不妊治療のクリニックから、バイアスピリン錠100mgの処方が来ることがあります。
「適応外だな」と思いながら、そのまま出していないでしょうか。問題は適応外だけではありません。添付文書を開くと、妊娠後期は禁忌になっています。
効能又は効果に、不妊治療も妊娠高血圧症候群もありません
まず原文を確認します。
○下記疾患における血栓・塞栓形成の抑制
・狭心症(慢性安定狭心症、不安定狭心症)
・心筋梗塞
・虚血性脳血管障害(一過性脳虚血発作(TIA)、脳梗塞)
○冠動脈バイパス術(CABG)あるいは経皮経管冠動脈形成術(PTCA)施行後における血栓・塞栓形成の抑制
○川崎病(川崎病による心血管後遺症を含む)
3区分です。不育症も、不妊治療も、妊娠高血圧症候群も入っていません。産科領域で出ているものは、すべて適応外使用ということになります。

適応外では済みません。妊娠後期は禁忌です
禁忌の項を見てください。
2.1 本剤の成分又はサリチル酸系製剤に対し過敏症の既往歴のある患者
2.2 消化性潰瘍のある患者
2.3 出血傾向のある患者
2.4 アスピリン喘息(非ステロイド性消炎鎮痛剤等による喘息発作の誘発)又はその既往歴のある患者
2.5 出産予定日12週以内の妊婦[9.5.1参照]
2.6 低出生体重児、新生児又は乳児[9.7.1参照]
2.5です。理由は9.5.1に書かれています。
投与しないこと。妊娠期間の延長、動脈管の早期閉鎖、子宮収縮の抑制、分娩時出血の増加につながるおそれがある。海外での大規模な疫学調査では、妊娠中のアスピリン服用と先天異常児出産の因果関係は否定的であるが、長期連用した場合は、母体の貧血、産前産後の出血、分娩時間の延長、難産、死産、新生児の体重減少・死亡などの危険が高くなるおそれを否定できないとの報告がある。また、ヒトで妊娠末期に投与された患者及びその新生児に出血異常があらわれたとの報告がある。さらに、妊娠末期のラットに投与した実験で、弱い胎児の動脈管収縮が報告されている。
「出産予定日12週以内」は、いつからか
添付文書の書き方は「出産予定日12週以内」で、妊娠週数では書かれていません。ここを週数に読み替えているのが、日本産婦人科医会の研修ノートです。
アスピリンは胎盤を通過し、その血小板凝集能抑制は不可逆的である。
添付文書には、動脈管早期閉鎖、子宮収縮抑制のリスクのため妊娠28週以降の使用は禁忌とされている。
海外の大規模研究では、胎児や新生児の死亡、子宮内胎児発育遅延、母体と新生児の出血のリスクはみられていない。
「妊娠28週以降」です。添付文書そのものにこの数字はありませんが、医会がこう換算しています。薬局が週数で確認するときの目安になります。
あわせて押さえておきたいのが、最初の一文です。血小板凝集能の抑制は不可逆的。中止してもすぐには戻りません。新しい血小板が出てくるのを待つことになります。
12週より前なら自由、でもありません
治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。シクロオキシゲナーゼ阻害剤(経口剤、坐剤)を妊婦に使用し、胎児の腎機能障害及び尿量減少、それに伴う羊水過少症が起きたとの報告がある。動物実験(ラット)で催奇形性作用があらわれたとの報告がある。妊娠期間の延長、過期産につながるおそれがある。
「有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ」です。妊娠初期・中期も、無条件ではありません。
そして授乳期。
授乳中の女性には本剤投与中は授乳を避けさせること。母乳中へ移行することが報告されている。
「注意」ではなく「避けさせること」です。出産後も続いている処方があれば、ここは確認する価値があります。
産科側は、どう考えているのか
添付文書だけ見ていると「なぜ出すのか」になります。産科側の資料を当たりました。
抗リン脂質抗体症候群には、明確な位置づけがあります
改訂札幌APS分類基準を満たす抗リン脂質抗体症候群に対しては低用量アスピリン(1日81〜100mg)+ヘパリンカルシウム(5000 IU×2/朝・夕 皮下注)が基本的な治療法である。
(枠囲みの提言)低用量アスピリン+ヘパリンカルシウム併用療法を行う。低用量アスピリンは妊娠前からの投与を推奨する。
用量は1日81〜100mg。開始は妊娠前から。ここははっきりしています。
この提言には、「中止」「28週」「36週」という語が一度も出てきません。いつまで続けるかは書かれていない、ということになります。
一方で添付文書は、出産予定日12週以内を禁忌にしています。始める話はあるのに、止める話がない。——ここが薬局から見た空白です。
それ以外は「なんとなくアスピリン」だと、医会が書いています
踏み込んだ書き方をしているのが、日本産婦人科医会の研修ノートです。
不育症に対して“なんとなくアスピリン”が使用され始めたのは、夫リンパ球免疫療法の有効性が否定された1999年頃である。
医師も患者も無難なアスピリンを投薬したと推測される。
無治療でも既往流産が2回では80%、3回では70%、4回では60%、5回では50%が次回妊娠の継続が可能である。
学会側の資料が「不必要に投与されている症例が多い」と見出しに掲げています。そして適応についても、線がはっきり引かれています。
抗リン脂質抗体症候群に該当する習慣流産の患者にヘパリン・アスピリン併用療法として用いる場合にのみ保険適用とされている。
