前なら分譲や返品が間に合います。3か月を切ると選択肢が減ります
- 動かない在庫を特定する——期限切れの大半は、期限管理ではなく発注量の問題です。使用実績のない品目は数量を絞る
- 期限切れ発生時に品目を記録して振り返る——同じ薬が毎年出るなら、発注ルールを変えるべきサインです
特に供給不安が続く品目では、確保できるときに多めに取った結果、需要が戻らず期限切れになるパターンが増えています。「取れるうちに」の判断は、期限とセットで考える必要があります。
運用チェックリスト
- ◻️ 期限切れを見つけたら即座に通常在庫から隔離する運用になっている
- ◻️ 「期限切れ・廃棄待ち」と明示した専用の保管場所がある
- ◻️ 期限切れの向精神薬をかぎのかかる設備で保管している
- ◻️ 在庫の麻薬を廃棄する際は事前届出と職員の立会いが必要だと全員が知っている
- ◻️ 調剤済麻薬を廃棄したら30日以内に届出する運用になっている
- ◻️ 向精神薬は回収困難な方法で廃棄している(そのまま廃棄していない)
- ◻️ 患者から覚醒剤原料を受け取ったら速やかに譲受届(第18号様式)を出す運用になっている
- ◻️ 覚醒剤原料の帳簿を備え、最終記入から2年間保存している
- ◻️ 購入・分譲の記録にロット番号と使用期限を書いている
- ◻️ 店舗間で在庫を移動したとき両方の店舗で記録し3年保存している
- ◻️ 先入れ先出しが入庫時のルールになっている
- ◻️ 期限半年前・3か月前のリストを定期的に出している
- ◻️ 期限切れになった品目を記録し、発注量を見直している
まとめ
- 期限切れ医薬品は販売・授与だけでなく、販売等の目的での貯蔵・陳列・広告も禁止(薬機法施行規則第15条の3)。通常在庫からの隔離が実務上の答え
- 使用期限は規定の保存条件下での品質保証の期限。「まだ飲めます」と保証する根拠はない。「効くか分からない」と説明する
- 麻薬(在庫)と覚醒剤原料(在庫)は、事前届出+職員の立会いが必要
- 調剤済麻薬・調剤済の覚醒剤原料は立会い不要だが、30日以内の届出が必要
- 向精神薬は届出不要だが、回収困難な方法での廃棄が必要
- 患者から覚醒剤原料を譲り受けたら「速やかに」譲受届。廃棄届とあわせて2回
- 購入・分譲の記録にはロット番号と使用期限。店舗間移動も両方で記録・3年保存
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出典
- 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則(昭和36年厚生省令第1号)第14条、第15条の3、第147条の4、第149条の8、第285条
https://laws.e-gov.go.jp/law/336M50000100001 - 麻薬及び向精神薬取締法(昭和28年法律第14号)第24条、第29条、第35条/同法施行規則第10条の2、第40条
https://laws.e-gov.go.jp/law/328AC0000000014 - 覚醒剤取締法(昭和26年法律第252号)第30条の9、第30条の13、第30条の14、第30条の17/同法施行規則第15条、第19条
https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC0100000252
※ 本記事は2026年8月時点の法令に基づきます。届出の様式・提出先・運用の細部は都道府県により案内が異なる場合がありますので、各自治体の薬務主管課の案内もあわせてご確認ください。

