この薬、飲まなくてもいいのではないか。量が多すぎるのではないか。
そう思っても、薬剤師は勝手に変えられません。
理不尽に感じることがあります。目の前の患者さんを見て、薬歴も残薬も把握していて、それでも動かせない。
ただ、条文を並べて読むと、見え方が変わります。
これは理不尽ではなく、設計です。そして薬剤師が動ける道も、ちゃんと用意されています。
出発点は「薬剤師以外は調剤してはならない」
薬剤師でない者は、販売又は授与の目的で調剤してはならない。ただし、医師若しくは歯科医師が次に掲げる場合において自己の処方箋により自ら調剤するとき……は、この限りでない。
調剤は薬剤師の独占業務です。権限を与えられている——まずここから始まります。
ところが次の条文で、その権限に枠がはまります。
変えてはならない。ただし「同意を得た場合を除くほか」
薬剤師は、処方箋に記載された医薬品につき、その処方箋を交付した医師、歯科医師又は獣医師の同意を得た場合を除くほか、これを変更して調剤してはならない。
ここを「変更してはならない」とだけ読むと、詰まります。
正確には「同意を得た場合を除くほか」です。つまり同意さえあれば変更できる。禁じられているのは無断で変えることであって、変えること自体ではありません。
そして条文は、同意をいつ得るかを限定していません。「調剤の直前に」とも「1件ごとに」とも書かれていない。ここが後で効いてきます。
疑義照会は「してもよい」ではなく義務です
薬剤師は、処方箋中に疑わしい点があるときは、その処方箋を交付した医師、歯科医師又は獣医師に問い合わせて、その疑わしい点を確かめた後でなければ、これによつて調剤してはならない。
「問い合わせることができる」ではありません。確かめるまで調剤してはならないと書かれています。
気づいたのに流したら、条文違反です。照会を嫌がられるかどうかは、法律の外の話ということになります。
保険調剤の側からも、同じことが求められています。
保険調剤に当たっては、処方箋が適正かどうか、また、処方されている医薬品が薬価基準収載品目等であり、医薬品医療機器等法承認事項(効能・効果、用法・用量、禁忌等)等により処方されているかの確認が必要である。
上記等について疑義が生じた場合には、必ず保険医に疑義の照会を行うこと。
「必ず」です。
気づく側の義務も、条文になっています
薬剤師は、調剤した薬剤の適正な使用のため、販売又は授与の目的で調剤したときは、患者又は現にその看護に当たつている者に対し、必要な情報を提供し、及び必要な薬学的知見に基づく指導を行わなければならない。
2 薬剤師は、前項に定める場合のほか、調剤した薬剤の適正な使用のため必要があると認める場合には、患者の当該薬剤の使用の状況を継続的かつ的確に把握するとともに……必要な情報を提供し、及び必要な薬学的知見に基づく指導を行わなければならない。
ここを3つ並べると、構造が見えます。
| 条文 | 薬剤師に課しているもの |
|---|---|
| 第25条の2 | 薬学的知見に基づいて気づけ(指導しなければならない) |
| 第24条 | 疑わしければ止めて確かめろ(確かめるまで調剤してはならない) |
| 第23条第2項 | ただし、無断で変えるな(同意を得た場合を除くほか) |
「気づけ」と命じたうえで、「勝手に直すな」と縛っている。
気づいたのに動かせない——あの感覚は、ここから来ています。理不尽なのではなく、そう設計されています。
理由ははっきりしています。診断は医師の権限だからです。薬剤師が見ているのは処方箋であって、診察の全体ではない。だから「気づいて、伝えて、同意を得る」までが薬剤師の役割として区切られています。
では、動ける道はどこにあるのか
ここからが本題です。「同意を得た場合を除くほか」の“同意”を先に取っておく——これが実際に制度化されています。
① 処方箋の「減量した上で情報提供」欄
処方箋にこの欄があります。指示があれば、その場で照会しなくても日数を減らせます。
「調剤する薬剤を減量した上で保険医療機関に情報提供」の欄にその旨の指示がある処方箋を受け付けた場合は、調剤録又は薬剤服用歴の記録等……及び残薬の外形状態・保管状況その他の残薬の状況を確認した上で、処方箋に記載された医薬品について、用法及び用量の変更は行わずに投与日数等を減らす調剤(以下「減数調剤」という。)を、必要に応じて行うこと。
これは「事前の同意」です。医師があらかじめチェックを入れておけば、薬剤師が残薬を確認して日数を決められる。23条2項の枠内で、薬剤師が動いています。
条件は2つ。用法・用量は変えない(減らすのは日数だけ)。そして翌営業日までに医療機関へ情報提供することです。
② 調剤時残薬調整加算
照会して日数を変えたとき、点数が付きます。「変えたこと」が評価されているということです。
