医師と看護師は要る。では薬剤師は?——災害時に薬剤師にだけ認められている2つの判断

医師と看護師は要る。では薬剤師は?——災害時に薬剤師にだけ認められている2つの判断 薬局実務
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執筆:Nori(薬Talk編集長・薬剤師)/調剤薬局勤務26年。管理薬剤師を経て、現在はチェーン薬局の本社部門で店舗運営支援を担当しています。

本サイトは、薬剤師をはじめとする医療従事者向けの情報提供サイトです。記載内容は告示・通知・添付文書などの原文を確認したうえでまとめています。一般の方が医薬品の使用を判断される際は、必ず医師・薬剤師にご相談ください。
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災害現場で、医師と看護師は要る。では薬剤師は何ができるのか。——薬剤師自身がそう考えてしまう問いです。ところが調べると、答えは法令と要領に書いてありました。災害時、処方箋がなくても調剤できるのは薬剤師だけです。そして薬局の判断で分割調剤し、報告は事後でよい。さらに都道府県が任命する「災害薬事コーディネーター」という正式なポジションが、調整本部の中にあります。
2薬剤師にだけ認められた判断処方箋なし調剤/薬局判断の分割調剤
構成員保健医療福祉調整本部での位置6局長連名通知で明記
5分野災害薬事コーディネーターの業務令和7年3月10日 活動要領

処方箋がなくても調剤できるのは、薬剤師だけです

まずここから。令和8年3月31日の通知で、災害時の保険調剤の取扱いが常設化されました。そのなかにこれがあります。

被災した患者が処方箋を持参せずに調剤を求めてきた場合については、事後的に処方箋が発行されることを条件として、以下の要件のいずれにも該当する場合には、保険調剤として取り扱って差し支えない。

 交通の遮断、近隣の医療機関の診療状況等客観的にやむを得ない理由により、医師の診療を受けることができないものと認められること。

 主治医(主治医と連絡が取れない場合には他の医師)との電話やメモ等により医師からの処方内容が確認できること。

また、医療機関との連絡が取れないときには、服薬中の薬剤を滅失等した被災者であって、処方内容が安定した慢性疾患に係るものであることが、薬歴、お薬手帳、包装等により明らかな場合には、認めることとするが、事後的に医師に処方内容を確認するものとすること。

後半を読んでください。医師と連絡が取れないときの話です。

薬歴・お薬手帳・包装から、その人が何を飲んでいたかを再現する。安定した慢性疾患だと判断する。そして薬を渡す。

これは医師にはできません。医師がいないから起きている場面だからです。薬剤師の判断としてしか成立しない——法令がそう設計しています。

在庫を延ばす判断も、薬剤師が先に決めます

被災地の保険薬局において、現地での医薬品の供給不足により、調剤に必要な医薬品の在庫が逼迫している場合等やむを得ない場合には、被災地での医薬品の流通状況等に応じて、分割指示のない処方箋であっても、処方医へ迅速に疑義照会を行うことが難しい場合には、保険薬局の判断で分割調剤を行い、事後に報告することで差し支えないこと。

疑義照会が先ではありません。薬局の判断が先で、報告が後です。

限られた在庫を、何人に、何日分ずつ配るか。これを決められるのは、在庫を握っている薬剤師だけです。医師は処方はできても、その薬局に何錠残っているかを知りません。

災害時の保険調剤の全体像は災害が起きても、もう通知を待たなくてよくなりましたにまとめました。

「災害薬事コーディネーター」は、正式なポジションです

ボランティアの呼び名ではありません。都道府県が任命します。

……「大規模災害時の保健医療福祉活動に係る体制の整備について」(令和4年7月22日付け6局長連名通知)を発出し、各都道府県に大規模災害時の保健医療福祉活動の総合調整を行う保健医療福祉調整本部を設置することとしたとともに、保健医療福祉調整本部の構成員として災害薬事コーディネーターが含まれることが示された。

