管理薬剤師の意見書は、本社で記録されている|薬機法第9条第2項と、店舗から本社に移った3年

管理薬剤師で止まっていた私が、本社で報酬改定と価格交渉を任されるまで|転職して3年、最初の仕事はラウンダーでした 薬局実務
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執筆:Nori(薬Talk編集長・薬剤師)/調剤薬局勤務26年。管理薬剤師を経て、現在はチェーン薬局の本社部門で店舗運営支援を担当しています。

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管理薬剤師になって数年で、行き止まりだと感じました。上はエリアマネージャーか、独立か。どちらも自分ではない気がした。本社の仕事がしたくて転職しました。

ただ、正直に書きます。移った初日から本社にいたわけではありません。最初はラウンダーで、思い描いた仕事が来るまで3年かかりました。いまは報酬改定の対応と、医薬品の価格交渉を任されています。

この記事は、本社側に回って初めて条文の意味が分かった部分を中心に書きます。管理薬剤師のときに知っておきたかったことです。

書面管理薬剤師の意見は口頭では足りない薬機法 第8条第2項
記録意見に応じない場合も理由を残す義務薬機法 第9条第2項
1/2妥結率5割以下なら調剤基本料が半分調剤基本料 注4

「管理薬剤師で止まる」は、気のせいではありません

まず、この感覚は正しいということを書いておきます。

管理薬剤師は薬機法上の役職です。薬局には必ず1人置かなければなりません。

第2項 薬局開設者が薬剤師でないときは、その薬局において薬事に関する実務に従事する薬剤師のうちから薬局の管理者を指定してその薬局を実地に管理させなければならない。

第4項 薬局の管理者……は、その薬局以外の場所で業として薬局の管理その他薬事に関する実務に従事する者であつてはならない。ただし、その薬局の所在地の都道府県知事の許可を受けたときは、この限りでない。

第4項が、構造をよく表しています。管理薬剤師は「その薬局に張り付く」ことを法律が要求している役職です。複数店舗を見る立場は、原則として想定されていません。

そして法律に定められているのは「薬局の管理者」までです。その上に「主任管理薬剤師」のような段は、条文に存在しません。

だから店舗に居続ける限り、肩書きの上がり方が構造的にない。——「止まっている」と感じるのは、実際に止まっているからです。管理薬剤師そのものの法的な位置づけは管理薬剤師になると何が変わるかに書きました。

店舗から先に進む道は、実際には3つくらいしかありません。

進み方実際のところ
エリアマネージャー店舗管理の延長。数字と人の管理が中心になる
独立・開局資金と立地。いまは新規の開局環境が厳しい
本社部門報酬改定、薬事、価格交渉、教育、システム。求人票には載りにくい

私が選んだのは3つ目です。そして、これがいちばん見えにくい道でした。

本社に来て初めて分かった、管理薬剤師の権限の重さ

ここが、この記事でいちばん書きたいところです。

管理薬剤師の義務として、第8条第2項にこうあります。

薬局の管理者は、保健衛生上支障を生ずるおそれがないように、その薬局の業務につき、薬局開設者に対し、必要な意見を書面により述べなければならない。

「述べることができる」ではありません。「述べなければならない」で、しかも書面です。

店舗にいたころは、この条文を「形式的なもの」だと思っていました。受け取る側に回って、認識が変わりました。対になる条文があるからです。

薬局開設者は、第7条第1項ただし書又は第2項の規定によりその薬局の管理者を指定したときは、第8条第2項の規定により述べられた薬局の管理者の意見を尊重するとともに、法令遵守のために措置を講ずる必要があるときは、当該措置を講じ、かつ、講じた措置の内容(措置を講じない場合にあつては、その旨及びその理由)を記録し、これを適切に保存しなければならない。

かっこ書きを読んでください。「措置を講じない場合にあつては、その旨及びその理由」。

つまり開設者は、管理薬剤師の書面意見に応じないときでも、応じない理由を記録して保存しなければなりません。握りつぶすという選択肢が、法律上ありません。

さらに第9条の2が、権限そのものを明らかにしろと言っています。

第1項第1号 薬局の管理に関する業務について、薬局の管理者が有する権限を明らかにすること。

第2項 薬局開設者は、前項各号に掲げる措置の内容を記録し、これを適切に保存しなければならない。

本社部門の仕事の半分は、正直に言えばこの条文の受け皿をつくることです。誰がどこまで決められるかを文書で定め、現場からの書面意見を受け、対応を記録して残す。

だから管理薬剤師の皆さんに伝えたいのは、これです。書面で出してください。口頭は記録に残らず、第9条第2項のスイッチが入りません。書面にした瞬間、会社側に記録と保存の義務が発生します。

