軽微な調剤過誤の報告書は、もっと簡単でいい|「なぜ間違えたか」を聞いても、半分は使えない

軽微な調剤過誤の報告書は、もっと簡単でいい。ヒヤリ・ハット2024年年報では発生要因の上位4つ(判断誤り・繁忙・慣れ・焦り)が47%を占め、報告の48%は交付後・影響なし、詳細な報告書が要るのは4.5% 薬局実務
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執筆:Nori(薬Talk編集長・薬剤師)/調剤薬局勤務26年。管理薬剤師を経て、現在はチェーン薬局の本社部門で店舗運営支援を担当しています。

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14錠のところを28錠で渡した。20包のところを40包で出した。回収は済んだ。

薬の種類を取り違えた。規格を間違えた。飲む前に気づいて、交換は済んだ。患者さんは怒っていない。

ここで報告書を書きますか。——書かない人がいるのは、想像ではありません。

47%行動に変換できない発生要因判断誤り・繁忙・慣れ・焦り
48%「交付後・影響なし」が占める割合報告データの本体がここ
4.5%詳細な報告書が要る事案残る95.5%は簡易にできる

提案

軽微な過誤の報告は、できるだけ簡単にする。「なぜ間違えたか」の分析と改善策の欄は外し、何が起きたかだけを短く残す。様式そのものは、会社ごとに決めればいい。そのうえで、月1回まとめて全店舗にフィードバックする。

重大な事案——取り違えや規格間違いで患者に体調変化が出たもの——は、これとは別に、経緯のわかる報告書を維持する。ここを一緒にすると、必ず事故になる。

先に断っておきます。この記事で使う全国データは、日本医療機能評価機構への任意の外部報告を集計したものです。社内で何件報告されているかを示すものではありません。両者は別の行為です。

それでも使うのは、どんな事案が、どんな要因で起きているかは、社内報告にもそのまま当てはまるからです。

以下、事実(出典あり)と現場の見解を分けて書きます。

事実:全国データで分かること、分からないこと

日本医療機能評価機構の「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」は、2024年の1年間で113,185件の報告を集めています。参加薬局は47,449施設(2024年12月31日現在)。

このうち調剤に関するヒヤリ・ハット事例は19,304件。残りの大半は疑義照会の事例です。

ただし、この事業への参加も報告も任意です。だから件数の多寡から「薬局が社内で報告していない」とは言えません。社内では上げているが、機構には出していないという薬局は当然あります。

全国データから分かるのは、件数の絶対量ではなく、「どんな事案が」「どんな要因で」起きているかの内訳です。ここは社内報告にもそのまま当てはまります。以下、その内訳を見ます。

報告の半分は「患者に渡した後・影響なし」

発見場面患者への影響件数
交付前に発見した—9,177
交付後に発見した軽微な治療237
交付後に発見した影響なし9,266
交付後に発見した不明624
合計19,304
出典:日本医療機能評価機構「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業 2024年年報」図表Ⅱ-3-13

「交付後・影響なし」だけで9,266件。調剤事例の48.0%を占めます。

つまり、「たいしたことないから報告しなくていい」と感じる事案が、報告データの本体だということになります。

事業要綱が、軽微な事案を定義に含めている

第十二条 ヒヤリ・ハット事例とは、次の各号に掲げる範囲の事例とする。

一 医療に誤りがあったが、患者に実施される前に発見された事例。

二 誤った医療が実施されたが、患者への影響が認められなかった事例または軽微な処置・治療を要した事例。但し、軽微な処置・治療とは、消毒、湿布、鎮痛剤投与等とする。

三 誤った医療が実施されたが、患者への影響が不明な事例。

第2号が、まさに「体調変化のない軽微な過誤」です。対象外ではなく、定義のど真ん中にあります。

何を間違えているのか

内容件数
薬剤取り違え(異なる成分2,389+同成分1,841)4,230
規格・剤形間違い3,003
計数間違い2,456
レセコンの入力間違い1,791
一包化調剤における間違い954
出典:同年報 図表Ⅱ-3-14「事例の内容」(合計19,304件)から「その他」を除く上位5項目