ほかの理由で用いる場合はすべて研究的治療である。「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」を遵守し、適応外使用として施設内倫理委員会の承認を得て、「測定と治療が出産率に貢献するかはわからない」ことを説明したうえで、同意書を取得して行うことが、厚生労働省、文部科学省の指針に示されている。
APS以外は「すべて研究的治療」。倫理委員会の承認と同意書が要る、という整理です。
保険の扱いは、思ったほど固まっていません
「保険適用とされている」と書かれていたので、社会保険診療報酬支払基金の「審査情報提供事例(薬剤)」を全文(616ページ)で確認しました。適応外使用のうち、審査上認めるものが列挙されている資料です。
| 成分 | 掲載されている使用例 |
|---|---|
| ヘパリンナトリウム | 抗リン脂質抗体症候群合併妊娠に対し処方した場合、審査上認める |
| ヘパリンカルシウム | 抗リン脂質抗体症候群合併妊娠に対して処方した場合、審査上認める (その他参考資料等:産婦人科診療ガイドライン) |
| アスピリン | 「網状皮斑に対して血栓・塞栓形成の抑制量程度」の1件のみ ——抗リン脂質抗体症候群合併妊娠の事例は掲載されていない |
ヘパリンには事例があり、アスピリンにはありません。
この資料は代表的な事例を公開したもので、これがすべてではありません。実際の審査は個別に判断されます。それでも——公開された事例の上では、アスピリンのAPS合併妊娠は裏づけがないということになります。
「保険で通る/通らない」を薬局が断定することはできません。
ただ、ヘパリンとアスピリンで公開事例の有無が違うことは、知っておいて損がありません。レセプトの返戻理由を読むときの材料になります。
薬局で確認すること
① 妊娠しているか、何週か——「出産予定日12週以内」に入っていないか(医会の換算では妊娠28週以降)
② いつまで飲む指示か——中止時期の指示が出ているか。提言には書かれていない部分です
③ ヘパリンが併用されているか——APSなら併用が基本。アスピリン単独なら、目的が違う可能性があります
④ 出産後も続いていないか——添付文書は授乳を避けさせることを求めています
②がいちばん効きます。「いつまで」を聞くのは、処方を否定することになりません。不可逆的に血小板を抑える薬なので、分娩に向けた中止時期は本来決まっているはずのものです。
そして疑義照会するなら、「適応外ですが」ではなく「出産予定日12週以内は禁忌ですが、中止時期はいつでしょうか」と聞くほうが噛み合います。適応外は承知のうえで出している処方なので。
ついでに押さえておくと得なこと
川崎病では、桁が違います
〈川崎病(川崎病による心血管後遺症を含む)に使用する場合〉
急性期有熱期間は、アスピリンとして1日体重1kgあたり30〜50mgを3回に分けて経口投与する。解熱後の回復期から慢性期は、アスピリンとして1日体重1kgあたり3〜5mgを1回経口投与する。
抗血小板の100mg/日とは、まったく別の薬のような用量です。急性期は抗炎症量、解熱後に抗血小板量へ落とす。体重10kgなら急性期300〜500mg/日、回復期30〜50mg/日です。
ライ症候群の記載は、いまも残っています
サリチル酸系製剤の使用実態は我が国と異なるものの、米国においてサリチル酸系製剤とライ症候群との関連性を示す疫学調査報告があるので、本剤を15歳未満の水痘、インフルエンザの患者に投与しないことを原則とするが、やむを得ず投与する場合には、慎重に投与し、投与後の患者の状態を十分に観察すること。
川崎病でアスピリンを飲んでいる小児が、冬にインフルエンザや水痘にかかることはあります。その時期の対応が決まっているかは、確認しておく価値があります。
まとめ
- ◻️ 効能又は効果は3区分(血栓・塞栓形成の抑制/CABG・PTCA施行後/川崎病)。不妊治療も妊娠高血圧症候群もない
- ◻️ 出産予定日12週以内の妊婦は禁忌(2.5)。理由は動脈管の早期閉鎖、子宮収縮の抑制、分娩時出血の増加(9.5.1)
- ◻️ 日本産婦人科医会は、これを「妊娠28週以降の使用は禁忌」と換算して記載している
- ◻️ 12週より前も「有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ」(9.5.2)
- ◻️ 授乳は「避けさせること」(9.6)
- ◻️ APSには低用量アスピリン81〜100mg+ヘパリンカルシウム、妊娠前から(不育症管理に関する提言2025)
- ◻️ ただし提言に「中止」の記載はない。始める話はあるのに、止める話がない
- ◻️ 医会はAPS以外を「すべて研究的治療」とし、倫理委員会承認と同意書を求めている
- ◻️ 支払基金の公開事例に、ヘパリンのAPS合併妊娠はあるがアスピリンにはない
- ◻️ 血小板凝集能の抑制は不可逆的。中止してもすぐには戻らない
疑義照会するかどうかより先に、「いつまで飲むのか」を聞けているかだと思います。そこだけは、添付文書にも提言にも答えが書かれていないので。
参考にした一次資料
- バイアスピリン錠100mg 添付文書(2026年1月改訂 第4版)2./4./6./9.5.1/9.5.2/9.6/9.7.4(PMDA 医療用医薬品情報検索)
- 「不育症管理に関する提言2025」(「不育症管理に関する提言」改訂委員会/令和7年5月13日改訂。令和6年度こども家庭行政推進調査事業費補助金 成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業)
- 日本産婦人科医会 研修ノート No.99「流産のすべて」2.低用量アスピリン療法の適応について
- 社会保険診療報酬支払基金「審査情報提供事例(薬剤)」