薬機法第7条第2項・第4項、第8条第2項、第9条第2項、第9条の2の条文。管理薬剤師は書面で意見を述べる義務があり、開設者は措置を講じない場合でもその旨と理由を記録し保存しなければならない
e-Gov法令検索「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」第7条・第8条・第9条・第9条の2

正直に書きます。最初の仕事は、思っていたものではありませんでした

転職して最初に任されたのはラウンダーでした。担当店舗を回って、現場の状況を見て、本社に上げる。

正直に言えば、「これをやりに来たわけではない」と思いました。店舗を回るなら、管理薬剤師のときとやっていることが大きくは変わらない。肩書きだけ変わって、中身は同じではないかと。

いま振り返ると、あの期間に意味がありました。本社の仕事は、現場を知らないとできないからです。

  • 店舗ごとの「できる・できない」が分かる——本社が施策を出しても、動かない店には理由があります。回っていないと、その理由が見えません
  • 誰に聞けば分かるかが分かる——本社に上がったあと、電話1本で現場の実態が取れるのは、この時期に顔を合わせたからです
  • 数字の裏側が分かる——本社には数字が上がってきます。その数字がどう作られたかを知っているかどうかで、判断がまったく変わります

遠回りに見えた期間が、後の仕事の土台になっていました。当時の私はそう思えていませんでしたが。

仕事① 診療報酬改定への対応

2年に1度、点数表と施設基準が全部変わります。告示と通知が出てから施行まで、実質2〜3か月しかありません。

やることは、たとえばこういうことです。

  • ◻ 告示・通知の原文を読んで、自社に影響する項目を洗い出す
  • ◻ 施設基準の届出を、店舗ごとに取り直すか判断する
  • ◻ 調剤基本料の区分が変わる店舗を特定する(変われば点数が大きく動きます)
  • ◻ レセコンの設定変更を、ベンダーと詰める
  • ◻ 全店に伝わる資料に落として、研修する

原文を読む仕事です。解説記事を待っていては間に合いません。店舗にいたころ「本社から降りてきていた資料」を、いまは作る側にいます。

参考までに、改定の全体像は2026年度調剤報酬改定まとめ、基本料の区分は調剤基本料にまとめています。この2つが読めれば、本社の仕事の入口は見えます。

仕事② 医薬品の価格交渉|「値引き交渉」ではありません

もう1つがこれです。薬剤師の免許とは直接関係ない仕事に見えますが、実際にはそうでもありません。

まず、なぜ交渉が点数に効くのか。妥結率が5割以下だと、調剤基本料が半分になります。

次のいずれかに該当する保険薬局は注4の規定により、調剤基本料を100分の50に減算する。

(1) 当該保険薬局における医療用医薬品の取引価格の妥結率が5割以下であること。

(2) 当該保険薬局における医療用医薬品の取引価格の妥結率、医療用医薬品の取引に係る状況及び流通改善に関する取組状況について、地方厚生(支)局長に報告していない保険薬局であること。

妥結率の定義も、通知に計算式が書かれています。

妥結率=卸売販売業者……と当該保険薬局との間での取引価格が定められた医療用医薬品の薬価総額(各医療用医薬品の規格単位数量×薬価を合算したもの)/当該保険薬局において購入された医療用医薬品の薬価総額

「妥結率」の報告における妥結とは、取引価格が決定しているものであり、契約書等の遡及条項により、取引価格が遡及し変更することが可能な場合には未妥結とする。また、取引価格は決定したが、支払期間が決定しないなど、取引価格に影響しない契約事項が未決定の場合は妥結とする。

遡及条項があると未妥結扱い。ここは実務で効きます。「価格は決まったが、あとで遡って直せる」契約は、妥結としてカウントできません。

報告と適用のスケジュールも決まっています。

項目内容
実績の算定期間報告年度の当年4月1日から9月30日まで
報告の時期毎年10月1日から11月末日までに、様式85で地方厚生(支)局長へ
適用される期間翌年6月1日から翌々年5月31日まで
根拠資料契約書の写し等は報告の際の添付は不要。ただし薬局において適切に保管する
出典:令和8年度 特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて 第91の2(2)、第1の(14)