……災害時に、都道府県並びに保健所及び市町村が行う保健医療活動における薬事に関する課題解決のため、……被災地の医薬品等や薬剤師及び薬事・衛生面に関する情報の把握やマッチング等を行うことを目的として、都道府県において任命された薬剤師と示された。

災害医療コーディネーター・災害時小児周産期リエゾンと並ぶ位置づけです。要領は、この3者が「ともに、助言及び調整の支援を行う」と繰り返し書いています。

業務は5つに整理されています。

業務内容
(1) 組織体制の構築調整本部の体制づくりへの助言。誰を本部に入れるべきかの検討にも関わる
(2) 被災情報の収集・分析・対応策の立案医療機関・薬局・卸・救護所・避難所の被災状況と復旧状況。ニーズの把握
(3) 人的支援・物的支援の調整どのチームを何隊、どこへ。再配置、活動縮小・終了の判断まで
(4) 患者・医薬品等の搬送の調整搬送の要否・緊急度・搬送先・搬送手段。県外搬送では搬送先の担当者と連携
(5) 記録の作成・保存・共有時間経過に沿った記録とEMIS等での共有

調剤の話が1つもありません。ここが重要です。災害薬事コーディネーターの仕事は「調整」であって「調剤」ではない——県の本部に座って、県全体の薬をどう動かすかを決める役です。

何を「見る」のかが、医師・看護師と違います

要領には、調整本部が収集すべき情報が具体的に列挙されています。ここに薬剤師の視野が表れています。

(ア) 支援を要する患者等の状況(在宅での人工呼吸器、衛生材料等の使用状況を含む。)

(イ) 災害時に新たに必要となった保健医療福祉ニーズ等(ライフライン、医薬品、医療機器、医療ガス、衛生材料等を含む。)

エ その他……必要な情報(調剤、医薬品の供給が可能な災害対応医薬品供給車両(モバイルファーマシー)、避難所の環境衛生等の情報を含む。)

在宅の人工呼吸器。医療ガス。衛生材料。避難所の環境衛生。

目の前の傷病者を診る人の視野には、入りにくい項目です。「この地域に、電源が要る医療機器を使っている人が何人いるか」——これを平時から把握しているのは、在宅に入っている薬剤師です。

薬剤師の強みは、目の前の1人ではなく「地域に何がどれだけあるか」を知っていることです。災害時に効くのは、そちらの知識でした。

モバイルファーマシーは、クリーンベンチまで積んでいます

日本薬剤師会が令和7年10月1日に「モバイルファーマシー運用指針」を制定しました。巻末の「モバイルファーマシー報告書」の記入欄を見ると、この車が何なのかが分かります。

区分報告書の記入欄
調剤等に関する設備分包機(メーカー・型番・Vマス/円盤印字の可否)/電子天秤(バッテリー・監査プリンタ)/クリーンベンチ水剤調剤の可否
冷蔵庫種類・容量
電装発電機(内蔵・外付、発電能力kVA)/サブバッテリー容量/ソーラー充電/インバーター容量/外部電源取込み
水回り専用シンク/洗面台/シャワー/温水器/浄水タンク・汚水タンク容量
通信衛星電話(備付・ポータブル)/無線/テレビ
キャンピング設備就寝定員/バンクベッド/エアコン・FFヒーター/トイレ(常設・簡易・使い捨て)

クリーンベンチと電子天秤と監査プリンタが載っています。散剤を量って、分包して、印字する。薬局の調剤室を、そのまま被災地に運ぶ発想です。

そしてキャンピング設備の欄。薬剤師がその中で寝泊まりする前提です。備品リストには寝袋・クローズドセルマット・カセットコンロ・使い捨てトイレが並び、マットには「車内床で寝るなら必須」と注記されています。