……残薬の調整のために7日分以上相当の調剤日数の変更が行われた場合……は、調剤時残薬調整加算として……所定点数に加算する。ただし、保険薬剤師が患者の服薬状況等により必要性があると判断し、処方医の指示又は処方医に対する照会の結果に基づき、6日分以下相当の調剤日数の変更が行われた場合には、その理由を調剤報酬明細書に記載することで算定可能とする。
イ〜ハ 50点/ニ イからハまで以外の場合 30点
6日分以下でも、理由を書けば算定できます。薬剤師の判断が点数として認められている場面です。
ただし歯止めもあります。
……処方医が同意していることのみをもって6日分以下相当の処方日数の変更を行う場合も算定できない。
「医師がいいと言ったから」では足りない。薬学的な理由が要る——ここでも、薬剤師自身の判断が求められています。
③ リフィル処方箋
症状が安定している患者について、同じ処方箋で最大3回まで調剤できます。
保険薬局の保険薬剤師は、リフィル処方箋により調剤を行うに当たって、患者の服薬状況等の確認を行い、リフィル処方箋により調剤を行うことが不適切と判断した場合には、調剤を行わず、受診勧奨を行うとともに、処方医に情報提供を行う。
ここは大きいと思います。「調剤しない」という判断が、薬剤師に与えられています。
処方箋があるのに調剤せず、受診を勧める。これは薬を減らすより踏み込んだ判断です。
整理すると、こうなります
| やりたいこと | できるか | 根拠 |
|---|---|---|
| 気づいたことを黙っている | できない | 25条の2(指導義務) |
| 疑わしいまま調剤する | できない | 24条(確かめた後でなければ) |
| 無断で変更する | できない | 23条2項 |
| 照会して同意を得て変更する | できる | 23条2項(同意を得た場合を除くほか) |
| 事前指示に基づいて日数を減らす | できる | 処方箋の「減量した上で情報提供」欄 |
| リフィルで調剤せず受診を勧める | できる | 留意事項通知(不適切と判断した場合) |
「できない」のは無断でやることだけです。
照会で関係が悪くなる、という問題
ここは法律では解けません。
照会すると不機嫌になる医師がいる。それが積み重なると、照会そのものが億劫になる。この摩擦は実在します。
ただ、制度はその摩擦を減らす方向に動いています。
- 処方箋に「減量した上で情報提供」欄がある——1件ごとの電話を減らすための仕組みです
- リフィル処方箋——薬剤師の継続確認を前提にしています
- 調剤時残薬調整加算——変えたことを点数で評価しています
いずれも「その都度お伺いを立てる」から「先に枠を決めておく」への移行です。
1件ずつ電話する関係のままだと、摩擦は減りません。欄を使ってもらえるよう処方元に働きかけることが、遠回りに見えて近道だと思います。
それでも、最後は薬剤師が決めます
2019年の通知に、こう書かれています。
……なお、この場合であっても、調剤した薬剤の最終的な確認は、当該薬剤師が自ら行う必要があること。
機械化が進んでも、事務に任せられる範囲が広がっても、最終的な確認だけは薬剤師が自ら行う。ここは動いていません。
同じ通知の前文には、目的も書かれています。
薬剤師の行う対人業務を充実させる観点から、医薬品の品質の確保を前提として対物業務の効率化を図る必要があり……
対人業務を充実させるために、対物を効率化する。国が示している方向は一貫しています。
まとめ
- 薬剤師法第23条第2項は「変更するな」ではありません。「同意を得た場合を除くほか」——禁じられているのは無断の変更です
- 条文は同意をいつ得るかを限定していません。だから「事前の同意」が成り立ちます
- 第24条の疑義照会は義務。「確かめた後でなければ調剤してはならない」と書かれています
- 第25条の2は「気づけ」と命じています。気づく義務と、勝手に直せない制約が同時にある——これが窮屈さの正体です
- 処方箋の「減量した上で情報提供」欄があれば、その場で照会せずに日数を減らせます(用法・用量は変えない/翌営業日までに情報提供)
- 調剤時残薬調整加算は6日分以下でも算定可。ただし「医師が同意しているだけ」では不可——薬学的理由が要ります
- リフィル処方箋では「調剤しない」判断ができます。不適切と判断したら調剤せず受診勧奨
- 最終的な確認は、いまも薬剤師が自ら行う(0402通知)
「飲まなくていいと思っても言えない」——その感覚は正しいのですが、言えないのではなく、言ったうえで同意を取る手順が決まっている、というのが条文の姿です。
そして先に同意を取っておく仕組みが、いくつも用意されています。使われていないだけかもしれません。