「単品単価交渉」に該当しない4つの型

いま求められているのは単品単価交渉です。定義も、該当しない例も、通知に書かれています。

「単品単価交渉」とは、他の医薬品の価格の影響を受けず、地域差や個々の取引条件等により生じる安定供給に必要なコストを踏まえ、取引先と個別品目ごとに取引価格を決める交渉をいい……

そして、個別品目ごとに価格を決めていても単品単価交渉に該当しないケースが、4つ列挙されています。

単品単価交渉に該当しない交渉(原文)
ア総価値引率を用いた交渉(総価交渉や総価交渉除外有りを含む。)
イ全国最低価格に類する価格をベンチマークとして用いた交渉
ウベンチマークを用いた交渉のうち、配送コストなどの地域差及び購入金額、支払条件、返品、急配等の取引条件を考慮していない単価をベンチマークとし、当該価格で決定する一方的な交渉
エ法人格・個人事業主が異なる加盟施設との取引価格の交渉を一括して受託する業者の価格交渉について、加盟施設ごとの地域差や取引条件等を考慮しない取引価格での交渉や加盟施設の確認が行われない交渉
出典:同 6(2)ア〜エ

エが、価格交渉代行を使っている薬局に直接効きます。一括受託そのものが否定されているのではなく、「加盟施設ごとの地域差や取引条件等を考慮しない」「加盟施設の確認が行われない」交渉が該当しない、という書き方です。

判定方法も具体的です。

直近に地方厚生(支)局長等に届け出た別添2の様式85(妥結率等に係る報告書)の3の(1)において、「単品単価交渉を行っていない」に非該当であることで本要件を満たすものとして取り扱う。様式85を地方厚生(支)局長等に届け出ていない場合は本要件を満たさないものとして取り扱う。

ここで効いてくるのが薬の知識です。どの品目が動くのか、供給不安はどれか、後発品の採用をどう組むのか——薬を知らない人間には、単品ごとの判断ができません。

「薬剤師なのに事務仕事」ではありませんでした。薬剤師だからできる交渉です。詳しくは単品単価交渉と価格交渉の代行に書いています。

店舗と本社で、いちばん変わったこと

給与でも肩書きでもありません。効く範囲が変わりました。

管理薬剤師本社
届く範囲自分の店の患者さんとスタッフ全店
手応えその日のうちに返ってくる返ってくるまで数か月かかる
失敗の重さその場で謝って直せる全店に間違いが配られる
患者さんとの距離毎日会う会わなくなる

4行目は、覚悟しておいたほうがいいところです。

「ありがとう」と言われる機会が、はっきり減ります。店舗にいたころ、その一言でやっていた部分は確実にありました。本社の仕事は、うまくいっても誰にも気づかれません。間違えたときだけ連絡が来ます。

それでも私が納得しているのは、効く範囲が桁違いだからです。1店舗で気づいた改善は1店舗で終わりますが、本社で作った手順は全店で動きます。患者さんの顔は見えなくなりましたが、届いている人数は増えました。

どちらが上ではありません。手応えを取るか、範囲を取るか。——選ぶのはそこだと思います。

動く前に、見ておいたほうがいいこと

勇気の話の前に、確認できることを確認しておくと不安は減ります。本社部門がある会社かどうかは、外から分かります。

  • 店舗数を見る——本社に専任部門が置けるかは規模で決まります。数店舗の会社に「本社の仕事」は存在しません
  • 調剤基本料の区分を見る——求人票の情報から逆算できます。求人票の読み方に手順を書きました
  • 届出を見る——地方厚生局が公表しています。加算をどれだけ取っているかで、本社の統制が効いているかが分かります
  • 様式85を出しているか聞く——単品単価交渉の要件は、様式85の届出がないと満たせません。価格交渉を本社が握っている会社かどうかの、外から確認できる指標になります
  • 面接で「本社の仕事に移る人はいますか」と聞く——実例が挙がらなければ、その道は用意されていません

