執筆:Nori(薬Talk編集長・薬剤師)/調剤薬局勤務26年。管理薬剤師を経て、現在はチェーン薬局の本社部門で店舗運営支援を担当しています。
令和9年3月。あと半年ちょっとです。
その日から、77成分・約1,100品目について、薬剤費の4分の1が保険給付の対象外になります。患者さんは「特別の料金」として、その分を窓口で払うことになります。
対象は風邪薬、鼻炎薬、湿布、胃薬、便秘薬、水虫の薬——薬局でいちばん出るものばかりです。
そして説明するのは薬剤師です。
決まっていることと、まだ決まっていないことを、資料の原文から切り分けます。
「選定療養」ではありません
まず名前を正確に。この仕組みは「一部保険外療養」という新しい類型です。健康保険法第63条第2項第6号に、こう定義されました。
六要指導医薬品(中略)又は一般用医薬品(中略)との代替性が特に高い薬剤を用いた療養その他の適正な医療の提供を確保しつつ、公平かつ効率的な保険給付を行う必要性に鑑みその要する費用のうち一部を保険給付の対象としないものとする療養として厚生労働大臣が定めるもの(以下「一部保険外療養」という。)
長期収載品の選定療養と構造は同じですが、別の制度です。保険外併用療養費制度の中に、新しく作られました。
そして同条第8項に、配慮規定が置かれています。
厚生労働大臣は、第二項第六号の定めをするに当たっては、所得の状況、病状の程度、治療の内容その他の療養を受ける者の事情を踏まえた療養となるよう配慮するものとする。
この「配慮」の中身が、いま検討されている最大の論点です。
対象は「機械的に」選ばれた77成分
対象の決め方が、資料に明記されています。
特別の料金の対象となる医薬品は、OTC医薬品と成分、投与経路が同一で、一日最大用量が異ならない医療用医薬品であり、下記の数字は機械的に選定したもの。
○成分数77 ○品目数約1,100
「機械的に選定」——ここが重要です。効能効果の違いは、まだ精査されていません。だから今、技術的検討会でその作業をしています(後述)。
もうひとつの限定。対象は「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」です。処方箋医薬品は入りません。
主な対応症状(資料に列挙されているもの)
- 鼻炎(内服・点鼻)
- 腰痛・肩こり(外用)
- 胃痛・胸やけ
- みずむし
- 便秘
- 殺菌・消毒
- 解熱・痛み止め
- 口内炎
- 風邪症状全般
- おでき・ふきでもの
- 皮膚のかゆみ・乾燥肌 等
薬局の日常そのものです。1日に何十回と出している薬が並んでいます。
成分名の一覧はまだ公表されていません。ただし「成分・投与経路が同一で、一日最大用量が異ならない」という条件が分かっているので、自局の在庫で当たりをつけることは可能です。OTCに同じ成分・同じ剤形があり、1日最大用量が同じなら、対象の可能性が高い。
いくら増えるのか
負担の仕組みはこうです。
- 薬剤費のうち4分の1を、保険給付の対象から外す(=特別の料金)
- 残りの4分の3に、通常どおり保険が適用される
- 患者さんは「特別の料金」+「4分の3に対する定率負担」を払う
薬剤費1,000円、3割負担の患者さんで計算します。
| 現在 | 令和9年3月以降 | |
|---|---|---|
| 薬剤費 | 1,000円 | 1,000円 |
| 特別の料金(1/4) | — | 250円(全額自己負担) |
| 保険給付の対象 | 1,000円 | 750円 |
| 3割負担分 | 300円 | 225円 |
| 患者さんの支払い | 300円 | 475円 |
約1.6倍です(薬剤料部分のみ。技術料は別途かかります)。
1割負担の方だと、100円 → 325円で3.25倍。負担割合が低い人ほど、倍率としては大きく上がります。ここは窓口で説明が要る部分です。
※ 消費税の取扱いは、今後の制度設計によります。
「保険から外せばいい」は、すでに退けられている
ここが、この記事でいちばんお伝えしたい部分です。
「中途半端に負担を増やすくらいなら、いっそ保険から外してOTCで売ればいい」——もっともな意見です。実際、審議会でも議論されました。
そして、退けられました。理由は、あなたが思っているのと逆かもしれません。
・ 保険適用除外としてOTC医薬品を購入した場合、患者の自己負担が著しく増えるケースがある
・医療機関の受診は、医師が診察・診断をし、医学管理をした上で投薬するもので、ただ薬を出すものとは全く違う
・患者団体の話を踏まえると、OTC類似薬については保険適用とした上で患者負担を変更する方法が弊害が少ないのではないか
