執筆:Nori(薬Talk編集長・薬剤師)/調剤薬局勤務26年。管理薬剤師を経て、現在はチェーン薬局の本社部門で店舗運営支援を担当しています。
※ 本記事は2026年8月時点の公開情報に基づきます。サービスの機能・提供状況は変更されます。導入検討の際は各社の最新情報をご確認ください。
「電子のお薬手帳って、どれがいいんですか?」
窓口でそう聞かれたとき、自信を持って答えられるでしょうか。私は長いあいだ、自局が採用しているアプリを勧めるくらいしかできませんでした。
調べてみると、この分野には明確な判断基準が制度として存在します。しかも厚生労働省が、条件を満たしたサービスの一覧を公開しています。知らずに勧めていたことを反省しました。
本記事では、薬局が採用を決めるときと患者さんに聞かれたときの両方について、制度上の根拠から判断基準を整理します。
1. 電子版が「お薬手帳」として認められる条件
まず制度の話です。調剤報酬の留意事項通知(令和8年3月5日 保医発0305第6号)に、次の記載があります。
電子版の手帳については、「電子版お薬手帳ガイドラインについて」(令和5年3月31日薬生総発第0331第1号)の「2.運営事業者等が留意すべき事項」を満たした手帳であれば、紙媒体の手帳と同様の取扱いとする。その際、保険薬局においては、同通知の「3.提供施設が留意すべき事項」を満たす必要がある。
ここが判断基準の根拠です。読み解くと、条件が2つに分かれています。
- サービス側の条件——ガイドライン「2. 運営事業者等が留意すべき事項」を満たすこと
- 薬局側の条件——ガイドライン「3. 提供施設が留意すべき事項」を満たすこと
アプリが条件を満たしていても、薬局側が条件を満たしていなければ成立しません。「どのアプリを選ぶか」だけの問題ではない、という点は押さえておく必要があります。
そもそも「手帳」とは何か
同じ通知は、手帳そのものを次のように定義しています。「経時的に薬剤の記録が記入でき、かつ次の①から④までに掲げる事項を記録する欄がある薬剤の記録用の手帳」です。
| ① | 患者の氏名、生年月日、連絡先等 患者に関する記録 |
|---|---|
| ② | 患者のアレルギー歴、副作用歴等 薬物療法の基礎となる記録 |
| ③ | 患者の主な既往歴等 疾患に関する記録 |
| ④ | 患者が日常的に利用する保険薬局の名称、保険薬局又は保険薬剤師の連絡先等 |
通知では、①から③までの欄は薬局が適切に記載されていることを確認することとされています。記載されていない場合は、患者に聴取して記入するか、患者本人による記入を指導します。
④については、患者が自局を日常的に利用しているなら薬局が手帳に記入し、他局を利用しているならその名称と連絡先を記載するよう患者に促す、とされています。
紙でも電子でも、この確認作業は変わりません。電子版だからアプリ任せでよい、ということにはなりません。
2. 厚労省が公開している「電子版お薬手帳サービス一覧」
厚生労働省は、ガイドラインに沿った電子版お薬手帳サービスの一覧を公開しています。各社のチェックシート確認結果へのリンクも掲載されており、機能の充足状況が一覧で確認できます。
この一覧の存在を知っているかどうかで、選定の精度がまったく変わります。各社のセールス資料を並べて比較するより、こちらを起点にしたほうが確実です。
「実装すべき機能」7項目
一覧では、以下7つの機能について充足状況が示されています。
| ① | マイナポータルから提供される薬剤情報等を取り込むことができる機能 |
|---|---|
| ② | 画面に現在使用している医薬品等の処方記録、服薬記録を表示する機能 |
| ③ | 医薬品等の特徴、効能・効果、用法・用量等の情報表示機能 |
| ④ | 医薬品の有効成分を表示する機能 |
| ⑤ | 利用者が秘匿したい情報を指定可能な機能 |
| ⑥ | 一般用医薬品等の登録機能(JANコードの読み取り機能を含む) |
| ⑦ | 利用者による適切な服薬を支援するための服薬管理機能 |
実務の観点で注目すべきは①のマイナポータル連携です。マイナ保険証で閲覧できる薬剤情報を手帳に取り込めるかどうかは、患者にとっての利便性に直結します。一覧上、この項目が「△(デジタル庁に申請中)」となっているサービスも存在します。
また⑤の「利用者が秘匿したい情報を指定可能な機能」は、見落とされがちですが重要です。患者が見せたくない薬剤情報を制御できることは、手帳を継続して使ってもらうための前提になります。
この一覧の読み方に注意
資料の冒頭に、次の但し書きがあります。
本資料は、希望する運営事業者等からの申請に基づき、ガイドラインに沿った電子版お薬手帳サービスをまとめています。
掲載がない=ガイドラインを満たしていない、ということではありません。申請していないだけの可能性があります。一覧にないサービスを検討する場合は、運営事業者に直接確認してください。
3. 一覧を見て気づいたこと
掲載サービスを事業者別に見ていくと、ひとつの構造が見えてきます。
「◯◯薬局お薬手帳」という名前のアプリが多数ありますが、その多くは同一の運営事業者が提供しています。薬局チェーンごとに名前とデザインを変えて提供される形です。
つまり、アプリ名が違っても、基盤が同じことがあります。これは患者さんに説明するとき、また自局の採用を検討するときに知っておくと役立ちます。
- 患者さんに対して——「別のアプリに乗り換えたい」という相談で、実は同じ基盤ということがあり得ます
- 自局の採用検討で——名前が違うだけで機能はほぼ同じなら、比較すべきは機能ではなく自局のレセコン・薬歴との連携やサポート体制です