工程で束ねると、調製および鑑査が14,741件(76.4%)を占めます(薬剤の調製前1,791件、交付2,262件、交付後510件。筆者が同表の件数から算出)。

事実:軽微を集める根拠は、労働安全の側にあります

「些細なものまで報告させて意味があるのか」に対する答えは、医療ではなく労働安全の分野に、90年以上前からあります。ハインリッヒの法則です。

厚生労働省「職場のあんぜんサイト」の安全衛生キーワードは、こう解説しています。

アメリカの損害保険会社の安全技師であったハインリッヒが発表した法則です。「同じ人間が起こした330件の災害のうち、1件は重い災害(死亡や手足の切断等の大事故のみではない。)があったとすると、29回の軽傷(応急手当だけですむかすり傷)、傷害のない事故(傷害や物損の可能性があるもの)を300回起こしている。」というもので、300回の無傷害事故の背後には数千の不安全行動や不安全状態があることも指摘しています。

よく引用される形と、原文は少し違います

「1件の重大事故の裏に29件の軽微な事故と300件のヒヤリ・ハットがある」——この形で紹介されることがほとんどです。ですが原文には、「同じ人間が起こした330件の災害のうち」という限定が付いています。

職場全体の話ではなく、同一人物の中での比率だということです。これは実務にそのまま効きます。同じ人が同じ店舗で繰り返しているうちに止めるのが、いちばん効率がいい。

もう一点。同ページは、ハインリッヒ自身が「この比率について、鉄骨の組立と事務員では自ずから異なっている」と言っていたことにも触れています。薬局に1:29:300がそのまま当てはまるわけではありません。

厚労省自身が「比率の数字ではない」と書いています

同ページは、類似の研究としてバードの事故比率(297社の175万件の事故報告を分析し、1:10:30:600の比率を導出)も挙げたうえで、こう結んでいます。

これらの研究成果で重要なことは、比率の数字ではなく、災害という事象の背景には、危険有害要因が数多くあるということであり、ヒヤリハット等の情報をできるだけ把握し、迅速、的確にその対応策を講ずることが必要であるということです。

「できるだけ把握し」。厚生労働省の解説が、報告を集めること自体を目的として書いています。

つまり、比率を薬局に当てはめて「うちは年○件のはずだ」と計算する使い方は、原文の趣旨から外れます。使えるのは方向だけです——重いものだけ見ていても足りない。軽いものを、できるだけ多く把握する。

そして「できるだけ多く把握する」を実現する手段が、報告書を軽くすることだというのが、この記事の主張です。

ハインリッヒの法則の1対29対300。厚生労働省職場のあんぜんサイトの原文では「同じ人間が起こした330件の災害のうち」1件が重い災害、29回が軽傷、300回が傷害のない事故。同ページは重要なのは比率の数字ではなくヒヤリハット等の情報をできるだけ把握することだと結んでいる
厚生労働省「職場のあんぜんサイト」安全衛生キーワード「ハインリッヒの法則(1:29:300の法則)」

事実:報告の仕組みは、法令と加算の両方に接続している

省令が「店舗→本部→店舗」を求めている

(2)薬局開設者を補佐する者が二以上の薬局の法令遵守体制を確保するために薬局の管理者から必要な情報を収集し、当該情報を薬局開設者に速やかに報告するとともに、当該薬局開設者からの指示を受けて、薬局の管理者に対して当該指示を伝達するための措置

同条は末尾で「前号に規定する体制を実効的に機能させるために必要な措置」とも書いています。情報が上がり、指示が下りる。これは省令が整備を求めている体制です。

加算と認定の要件にもなっている

  • 地域支援・医薬品供給対応体制加算の施設基準「エ 医療安全に関する取組の実施」(ロ)は、薬局機能情報提供制度において「プレアボイド事例の把握・収集に関する取組の有無」を「有」として直近一年以内に都道府県に報告していることを求める(令和8年度 特掲診療料の施設基準等)
  • 地域連携薬局の認定基準にも「薬局開設者が、医療安全対策に係る事業に参加することその他の医療安全対策を講じていること」がある(薬機法第6条の2、施行規則)