患者団体からは、さらに具体的な数字が出ています。
一般用医薬品では(医療用医薬品の)10倍以上の価格になることもあり、難病の方や心身障害者の方々などの負担が非常に重くなる
OTCのほうが高いのです。
言われてみれば当然で、薬価は公定価格で下がり続けているのに対し、OTCは製造・包装・流通・広告のコストを全部乗せた小売価格です。同じ成分でも、値段が一桁違うことがあります。
つまり「保険から外す」は、患者負担を減らすどころか激増させる——それが4分の1という中途半端な数字になった理由です。
もうひとつ、薬局に関わる指摘もありました。
医療用医薬品やOTCの使用状況をドラッグストアの薬剤師や登録販売者の方が総合的に把握していない中では、飲み合わせや相互作用に適切に対応できない
これは薬局への課題です。「OTCに移行させるなら、OTCも含めた一元的な薬歴管理が要る」という議論が、部会でも出ています(藤井委員)。セルフメディケーション推進の前提条件が、薬局側にあるということです。
特別の料金を求めない人(5類型)
医療保険部会の「議論の整理」で、徴収しない方向で検討を進めるべきとされたのが次の方々です。
- こども
- がん患者や難病患者など配慮が必要な慢性疾患を抱えている方
- 入院患者や処置等の一環でOTC類似薬の処方が必要な方
- 医師が対象医薬品の長期使用等が医療上必要と考える方
大臣折衝事項(令和7年12月24日)には、低所得者も配慮対象として挙げられています。
薬局から見ると、ここが最大の実務リスクです。
とくに4つ目「医師が長期使用等が医療上必要と考える方」——これは処方箋に何らかの表示がなければ、薬局では判定できません。
長期収載品の選定療養では、処方箋に「変更不可(医療上必要)」欄が設けられました。同じような仕組みが必要になるはずですが、まだ決まっていません。
「こども」の年齢も未確定です。部会では、「対象年齢をどうするか検討すべき」(袖井委員)、「自治体の子ども医療費助成と相まって制度目的が十分達成できない可能性があるため、こどもについては特別の負担の除外ではなく軽減にすべきではないか」(中村委員)という意見が出ています。
まだ決まっていないこと
誠実に書きます。現時点で確定していないことは、たくさんあります。
令和8年6月に「OTC類似薬の保険給付の見直しの実施に向けた技術的検討会」が設置され、次の3点を検討しています。
- 77成分の医療用医薬品とOTC医薬品における効能効果の違いの整理
- 別途の負担を求めない者と療養の範囲の整理
- その他(一部保険外療養制度を導入するに当たり、現場の実務にどのような影響があるのかなど)
①の背景として、資料はこう説明しています。
一般的に、医療用医薬品の効能効果とOTC医薬品の効能効果では、医療用医薬品の効能効果の方が広い傾向にある。(中略)これらを踏まえ、医療用医薬品とOTC医薬品の効能効果がどの範囲で一致し、どの範囲で異なるか成分ごとに検討する。
つまり「同じ成分でも、その効能で使うならOTCでは代替できない」という整理があり得るということです。77成分がそのまま全部対象になるとは限りません。
検討会の構成員には、薬局開設者が2名と薬学部教授が入っています。③に「現場の実務への影響」が明記されているのは、その反映でしょう。
国会の附帯決議も、実務に関わる内容を含んでいます。
制度導入後の影響について実態を把握・検証し、適時、ホームページ等で広く公表しつつ可逆的な見直しを含む必要に応じた見直しを行うこと。(衆議院・参議院 厚生労働委員会)
「可逆的な見直し」——つまり、始めてから戻す可能性も明記されています。
参議院の附帯決議には、個別成分の話まで入りました。
イトプリドを妊婦に使用する際に別途の負担を求めない方向で整理すること
成分単位・患者背景単位で例外が積み上がるということです。窓口の判定は、それだけ複雑になります。
これで終わりではない
77成分は「まずは」です。合意文書の書きぶりを見てください。
まずは、77成分(約1,100品目)を対象医薬品とし、薬剤費の1/4に特別の料金を設定する。(中略)将来、OTC医薬品の対応する症状の適応がある処方箋医薬品以外の医療用医薬品の相当部分にまで対象範囲を拡大することを目指し(中略)令和9年度以降にその対象範囲を拡大していく。あわせて、特別の料金をいただく薬剤費の割合の引き上げについても検討する。
整理すると——
- 令和9年3月:77成分・約1,100品目、薬剤費の4分の1
- 令和9年度以降:対象範囲を拡大
- 同時に:4分の1という割合の引き上げも検討