大別すると、提供元は次の3つに分かれます。
| 類型 | 特徴 |
|---|---|
| システムベンダー系 | 電子薬歴やオンライン服薬指導アプリと同じ事業者が提供。自局システムとの連携が取りやすい |
| 薬局チェーン自社系 | チェーンが自社ブランドで提供。自チェーン内での利便性は高いが、他局での使い勝手は要確認 |
| OEM提供系 | 1つの事業者が多数の薬局チェーン向けに名前を変えて提供。基盤は共通 |
4. 薬局が選ぶときの判断基準
採用を検討する立場では、次の順で見ると整理しやすいと考えています。
- 厚労省の一覧に掲載されているか、チェックシートの確認結果はどうか——ここが出発点。掲載がない場合は事業者に直接確認する
- マイナポータル連携(①)に対応しているか——患者の利便性に直結。「申請中」の場合は時期を確認する
- 自局のレセコン・電子薬歴と連携できるか——一覧の「その他ガイドラインに定められた機能」に「薬局内システムとの連携」の記載があるかを確認し、実際の接続可否は事業者に確認する
- 電子処方箋との連携——同様に一覧の記載を確認する
- 患者側の使い勝手——実際に自分でインストールして使う。これをやらずに勧めている薬剤師が多いと感じます
そして薬局側の条件、すなわちガイドライン「3. 提供施設が留意すべき事項」を満たしているかの確認も必要です。アプリを選ぶだけでは終わりません。
5. 患者さんに聞かれたときの答え方
ここで重要な通知の記載があります。
手帳の媒体(紙媒体又は電子媒体)は患者が選択するものであり、手帳の提供に当たっては、患者に対して個人情報の取扱い等の必要事項を説明した上で、患者の意向を踏まえて提供する媒体を判断すること。
選ぶのは患者さんです。薬局の都合で電子版に誘導するものではありません。そして提供にあたっては、個人情報の取扱いを説明することが求められています。
そのうえで、相談を受けたときは次のように整理して伝えるとよいと考えています。
- 複数の医療機関にかかっている方——マイナポータル連携があるものが便利です。ただし電子版だけに頼らず、災害時などに備えて情報を持ち出せる状態にしておくことも伝えます
- 市販薬もよく使う方——一般用医薬品の登録機能(⑥)があるものが向いています
- 操作に不安がある方——無理に電子版を勧めません。紙のほうが確実に機能します
- 「どれでもいい」と言われたら——自局で連携が取れているものを勧めるのが実務的です。ただしその理由(自局で情報が見られる)を説明します
紙から電子へ切り替えるとき
通知には、切り替え時の薬局の対応についても記載があります。
紙媒体の手帳を利用している患者に対して、患者の希望により電子版の手帳を提供する場合には、電子版の手帳にこれまでの紙媒体の情報を利用できるようにするなど、提供する保険薬局が紙媒体から電子媒体への切り替えを適切に実施できるよう対応すること。
「アプリを入れてください」で終わりではありません。これまでの記録が引き継がれるようにする責任が薬局側にあります。ここは実務として手間がかかる部分ですが、切り替え直後に情報が途切れると、手帳としての意味が失われます。
6. 手帳を持参しなかった患者への対応
あわせて押さえておきたい記載です。患者が手帳を忘れて提示できない場合、通知は次の対応を求めています。
- 手帳に追加すべき事項が記載された文書(シール等)を交付する
- 患者が現に利用している手帳に貼付するよう説明する
- 次回以降に手帳を提示した場合、その文書が貼付されていることを確認する
「シールを渡して終わり」ではなく、次回の確認まで含めて一連の対応とされている点に注意が必要です。
まとめ
- 電子版が紙と同様に扱われる条件は、ガイドライン「2. 運営事業者等が留意すべき事項」を満たすこと。加えて薬局側も「3. 提供施設が留意すべき事項」を満たす必要がある
- 厚労省がサービス一覧を公開している。ただし申請ベースのため、掲載がない=非適合ではない
- 「実装すべき機能」は7項目。実務上はマイナポータル連携と秘匿設定に注目したい
- アプリ名が違っても基盤が同じ場合がある。比較すべきは機能より自局システムとの連携
- 媒体を選ぶのは患者。薬局の都合で誘導しない
- 紙から電子への切り替え時は、これまでの情報を引き継げるようにするのが薬局の役割
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出典
- 厚生労働省「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について」(令和8年3月5日 保医発0305第6号)別添3 調剤報酬点数表に関する事項
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001713883.pdf - 厚生労働省「電子版お薬手帳ガイドラインについて」(令和5年3月31日 薬生総発0331第1号)
https://www.mhlw.go.jp/content/001199653.pdf - 厚生労働省「電子版お薬手帳サービス一覧」
https://www.mhlw.go.jp/content/001257615.pdf - 厚生労働省「電子版お薬手帳」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/e-okusuritecho.html
※ サービス一覧の内容および各サービスの機能は更新されます。採用の判断にあたっては、必ず厚生労働省の最新の一覧と、各運営事業者が公開しているチェックシート確認結果をご確認ください。