よくある間違い

「患者に影響がないから報告しなくていい」

上に見たとおり、事業要綱第12条第2号が正面から対象にしています。影響がなかったのは結果であって、報告するかどうかの基準ではありません。

「モノは合っているから過誤ではない」

入力間違いで薬は正しく出ているが、会計が違っている——これも年報では「レセコンの入力間違い」として1,791件が計上されています。調剤の事例です。

なお会計の誤りは、レセプトの返戻・過誤調整という別のルートでも処理されます。報告ルートが2本あることを、あらかじめ決めておく必要があります。

「改善策の欄まで書かせれば、次は防げる」

発生要因件数
判断誤り9,407
繁忙であった9,037
慣れ・慢心8,322
焦り・慌て5,647
出典:同年報「発生要因」(複数回答、合計68,623件)の上位4項目

上位4つで32,413件。全体の47%です(筆者が同表の件数から算出)。

「忙しかった」「慣れていた」「焦った」から、明日やることは出てきません。全国で68,623件集めても、半分は行動に変換できない情報だった——それが、このデータの意味するところです。

一方で、同じ表にはこういう要因も並んでいます。

発生要因件数
医薬品の名称類似3,866
医薬品や包装の外観類似1,606
出典:同

合わせて5,472件(8.0%)。これは棚を離す、色を変える、システムに警告を出す、で物理的に潰せます。

薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業2024年年報の発見場面と患者への影響。交付前9177件と交付後影響なし9266件を合わせた18443件が調剤事例の95.5%を占め、詳細な報告書が要る軽微な治療237件と不明624件は861件で4.5%にとどまる
日本医療機能評価機構「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業 2024年年報」図表Ⅱ-3-13

現場での工夫(ここからは筆者の見解)

軽微な事案の報告は、できるだけ簡単にする

まず、体制そのものはあります。大手であればあるほど、社内のヒヤリ・ハット収集はしっかりしているという印象を持っています。報告のルートも、集計の担当も、たいていは決まっている。

だから問題は、仕組みがないことではありません。様式が重いままだということです。

様式は会社ごとに決めればいいと思っています。業務システムも、レセコンも、人数も違う。ここで細かい雛形を示すつもりはありません。

提起したいのは、もっと手前のことです。報告書を簡単にすれば、報告は増えるのではないか。

いま多くの薬局で使われている報告書は、経緯を書き、原因を分析し、改善策を立てる、という形をしています。重大な事案にはそれが要る。だが、14錠を28錠にして患者が何ともなかった事案に、同じ様式を使う必要があるでしょうか。

重大でなければ、この程度でもデータになる

たとえば、こういう項目だけでも成り立ちます。

  • いつ
  • 何を間違えたか(薬剤取り違え/規格・剤形/計数/入力/一包化 など)
  • 取り違えた薬剤名(取り違え・規格違いのときだけ、2つ)
  • どこで気づいたか(交付前/交付後)
  • 患者への影響(なし/軽微な治療/不明)
  • 経緯(1〜2行)

分類を年報にそろえておけば、集計したときに自局と全国の割合を直接比べられます。「うちは取り違えが全国平均より多い」という会話ができる。

経緯は要ります。「何が起きたか」は事実なので1〜2行で書ける。外したいのはそのあと——「なぜ間違えたか」と「どう防ぐか」のほうです。

その「なぜ」を聞かない理由は、上に見たとおりです。発生要因の47%は「判断誤り・繁忙・慣れ・焦り」で、そこから明日やることは出てこない。改善策も、書かせれば同じ文章が並びます。

代わりに聞くのは「どれとどれを取り違えたか」。薬剤名を2つ書くだけで、棚を動かす材料になります。日本医療機能評価機構も、年報に「販売名に関する集計」という独立した章を置いて、要因ではなく薬剤名を数えています。