- 最終的な目標:処方箋医薬品以外の医療用医薬品の「相当部分」
方向は決まっています。77成分は入口です。
薬局で何が起きるか
制度の話を、窓口の話に翻訳します。
| 起きること | 備え |
|---|---|
| 「なんで高くなったの」と聞かれる | 1文で答えられる説明を全スタッフで統一する |
| 「じゃあ市販薬を買う」と言われる | OTCのほうが高いことが多い——比較して示せるようにする |
| 配慮対象かどうかの判定 | 処方箋の記載方法が決まり次第、手順化する |
| レセコン・システム改修 | ベンダーに対応時期を早めに確認する |
| 会計の区分 | 特別の料金は保険外。領収書・明細書の様式変更が入る |
| 疑義照会の増加 | 「医療上必要」の確認が必要な場面が出る |
2番目が意外と重要です。
負担が増えた患者さんは「じゃあドラッグストアで買います」と言います。そのとき「そちらのほうが高いかもしれませんよ」と言えるかどうか。
言えれば信頼されます。言えなければ、患者さんは薬局を離れて、しかも高い買い物をします。制度が変わっても、患者さんの利益を守るのは薬剤師の仕事です。
窓口で使える説明
「このお薬は、薬局で買える市販薬とほぼ同じ成分なんです。令和9年の3月から、そういうお薬については薬代の4分の1が保険の対象外になりました。そのぶん、お支払いが少し増えています。お薬が変わったわけでも、量が増えたわけでもありません」
「市販薬を買ったほうが安いのでは」と言われたら——
「実は市販薬のほうが高くなることが多いんです。市販薬は保険が効かないので全額のご負担になりますし、そもそも定価が高く設定されています。どちらが安いか、次回までに調べておきましょうか」
「調べておきます」が言えると、その患者さんは戻ってきます。
今から準備できること
- ◻️ 令和9年3月施行であることを店舗で共有した
- ◻️ 自局の在庫から対象になりそうな品目を洗い出した(OTCに同成分・同剤形・同一日最大用量があるもの)
- ◻️ その品目についてOTCの店頭価格を調べ、比較表を作った
- ◻️ レセコン・薬歴システムの対応時期をベンダーに確認した
- ◻️ 説明の1文を全スタッフで統一した
- ◻️ 「市販薬のほうが安いのでは」への返し方を決めた
- ◻️ 技術的検討会の議論を追う担当を決めた
- ◻️ OTCも含めた薬歴管理の運用を検討し始めた
まとめ
- 令和9年3月、77成分・約1,100品目で薬剤費の4分の1が保険給付の対象外に
- 制度名は「一部保険外療養」(健康保険法第63条第2項第6号)。選定療養とは別の新類型
- 対象は処方箋医薬品以外で、OTCと成分・投与経路が同一、一日最大用量が異ならないもの。機械的に選定された
- 症状でいうと風邪・鼻炎・湿布・胃薬・便秘・水虫・皮膚のかゆみなど、薬局の日常
- 3割負担なら薬剤料部分が約1.6倍、1割負担なら約3.25倍
- 「保険から外す」案は退けられた。理由はOTCのほうが高いから(10倍以上になることもある)
- 配慮対象はこども/がん・難病等/入院・処置/医師が医療上必要と判断/低所得者。判定方法は未確定
- 77成分は「まずは」。令和9年度以降に範囲拡大と、4分の1の引き上げが検討される
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出典
- 厚生労働省保険局「OTC類似薬の保険給付の見直しの実施に向けた技術的検討会について」(令和8年6月18日 第212回社会保障審議会医療保険部会 資料2)
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001712850.pdf - 厚生労働省保険局「OTC類似薬を含む薬剤自己負担の見直しの在り方について」(令和7年12月25日 第209回社会保障審議会医療保険部会)
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001621875.pdf - 厚生労働省「OTC類似薬の保険給付の見直しの実施に向けた技術的検討会」
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-hoken_282014_00001.html
※ 本記事は2026年8月時点の公表資料に基づきます。対象成分・配慮対象者の範囲・実務の取扱いは技術的検討会等で検討中であり、施行までに変わる可能性があります。負担額の試算は薬剤料部分のみを対象とした概算で、消費税の取扱いは含みません。