指針は、MPの役割をこう書いています。

災害発生後、MP は被災地において、仮設調剤所が確立されるまで医薬品の供給拠点としての役割が求められる。

「モバイルファーマシー」は商標です

ここは知らない人が多いと思います。宮城県薬剤師会が平成29年3月24日に商標登録しています。

MPは東日本大震災の教訓から、宮城県薬剤師会が最初に開発しました。薬局そのものが消失し、医薬品供給拠点の機能が失われた——そこまでは想定していなかった、と指針の「はじめに」に書かれています。初出動は2016年4月の熊本地震です。

名称を使うには同意書の提出が要り、条件が付きます。

  • ◻️ 所有者・管理者は法人格を有する薬剤師会あるいは薬系大学であること
  • ◻️ 一切の営利活動および営利企業の広告活動等に使用しないこと
  • ◻️ 車両の分かりやすい場所に○○薬剤師会(○○薬科大学)と表示すること
  • ◻️ 車両に企業等の名称や広告等を表示しないこと
  • ◻️ 平時・災害時を問わず所有者たる薬剤師会・薬系大学が主体的に運用すること

この車は、薬剤師会か薬系大学しか持てません。企業が同じ車を作っても、そう名乗ることはできない。職能の車として設計されているということです。

ひとつ現実的な但し書きも。MP運用訓練修了者は、必ずしも薬剤師である必要はありません(指針 第3章)。運転と搭載機器の操作ができる人を、平時に育てておく話です。

そして要領は、モバイルファーマシーの所在を「調整本部が収集すべき情報」に挙げています。県の本部が動かす資源として、正式に位置づけられているということです。

避難所で、薬剤師が最初にやること

災害時の保険調剤の通知には、避難所についての規定もあります。

医師の指示に基づき、保険薬剤師が避難所等を訪問し、薬学的管理及び指導を行った場合、在宅患者訪問薬剤管理指導料は算定できるものであること。ただし、疾病、傷病から通院による療養が可能と判断される患者に対しては算定できない。なお、同じ避難所等に居住する複数人に対して同一日に在宅患者訪問薬剤管理指導を行う場合は「同一建物居住者の場合」の取扱いとするが、同一世帯の複数の患者が避難所等に同居している場合には、1人目は「同一建物居住者以外の場合」を算定し、2人目以降の患者については、「同一建物居住者の場合」を算定すること。

そしてやってはいけないことも、はっきり書かれています。

救護所、避難所救護センター等で処方箋の交付を受けたと認められる場合には、当該調剤に係る報酬は救護所の設置主体である都道府県市町村に請求するものであること。

被災地の保険医療機関の医師等が、各避難所等を自発的に巡回し、診療を行った場合、保険診療として取り扱うことはできないこと。

善意で回っただけでは、制度に乗りません。医師の指示があるか、災害救助法の枠組みに入っているか——この整理ができるかどうかで、現地の動きが変わります。

「何ができるか」は、実は「どの枠組みで動くか」の問題でした。それを知っている薬剤師が現地にいるかどうかで、同じ働きが報われるかどうかが決まります。

実はもう、施設基準に書いてあります(連携強化加算)

ここが一番の盲点かもしれません。連携強化加算(調剤基本料 注6・5点)の施設基準を読み返してください。

ア 災害の発生時等に、医薬品の提供施設として薬局機能を維持し、自治体からの要請に応じて、避難所・救護所等における医薬品の供給又は調剤所の設置に係る人員派遣等の協力等を行う体制が整備されていること。

イ 医薬品の供給や地域の衛生管理に係る対応等を行うことについて、災害の被災状況に応じた対応を習得する研修を薬局内で実施する、又は、地域の協議会、研修若しくは訓練等に参加するよう計画を作成し、実施すること。また、協議会、研修又は訓練等には、年1回程度参加することが望ましい。

ウ 災害の発生時等において、地方公共団体や地域の薬剤師会等と協議の上で、……夜間、休日等の開局時間外であっても調剤及び在宅業務に対応できる体制が整備されていること。

「避難所・救護所への人員派遣に協力する体制がある」と、届出で宣言している。連携強化加算を算定している薬局は、そういう薬局です。

届出様式(様式87の3の5)にもチェック欄があります。「災害の発生時における医療の提供にあたっての研修・訓練の実施」——外部の研修・訓練への参加を含む、と書かれています。