最後が一番大事です。「将来的には可能性があります」は、実例がないという意味のことがあります。「直近3年で何人いましたか」と聞くと、はっきりします。

地域の求人状況が気になる方は、薬剤師はどこが足りないのかに厚労省の偏在指標を47都道府県分まとめています。足りない地域ほど、条件は交渉できます。

勇気が出ない人へ

私が動けなかった理由は、たぶん多くの人と同じです。いまの店を回せているという自負と、それを手放す怖さでした。

実際に移ってみて分かったことを、3つ書きます。

1.積み上げたものは、無駄になりませんでした

管理薬剤師の経験は、本社でそのまま使えます。施設基準の届出を自分でやったことがある。個別指導を受けたことがある。監査でどこを見られるか知っている。——これは机の上では身につきません。

「管理薬剤師止まり」だと思っていた経歴が、本社では前提条件でした。

2.3年かかりました。でも3年で来ました

入ってすぐ希望の仕事が来る、ということはありませんでした。1年目は何も変わらないように感じます。ここで辞めていく人もいます。

ただ、薬剤師の職業人生は40年あります。3年は13分の1です。止まったまま10年過ごすほうが、よほど長い。

3.戻れます

これが一番言いたいところです。薬剤師免許は消えません。合わなければ調剤に戻れます。失うのは時間だけで、資格は失いません。

他業種の転職と、ここが決定的に違います。私たちは、退路のある挑戦ができる職業です。

管理薬剤師で止まっていると感じているなら、その感覚は正しい。制度上、そこは終点だからです。でも職業人生の終点ではありません。

まとめ

  • 「管理薬剤師で止まる」は気のせいではない。薬機法が定めているのは「薬局の管理者」までで、その上の段は条文に存在しない。第7条第4項は他店舗での業務従事も原則禁じている
  • 管理薬剤師の意見は「書面により述べなければならない」(第8条第2項)。義務であり、口頭では足りない
  • 開設者は意見を尊重し、措置を講じない場合でもその旨と理由を記録・保存しなければならない(第9条第2項)。書面にした瞬間、会社側に記録義務が発生する
  • 第9条の2は「薬局の管理者が有する権限を明らかにすること」を求めている。本社部門の仕事の半分は、この受け皿づくり
  • 店舗から先はエリアマネージャー/独立/本社部門の3つ。本社部門は求人票に載りにくい
  • 移った初日から本社ではなかった。最初はラウンダー。本社の仕事は現場を知らないとできない
  • 妥結率5割以下なら調剤基本料が100分の50に減算。遡及条項のある契約は未妥結扱い
  • 単品単価交渉に該当しない4類型——総価値引率/全国最低価格ベンチマーク/地域差・取引条件を考慮しない一方的交渉/加盟施設の確認が行われない一括受託交渉
  • 価格交渉は薬剤師だからできる仕事。どの品目が動くか、供給不安はどれか——薬を知らないと単品の判断ができない
  • 「ありがとう」と言われる機会は減る。手応えを取るか、届く範囲を取るか。どちらが上ではない
  • 面接で「直近3年で本社に移った人は何人ですか」と聞く。実例が挙がらなければ、その道は用意されていない
  • 合わなければ戻れる。薬剤師免許は消えない。失うのは時間だけ。3年は職業人生40年の13分の1だった

※ 本記事のうち経歴・心境に関する部分は筆者個人の経験に基づくものです。会社の規模・方針により、本社部門の有無や配属の考え方は大きく異なります。※ 法令・通知に関する記載は、末尾の出典の原文を確認しています。※ 転職の判断はご自身の状況に応じて行ってください。本記事は特定の企業・サービスを推奨するものではありません。

出典

  • e-Gov法令検索「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(昭和35年法律第145号)第7条、第8条、第9条、第9条の2
  • 厚生労働省「令和8年度 特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」第91(調剤基本料の注4に規定する保険薬局)、地域支援・医薬品供給対応体制加算 6(2)、第1の(14)
  • 厚生労働省「医療用医薬品の流通改善に向けて流通関係者が遵守すべきガイドライン」(上記施設基準通知が参照している)

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株式会社メディカルリソースが運営する薬剤師専門サービスです(2000年設立)。転職だけでなく「派遣」を扱っているのが特徴で、有料職業紹介(13-ユ-010743)と労働者派遣(派13-010770)の両方の許可を持っています。拠点は全国12支店。運営元は日本調剤グループです——選ぶ材料になるので書いておきます。

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※ 本記事の制度・添付文書に関する記載はすべて原文を確認しており、広告主の影響を受けていません。

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