狙いは、分析よりも「報告の癖」

正直に言えば、この程度の項目で精密な分析ができるとは思っていません。

それでも簡単にすべきだと考えるのは、報告する癖がつくことの効果のほうが大きいと思うからです。

年に数件しか上がらない状態と、月に数件上がる状態では、見えるものがまったく違う。まず上がるようにする。分析を精密にするのは、その次でいい。

「影響なし」と「不明」を現場に自己判断させない

年報では「不明」が624件あります。面倒を避けたい心理は、「不明」を「なし」に倒します。判定の基準は本部が持つべきだと考えています。

重大な事案の報告書は、絶対に簡易化しない

取り違えや規格間違いで患者に体調変化が出たものは、経緯のわかる報告書を維持します。ここを軽微と同じ様式にすると、あとで何も分からなくなります。

幸い、分岐点は年報のデータにそのまま入っています。

  • 交付前に発見(9,177)+交付後・影響なし(9,266)=18,443件。調剤事例の95.5%
  • 交付後・軽微な治療(237)+交付後・不明(624)=861件。4.5%

詳細な報告書が要るのは20件に1件以下です。95.5%を簡易にするからこそ、残りに人手を割ける。簡易化は手抜きではなく、配分の話だと考えています。

フィードバックは月1回まとめて、全店舗へ

過誤が起きるたびに都度配信すると、「また来たよ」になります。月1回でも慣れれば同じかもしれませんが、一度に数件読めたほうが効率的だと考えています。

日本医療機能評価機構も「共有すべき事例」を月1回で公表しています。

責任を問わないことを、先に文書にする

報告が上がらない理由は、面倒だけではありません。隠したい、という心理が先にあります。

●情報は匿名化して取り扱う
●懲罰的な取り扱いをしない

2009年に参加登録・事例収集を開始して以来一貫して、情報を匿名化し、懲罰的な取り扱いをしないという考え方で運営しています。

16年続いている設計です。自局のルールに書き写して、先に全員に示しておく。

まとめ

  • 全国データ(機構への任意報告)で分かるのは件数の絶対量ではなく内訳。社内で何件上がっているかは、自社で数えるしかない
  • ハインリッヒの法則は「同じ人間が起こした330件」の比率。厚労省自身が「比率の数字ではなく」「ヒヤリハット等の情報をできるだけ把握し」と書いている
  • 報告されているものの48.0%は「交付後・影響なし」。「たいしたことない」事案が報告の本体
  • 事業要綱第12条第2号が、患者への影響がなかった事例を正面から定義に含めている
  • 発生要因の47%は「判断誤り・繁忙・慣れ・焦り」で、行動に変換できない。「なぜ」は聞かない
  • 代わりに名称類似3,866件・外観類似1,606件——棚とシステムで潰せる要因だけを拾う
  • 軽微はできるだけ簡単に。「なぜ」と改善策の欄は外すが、経緯は1〜2行残す
  • 様式は会社ごとに決めればいい。狙いは精密な分析ではなく、報告の癖をつけること
  • 詳細が要るのは4.5%。残る95.5%を簡易にするから、そこに時間を割ける。重大な事案の報告書は簡易化しない
  • フィードバックは月1回まとめて全店舗へ
  • どんなに些細な事案でも報告し、本社がデータとして集積・分析する。1件では見えないものが、集めると見える
  • 省令(施行規則第15条の11の2)は、店舗から本部へ情報が上がり、本部から指示が下りる体制を求めている

執筆者の一言

若いころ、自分は報告していませんでした。絶対にバレない自信がなければ報告していましたが、98%バレないと思ったら報告しなかった。

これはいけないことでした。はっきりそう書いておきます。

過誤を知るきっかけは、あとから患者さんや医療機関から連絡が来たときでした。同じ店舗で繰り返していても、報告したくなくなる。だから繰り返す前に注意喚起が要る。

いま思うのは、どんなに些細なことでも報告して、本社がデータとして集積し、分析すべきだということです。1件では何も見えなくても、集めれば傾向が出る。傾向が出れば、棚も手順も動かせる。報告を軽くするのは、そのためです。

薬剤師Nori(調剤薬局26年・本部実務経験)

あわせて読みたい

出典

  • 公益財団法人日本医療機能評価機構「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業 2024年年報」
  • 同「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業 事業要綱」(2025年4月)
  • 同「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業 事業のご案内」
  • e-Gov法令検索「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則」第15条の11の2/同法 第6条の2
  • 厚生労働省「令和8年度 特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」地域支援・医薬品供給対応体制加算

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※ 本記事の制度・添付文書に関する記載はすべて原文を確認しており、広告主の影響を受けていません。

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