薬剤師が災害時に何をするかは、すでに制度に組み込まれています。問題は「できるかどうか」ではなく、届け出た体制が実際に動くかどうかのほうでした。

「役に立たない」と感じてしまう理由

ここまで並べても、腑に落ちない感覚は残ると思います。理由は3つあると思っています。

  1. 急性期に見える仕事がないDMATが動く48時間、薬剤師の出番は目立ちません。効いてくるのは、慢性疾患の薬が切れ始める数日後からです
  2. 成果が「起きなかったこと」で表れる血圧の薬が続いたから脳卒中が起きなかった。数えられない成果です
  3. 平時に準備していないと、何もできない薬歴もお薬手帳も在庫の把握も、災害が起きてからは作れません

3つ目が本質だと思います。

処方箋なしで調剤できるのは、薬歴かお薬手帳か包装で処方内容が「明らか」なときです。その前提を作るのは平時の仕事です。お薬手帳を持ち出すよう伝えておくこと。薬歴を残しておくこと。災害時にできることの上限は、平時に決まっています。

そして「薬剤師は何ができるのか」という問いへの答えは、たぶんこうです。災害が起きてから考えるなら、あまりできない。平時に準備していれば、他の職種にはできないことができる。

平時にやっておくこと

  • ◻️ お薬手帳を持ち出すことを、日頃の指導で伝えている
  • ◻️ 薬歴のバックアップがオフラインにもある(停電・浸水で端末が使えない前提)
  • ◻️ 処方箋なし調剤の2ルート(医師に確認できる場合/連絡が取れない場合)を全員が言える
  • ◻️ 薬局の判断で分割調剤できることを知っている(疑義照会が先ではない)
  • ◻️ 救護所・避難所で交付された処方箋は保険調剤にできないと知っている
  • ◻️ 在宅患者のうち電源が必要な医療機器を使っている人を把握している
  • ◻️ 都道府県の災害薬事コーディネーターの存在と、地域薬剤師会の連絡系統を知っている
  • ◻️ 近隣のモバイルファーマシーの所在を知っている
  • ◻️ 連携強化加算の届出内容(避難所・救護所への人員派遣体制/年1回の研修・訓練)が、実態と合っている
  • ◻️ BCPに、災害時の保険調剤の取扱いを組み込んだ

まとめ

  • 処方箋がなくても調剤できます。医師と連絡が取れないときは、薬歴・お薬手帳・包装から処方内容を再現する。医師にはできない判断です
  • 薬局の判断で分割調剤し、報告は事後でよい。限られた在庫をどう配るかを決められるのは薬剤師だけです
  • 災害薬事コーディネーターは都道府県が任命する正式なポジション。保健医療福祉調整本部の構成員として6局長連名通知に明記されています
  • その仕事は「調整」であって「調剤」ではありません。業務は5分野で、県全体の薬と人をどう動かすかを決めます
  • 収集すべき情報に「在宅での人工呼吸器」「医療ガス」「衛生材料」「避難所の環境衛生」が明記されています。目の前の1人を診る視野には入りにくい領域です
  • モバイルファーマシーは分包機まで積んだ走る調剤室。調整本部が把握すべき資源として要領に位置づけられています
  • 災害時にできることの上限は、平時に決まります。お薬手帳も薬歴も在庫の把握も、起きてからは作れません

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※ 本記事の制度・添付文書に関する記載はすべて原文を確認しており、広告主の影響を受けていません。

出典

※ 本記事は2026年9月1日時点の通知・要領の原文に基づいています。
※ 災害薬事コーディネーターの任命・運用は都道府県ごとに定められます。自局の地域の体制は、都道府県薬務主管課または地域薬剤師会にご確認ください。
※ モバイルファーマシーの装備は所有者(薬剤師会・薬系大学等)により異なります。

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